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42 二度目の初夜

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 寝室に着くと、出迎えたイライーダが驚いたように目を見開きつつも嬉しそうに微笑んだ。二人の仲がうまくいったことを、確信したのだろう。
「明日の朝までは、誰であろうと部屋に近づけるな」
 カミルの言葉に深く頭を下げて、イライーダは出て行く。それを確認して、カミルは部屋の鍵をかけるとルフィナをベッドの上に下ろした。
 すぐに覆いかぶさってきたカミルが、優しくルフィナの唇を啄む。何度も重ねられる唇を受け止めて、ルフィナは彼の首筋に抱きつくように腕を回した。
「すごく、緊張してるんだ。優しくするつもりだけど……、嫌なことがあればすぐに教えて欲しい」
 そう言ってため息のような深い息を吐くカミルの表情は、いつもより余裕がなく見える。そっと触れ合った彼の胸から伝わる鼓動は、ルフィナと同じくらい速い。
 だが、再び唇が近づいた時、ふわりと香った甘い匂いにルフィナは思わず小さくうめいた。サラハがカミルに寄りかかっていた時に移ったであろう、アルゥの香りだ。
「ルフィナ?」
 顔をのぞき込んだカミルが、吐き気を堪えるルフィナを見てハッとしたように身体を離す。
「大丈夫か、やっぱり体調が」
「違うんです、体調は大丈夫。ただ……アルゥの香りが、どうしても受け付けなくて」
「アルゥの……?」
 戸惑ったようにつぶやいたカミルに、ルフィナは彼の身体からアルゥの香りがすることを伝える。
 確認するように身体の匂いをあちこち嗅いだカミルは、低く唸って自らの髪にぐしゃりと手をやった。
「さっきサラハに近寄られた時か……。ルフィナにとってアルゥの香りは、サラハを思い出させるということだな。すまない、ルフィナ。そうとは知らず、きみにアルゥを食べさせようとしたなんて。俺は、なんて酷いことを」
「ごめんなさい、果実に罪はないと分かっているのに、匂いを嗅ぐだけで吐きそうになってしまって……」
 身体が離れたことで匂いはしなくなったので、吐き気はましになった。それでも口元を押さえたままのルフィナを見て、カミルはがばりと身体を起こすと立ち上がった。
「シャワーを浴びてくる。もう二度と、きみにアルゥの匂いを嗅がせるようなことはしないと誓うから、待ってて」
「え、あ……はい」
 ルフィナの手を引き寄せ、手の甲に口づけをして、カミルは浴室へと消えた。

 ◇

 あっという間に戻ってきたカミルは、まだ少し濡れた髪をタオルで拭きながら足早に近づいてくる。ベッドの上に座って彼を待っていたルフィナは、湯上がりのカミルの色気に当てられそうになっていた。
 濡れていつもより更に濃さを増した金の髪が首筋に貼りついているところも、ぽたりと雫がはだけたガウンの胸元に垂れるのも、なまめかしくて目が離せない。
「どうかな、もう匂いはしない?」
 そっと包み込むようにルフィナを抱きしめて、カミルが囁く。恐る恐るすんと鼻を鳴らしたルフィナは、こくりとうなずいて彼の背に手を回した。
 良かったと笑ったカミルが、ゆっくりとルフィナの身体をベッドの上に押し倒した。いよいよカミルに抱かれるのだと思うと、口から心臓が飛び出してきそうなほどにドキドキする。
 カミルの手がルフィナのガウンの腰紐を解き、微かな衣擦れの音と共に彼の目の前に下着姿が晒される。
 羞恥に思わず顔を隠そうと横を向くと、カミルの手がそっとそれを止めた。
「ルフィナ、こっちを見て」
「っカミル様」
「すごく、綺麗だ。ルフィナを最初に見た時、本当に妖精みたいだと思った。こんな綺麗で可愛い子と結婚できるなんて嬉しいって思ったよ。もちろんそれだけじゃなくて、きみの心の強さに惹かれたのが一番だけど」
 蕩けそうなほどに甘い笑みを浮かべながら、カミルが出会った時のことを語る。カミル以外の結婚相手の候補に親子以上に年の離れた大臣がいたことも知っており、他の男に渡さないためにすぐにアルデイルに連れ帰ることにしたんだと彼は笑った。
 ルフィナはカミルの方に手を伸ばすと、丸い耳にそっと触れた。その瞬間ぴくりと動く耳は、ふわふわで柔らかい。大人っぽくてかっこいいカミルだが、この耳だけはとても可愛いと思う。
「私も……カミル様のこのお耳も尻尾もすごく素敵だと思ったし、優しくてあたたかくて、まるで太陽のような人だと思いました。カミル様の妻になれて、本当に嬉しく思っています」
「うん、俺もすごく嬉しい」
 そう言って笑ったカミルが、顔を近づけてくる。キスの予感に目を閉じれば、柔らかく唇が重なった。
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