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50 尋問

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 連れていかれた先は、牢だった。一応ルフィナの身分を考えてか、貴人用の牢と思われる。それでも殺風景な部屋の中には机と椅子以外には簡素なベッドしかないし、牢の内と外にそれぞれ見張りが立っている。
 ルフィナをここまで連れてきた男が尋問を担当するらしく、乱暴な仕草で目の前に座る。そして、まるで威圧するかのように机の上に身を乗り出した。
「さて、どうしてここに連れてこられたか、お分かりですよね」
 ぞんざいな口調で尋ねられ、ルフィナは唇を硬く引き結ぶ。きっとこの男も、強く出れば泣き出してすぐに自白するとでも思っているのだろう。残念ながら、ルフィナはそんなことで折れるほど弱い心は持っていない。
 ドレスの上からそっとネックレスに触れ、ルフィナはカミルを想う。身につけているだけで、彼がそばにいてくれるような気がする。それに『折れない心』というリリベルの花言葉があれば、負けることはない。
 一度目を閉じて心を落ち着かせると、ルフィナは男をまっすぐに見つめ返した。
「いいえ、何のことか全く分かりません」
「ふん、白々しい。こちらには証拠があるんですよ。だから反対だったんだ、国外の……それもほとんど交流のなかったホロウードとの政略結婚なんて」
 吐き捨てるように言った男は、机をバンと強く叩くとルフィナをにらむように見た。
「最初から、そのつもりだったんだろう。無害そうな見た目で油断させて、我が国を乗っ取るつもりだったのか」
「ですから、私には何の疚しいこともありませんし、心当たりもありません」
「ふざけるな、証拠があると言っただろう。我が国の軍事機密を手紙にしたためて、ホロウードに届けようとしていたくせに」
「手紙……?」
 書いた覚えのない話に、ルフィナは眉を顰める。それを見て、男はまた白々しいと舌打ちをしたが。
「ホロウードのヴァルラム王太子に宛てた、あんたのサインが入った手紙が見つかった。下働きの男を金で雇い、ホロウード行きの船に手紙を届けろと命じただろう。残念ながら、我が国の騎士は優秀だからな。不審な動きをする者を捕えてみれば、あんたの書いた手紙が見つかったというわけだ」
「……知らないわ。私はそんなことをしていません」
「まだそんなことを言うのか。下働きの男は、あんたに雇われたと証言している。手紙の内容も、あんたが兄に宛てたものだ。近況報告に見せかけて、軍事情報を書いたメモを同封していただろう。一体どこでその情報を手に入れた?」
 何度も脅すように机を叩きながら、男はルフィナの顔をのぞき込む。ルフィナがやったと信じ込んでいるので、黙りこくるルフィナの態度すら苛立ってしまうのだろう。
 ルフィナを陥れるようなこの状況は、誰が引き起こしたのだろう。
 思い当たる人物は一人しかいないが、彼女がやったという証拠もない。他にも、ルフィナの存在を疎ましく思っていた者がいた可能性だって否定できない。
「手紙なんて、書いていません。私が書いたものだと言うのなら、筆跡を比べてみてください。それが何よりの証拠になります」
 アルデイルに来てからルフィナが文字を書いたのは、結婚式の際に証明書にサインをした時だけ。手紙に添えられていたというサインはそれに似せているかもしれないが、普段の文字まで似せることは不可能だろう。
 そう思って男を見上げると、何故か蔑むような笑みを向けられた。
「なるほど、それを理由に疑いから逃れるつもりだったということか。手紙の文字は酷く崩してあったから、筆跡を比べたところで意味はない。そのためにわざと読みにくい字で書いたんだろう?」
「そんなわけ……」
「今、別室であんたの侍女も取り調べを受けている。手紙を渡した実行犯は、あの女だろうからな。どうする? 王女様。侍女が全て勝手にやったことだと、自分は白を切るかい? そうすればあんたは無事だ。侍女一人に罪をかぶせて逃げ切るか?」
 唇を歪めて笑う男の言葉に、ルフィナは息をのんだ。確かにこれは、ルフィナ一人の問題ではない。イライーダも疑われるに違いないのだ。同じように捕らえられている彼女は、どんな扱いを受けているのだろうか。
 ルフィナは震える手を握りしめると、何度も首を振った。
「私も……私の侍女も無実です。何もしていません」
「その威勢の良さが、いつまで続くかな。早く全てを自白した方が、身のためですよ」
 呆れたように笑った男の言葉に、ルフィナは黙って拳を握りしめた。
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