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37 太陽のような人

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 カミルが部屋を出て行く気配を察知して、ルフィナはゆっくりと毛布から顔を出した。
 拒絶するようなことを言ってしまったので、カミルの機嫌を損ねたかもしれない。これでますます、彼はサラハのもとに入り浸るだろう。
 だけど、ルフィナを心配するような素振りを見せながらアルゥの実を渡してくるなんて、平静ではいられなかった。
 それとなくサラハとの関係を匂わせて、ルフィナと距離を取るつもりなのだろうか。鉱石の輸入がある以上、アルデイルはホロウードとの関係を切ることができない。だから彼は、ルフィナの方から離れていくように仕向けているのかもしれない。
 カミルが持ち帰ったのか、部屋の中にはもうアルゥの実がなくてホッとする。あの甘い香りを嗅ぐだけで、ルフィナは猛烈な吐き気に襲われるようになってしまった。できることなら、もう二度と嗅ぎたくない。
 今頃カミルは、またサラハと一緒にいるのだろうか。
 そう考えるだけで、ずきりと胸が痛む。
 こんなことをされても、まだカミルのことが好きなのだなとルフィナは自嘲して苦い笑みを浮かべた。
 包み込むような優しさも、大きな手も身体も、まっすぐにルフィナを見つめる瞳も、全部大好きだった。
 自分がアルデイルを守っていくのだと覚悟を決めた横顔も、初夜で見せた少し可愛い仕草も、時折見せる艶めいた大人の男性を思わせる表情も、何もかもが愛しくてたまらなかった。
 明るい太陽のような人だと、ずっと思っていた。だけどその光は、リリベルの花のような雑草みたいなルフィナには遠すぎる。
 きっと最初から、手の届く人ではなかったのだ。政略結婚で、たまたま縁があっただけの人。愛されたいと望むなんて、無理だったのだ――。

「……だめね、後ろ向き思考は禁止だわ」
 大きなため息をついて、ルフィナはベッドから起き上がると気合いを入れるように両頬を手でぱしんと強く叩いた。
 じんと痛んだ頬が、頭の中を覆い尽くそうとしていた後ろ向きな考えを追い払っていく。
「今はまだ、私がカミル様の妻だもの。サラハには渡さないわ。サラハよりも私の方がいいって言ってもらえるように、頑張らないと」
 閨の担当としてあらゆる手技に長けているであろう彼女に勝つのは難しいかもしれない。だけど、このまま黙って奪われるのを見ているだけなんてできないし、身を引くつもりだってない。
「そうと決まれば、まずは準備ね。カミル様の好みをあまり把握できていないことが痛いけれど、やっぱりここは清楚かつ大胆に、かしら。下着を用意しなくちゃ」
 つぶやいて、ルフィナは立ち上がった。
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