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28 気乗りのしない勉強会
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サラハとの閨に関する勉強会は続いている。だけど、ルフィナはサラハと約束した時間が近づくと心臓の鼓動がいつもより速くなるようになっていた。恐らくそれは、緊張から来るものだ。サラハがカミルとどんな時間を過ごしているのかと考えるだけで、胸の奥が苦しくなる。
再び抱きたいと思ってもらえないルフィナが悪いのだから、もっとカミルを虜にできるような手技を学ばねばならないと思ってサラハの訪問を受けているが、彼女の口からカミルのことを聞くたびに、笑えなくなっている自分がいる。
カミルといる時は笑えるのに、一人になると彼は今頃サラハと一緒なのだろうかと、そんなことばかり考えてしまう。
「ルフィナ様は、殿下の尻尾にお手を触れたことがございますか?」
サラハに問われて、ルフィナは黙って首を横に振った。最初に会った時からずっと、いつか触れてみたいと思っているけれど、その機会はまだない。耳は何度か撫でさせてもらったが、お尻の上という場所には軽々しく触れられるはずもない。
ルフィナの反応を見て、サラハはうなずいた。艶やかな唇が少し笑みの形をとったような気がする。
「そうですか。獣人にとって尻尾は、とても敏感な場所ですからね。心を許した相手にしか触れさせないものなのです」
その説明は、カミルがルフィナに心を許していないと言っているも同然だったが、サラハはそれに気づいていないようだ。彼女の説明は止まることなく続いていく。
「敏感な場所ではありますが、殿下は尻尾の付け根を撫でられることがお好きです。力加減は羽のようにそっと、握る時は力を込め過ぎずに優しく上下に擦るようにすると、とても快楽を得ておられるようです」
「……サラハは、カミル様の尻尾に触れたことがあるのね」
思わずぽつりと漏れた言葉に、サラハがハッとしたように口をつぐんだ。だがその顔にはすぐ、にっこりとした笑みが浮かぶ。
「わたくしは、殿下の閨の担当ですもの。殿下が快楽を感じる箇所を把握しているのは当然のことです。それをルフィナ様にお伝えすることで、お二人が真に結ばれることをわたくしも願っているのですよ」
「そう、ね」
「ルフィナ様、そんな顔をしないでくださいませ。わたくしも、閨の担当としての職務に励むことが申し訳なくなってしまいますわ」
悲しげに眉を下げるサラハを見て、ルフィナはうつむいた。閨の担当なんて要らないと、言い切ることができたらどんなにいいだろう。だけど、初夜以来ルフィナを抱こうとしないカミルは、きっと欲を溜め込んでいるはずだ。それを解消するのがサラハの仕事。彼女は真面目に職務に向き合っているだけなのだ。
一度強く唇を噛みしめると、ルフィナは顔を上げた。
「ごめんなさい、サラハ。今日のところはもうおしまいにしてくれるかしら。少し疲れてしまったみたい」
「承知いたしました。次回はどうなさいますか?」
「次回は……」
本心では、もう終わりにしたい。サラハの口からカミルのことを聞きたくないのだ。だけど、ここで逃げたら何のために閨教育を受けているか分からなくなる。ルフィナの使命はカミルに再び抱いてもらうこと、そして彼の子を産むことなのだから。
一度深く呼吸をして、ルフィナは笑みを浮かべた。
「もちろん、また三日後に。カミル様がどういった時に快楽を感じられるのか、もっとお勉強したいわ」
「かしこまりました。ではまた、三日後に」
うなずいて、サラハは笑顔で手を振り退室した。部屋に漂う彼女の残り香を消すために、ルフィナは窓を全開にした。
再び抱きたいと思ってもらえないルフィナが悪いのだから、もっとカミルを虜にできるような手技を学ばねばならないと思ってサラハの訪問を受けているが、彼女の口からカミルのことを聞くたびに、笑えなくなっている自分がいる。
カミルといる時は笑えるのに、一人になると彼は今頃サラハと一緒なのだろうかと、そんなことばかり考えてしまう。
「ルフィナ様は、殿下の尻尾にお手を触れたことがございますか?」
サラハに問われて、ルフィナは黙って首を横に振った。最初に会った時からずっと、いつか触れてみたいと思っているけれど、その機会はまだない。耳は何度か撫でさせてもらったが、お尻の上という場所には軽々しく触れられるはずもない。
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「そうですか。獣人にとって尻尾は、とても敏感な場所ですからね。心を許した相手にしか触れさせないものなのです」
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「敏感な場所ではありますが、殿下は尻尾の付け根を撫でられることがお好きです。力加減は羽のようにそっと、握る時は力を込め過ぎずに優しく上下に擦るようにすると、とても快楽を得ておられるようです」
「……サラハは、カミル様の尻尾に触れたことがあるのね」
思わずぽつりと漏れた言葉に、サラハがハッとしたように口をつぐんだ。だがその顔にはすぐ、にっこりとした笑みが浮かぶ。
「わたくしは、殿下の閨の担当ですもの。殿下が快楽を感じる箇所を把握しているのは当然のことです。それをルフィナ様にお伝えすることで、お二人が真に結ばれることをわたくしも願っているのですよ」
「そう、ね」
「ルフィナ様、そんな顔をしないでくださいませ。わたくしも、閨の担当としての職務に励むことが申し訳なくなってしまいますわ」
悲しげに眉を下げるサラハを見て、ルフィナはうつむいた。閨の担当なんて要らないと、言い切ることができたらどんなにいいだろう。だけど、初夜以来ルフィナを抱こうとしないカミルは、きっと欲を溜め込んでいるはずだ。それを解消するのがサラハの仕事。彼女は真面目に職務に向き合っているだけなのだ。
一度強く唇を噛みしめると、ルフィナは顔を上げた。
「ごめんなさい、サラハ。今日のところはもうおしまいにしてくれるかしら。少し疲れてしまったみたい」
「承知いたしました。次回はどうなさいますか?」
「次回は……」
本心では、もう終わりにしたい。サラハの口からカミルのことを聞きたくないのだ。だけど、ここで逃げたら何のために閨教育を受けているか分からなくなる。ルフィナの使命はカミルに再び抱いてもらうこと、そして彼の子を産むことなのだから。
一度深く呼吸をして、ルフィナは笑みを浮かべた。
「もちろん、また三日後に。カミル様がどういった時に快楽を感じられるのか、もっとお勉強したいわ」
「かしこまりました。ではまた、三日後に」
うなずいて、サラハは笑顔で手を振り退室した。部屋に漂う彼女の残り香を消すために、ルフィナは窓を全開にした。
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