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36 ルフィナの拒絶(カミル視点)
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「ルフィナ?」
部屋を訪ねると、彼女はソファでぼんやりとした表情で本を読んでいた。声をかけると、ハッとした表情で顔を上げて笑顔になる。だがその顔はどこか疲れているように見えて、サラハの言う通りだとカミルは胸が痛くなった。
「体調はどうだ、あまりにしんどいようなら医者を……」
「大丈夫です、もうすっかり良くなりました。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「だが、顔色が良くない」
そっと触れた頬は驚くほど冷たくて、カミルは息をのんだ。血の気のない顔で、それでもルフィナは微笑みを浮かべて大丈夫だと繰り返しつぶやく。
「体調が悪いのに外に連れ出して……悪かった」
謝罪をしつつ、ふと彼女の胸元に目をやったカミルは、そこに輝く金のネックレスを見て思わず顔を綻ばせた。それは、以前にカミルが贈ったリリベルの花のネックレス。
「着けてくれてるんだな、それ」
「え? あ……」
今気づいたというように胸元を見下ろしたルフィナは、ぎゅっと手でネックレスを握りしめる。
「あまり高いものじゃなかったから普段使いには向かないかと思っていたんだが、ルフィナが着けるとどんな宝石よりも高価に見えるな。良く似合ってる」
「ありがとう、ございます……」
「実は今、指輪を――」
リリベルの花をデザインした指輪を考えているんだと伝えようと思いつつ、工房でもらったデザイン画を取り出そうとしたカミルは、サラハにもらったアルゥの実の存在を思い出した。体調の良くなさそうなルフィナには、今は指輪の話よりも栄養をとってもらう方が大事だ。
言葉を切って、カミルはサラハにもらったアルゥの実を取り出した。その瞬間、ルフィナの身体がぴくりと震える。
「これはアルゥの実といってな、すごく甘くて美味しいんだ。栄養価も高いから、今のルフィナにぴったりだと思って」
「……申し訳ありません、私、それはいただけません」
「食欲がないか? あぁそうだ、それならせめて果汁だけでも」
「無理、です。本当に……ごめんなさい」
口元を押さえたルフィナの顔色は先程より更に悪く、青ざめている。微かに震える身体は、悪寒を堪えているのだろうか。
「ルフィナ、大丈夫か? やっぱり医者を」
「必要ないです……っ、ごめんなさ……失礼します」
差し出したカミルの手を振り払い、ルフィナはベッドへ行ってしまった。頭から毛布をかぶったその背中は、明らかにカミルを拒絶している。
「ルフィナ、本当に大丈夫か」
「平気です。ちょっと休めば良くなります。ですから、私のことはどうぞお気になさらず」
毛布越しに聞こえるくぐもった声は、どこか平坦な響きをしている。これ以上構わないでくれと言われているようで、カミルは小さくため息を落とす。
「分かった。でも本当に辛かったらいつでも声をかけてくれ。無理はするな」
その言葉に、ルフィナからの返答はなかった。
部屋を訪ねると、彼女はソファでぼんやりとした表情で本を読んでいた。声をかけると、ハッとした表情で顔を上げて笑顔になる。だがその顔はどこか疲れているように見えて、サラハの言う通りだとカミルは胸が痛くなった。
「体調はどうだ、あまりにしんどいようなら医者を……」
「大丈夫です、もうすっかり良くなりました。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「だが、顔色が良くない」
そっと触れた頬は驚くほど冷たくて、カミルは息をのんだ。血の気のない顔で、それでもルフィナは微笑みを浮かべて大丈夫だと繰り返しつぶやく。
「体調が悪いのに外に連れ出して……悪かった」
謝罪をしつつ、ふと彼女の胸元に目をやったカミルは、そこに輝く金のネックレスを見て思わず顔を綻ばせた。それは、以前にカミルが贈ったリリベルの花のネックレス。
「着けてくれてるんだな、それ」
「え? あ……」
今気づいたというように胸元を見下ろしたルフィナは、ぎゅっと手でネックレスを握りしめる。
「あまり高いものじゃなかったから普段使いには向かないかと思っていたんだが、ルフィナが着けるとどんな宝石よりも高価に見えるな。良く似合ってる」
「ありがとう、ございます……」
「実は今、指輪を――」
リリベルの花をデザインした指輪を考えているんだと伝えようと思いつつ、工房でもらったデザイン画を取り出そうとしたカミルは、サラハにもらったアルゥの実の存在を思い出した。体調の良くなさそうなルフィナには、今は指輪の話よりも栄養をとってもらう方が大事だ。
言葉を切って、カミルはサラハにもらったアルゥの実を取り出した。その瞬間、ルフィナの身体がぴくりと震える。
「これはアルゥの実といってな、すごく甘くて美味しいんだ。栄養価も高いから、今のルフィナにぴったりだと思って」
「……申し訳ありません、私、それはいただけません」
「食欲がないか? あぁそうだ、それならせめて果汁だけでも」
「無理、です。本当に……ごめんなさい」
口元を押さえたルフィナの顔色は先程より更に悪く、青ざめている。微かに震える身体は、悪寒を堪えているのだろうか。
「ルフィナ、大丈夫か? やっぱり医者を」
「必要ないです……っ、ごめんなさ……失礼します」
差し出したカミルの手を振り払い、ルフィナはベッドへ行ってしまった。頭から毛布をかぶったその背中は、明らかにカミルを拒絶している。
「ルフィナ、本当に大丈夫か」
「平気です。ちょっと休めば良くなります。ですから、私のことはどうぞお気になさらず」
毛布越しに聞こえるくぐもった声は、どこか平坦な響きをしている。これ以上構わないでくれと言われているようで、カミルは小さくため息を落とす。
「分かった。でも本当に辛かったらいつでも声をかけてくれ。無理はするな」
その言葉に、ルフィナからの返答はなかった。
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