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31 二人きりのお茶会

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「ルフィナ、今日は昼から庭で一緒にお茶を飲まないか」
 ある日、朝食の席でカミルがそんなことを言うので、ルフィナは思わず顔を上げて目を瞬いた。
「お茶、ですか」
「あぁ。この前のチョコレート、ルフィナが気に入っていたようだから別のものを取り寄せたんだ。せっかくだし、庭でのんびりするのもいいかなと思って」
 にこにこと笑顔のカミルに誘われて、ルフィナも笑ってうなずく。昨晩も彼は遅くまで仕事をしていたようだが、一緒に過ごす時間を持てることは嬉しい。
「いいなぁ! ねぇお兄様、お義姉様、あたしもご一緒してもいいかしら?」
 向かいに座ったアイーシャが、目を輝かせて身を乗り出す。可愛い義妹も一緒のお茶会に、喜んで同意しようとしたルフィナだったが、口を開く前にカミルが大きく首を横に振った。
「アイーシャは、だめだ」
「えぇっ、どうして?」
 頬をふくらませるアイーシャに、カミルは苦笑しつつ隣に座るルフィナの手を握った。
「久しぶりにゆっくりルフィナと過ごす時間なんだ。邪魔しないで欲しい」
 すぐそばでカミルの言葉が甘く響く。握られた手も、優しくてあたたかい。真っ赤になったルフィナと同様に、アイーシャも頬を染めて微笑んだ。
「そうよね、新婚夫婦の甘いお茶の時間を邪魔するなんてだめね。どうぞ二人で楽しんでらして。お兄様、人払いは念入りにね」
 くすくすと揶揄うような妹の言葉に、カミルは小さく笑って応える。

 昼過ぎ、カミルと約束した庭の四阿へ向かうと、彼はもうすでに到着していた。
「お待たせして申し訳ありません、カミル様」
「いや、俺も今来たところだ。――あぁ、お茶の準備が終わったら、きみたちは下がってくれ」
 ルフィナに付き添ってきた侍女のイライーダや、護衛と思しき男性にカミルが声をかける。アイーシャが言ったように、念入りに人払いをするつもりらしい。
 二人きりになったところで、こんな場所で抱かれるとは思わない。どうせなら夜にこうして二人の時間を取ってくれればいいのにと思うのは、きっとルフィナの我儘なのだろう。

「最近、きみとゆっくり過ごす時間があまり取れていなかったから」
 そう言ってお茶を飲むカミルの横顔は、少し疲れて見える。夜遅くまで仕事をしているし、もちろん日中にも忙しくしているのを知っている。
「香油を持ってくれば良かったですわ。以前に学んだ手のマッサージを、カミル様にして差し上げられたのに」
「それなら、香油なしでも構わない。ぜひしてもらいたいな」
 ほら、と手を差し出されて、ルフィナは戸惑いつつ彼の手を握った。大きく分厚い手は、とてもあたたかい。
 サラハに教えられたことを思い出しながら、ルフィナはそっとカミルの指を撫でたあと、爪の付け根をぐっと強めに押した。その瞬間カミルが小さく息を詰める。
「……っ」
「あ、申し訳ありません、痛かったですか?」
 慌てて手を離して見上げると、カミルはぷるぷると首を振った。
「いや……、大丈夫だ。続けてくれる?」
「はい」
 再び差し出された手を取って、ルフィナは一生懸命に指をマッサージしていく。少しでも彼の疲れが癒えるようにと祈りを込めながら指を撫でさすっていると、時折カミルが息を詰めたり吐息を漏らす。それがやけに艶めいて聞こえて、何だかドキドキしてきた。
「……きみにこうして触れられるのは、久しぶりだな」
 カミルの言葉に、ルフィナは顔を上げた。
「そうですね。初夜以来、でしょうか」
 マッサージをしていた手を止めて、ルフィナはそのまま彼の手を握りしめる。あたたかな手はルフィナを拒絶していないように思うのに、彼は一向にルフィナに触れてくれない。
「どうして……どうして抱いてくださらないのですか」
 思わず漏れた言葉に、カミルがぴくりと身体を震わせるのが分かった。逃げられないようにと握りしめた手に力を込めて、ルフィナはまっすぐに見上げる。
「私はずっと……カミル様に抱いていただきたいと、そう思っています。お世継ぎを産むために努力するのは、私たちの義務です」
「ルフィナ」
「あなたの欲を受け止めるのだって、妻たる私の役目ですわ。私、色々お勉強しましたの。今度こそカミル様に満足していただけるよう頑張ります」
――だから、閨の担当者なんて要らないと言って。いつか私をつがいだと言って。
 本当に伝えたかった言葉は、喉につかえて出てこない。
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