上 下
28 / 67

28 気乗りのしない勉強会

しおりを挟む
 サラハとの閨に関する勉強会は続いている。だけど、ルフィナはサラハと約束した時間が近づくと心臓の鼓動がいつもより速くなるようになっていた。恐らくそれは、緊張から来るものだ。サラハがカミルとどんな時間を過ごしているのかと考えるだけで、胸の奥が苦しくなる。
 再び抱きたいと思ってもらえないルフィナが悪いのだから、もっとカミルを虜にできるような手技を学ばねばならないと思ってサラハの訪問を受けているが、彼女の口からカミルのことを聞くたびに、笑えなくなっている自分がいる。
 カミルといる時は笑えるのに、一人になると彼は今頃サラハと一緒なのだろうかと、そんなことばかり考えてしまう。
 
「ルフィナ様は、殿下の尻尾にお手を触れたことがございますか?」
 サラハに問われて、ルフィナは黙って首を横に振った。最初に会った時からずっと、いつか触れてみたいと思っているけれど、その機会はまだない。耳は何度か撫でさせてもらったが、お尻の上という場所には軽々しく触れられるはずもない。
 ルフィナの反応を見て、サラハはうなずいた。艶やかな唇が少し笑みの形をとったような気がする。
「そうですか。獣人にとって尻尾は、とても敏感な場所ですからね。心を許した相手にしか触れさせないものなのです」
 その説明は、カミルがルフィナに心を許していないと言っているも同然だったが、サラハはそれに気づいていないようだ。彼女の説明は止まることなく続いていく。
「敏感な場所ではありますが、殿下は尻尾の付け根を撫でられることがお好きです。力加減は羽のようにそっと、握る時は力を込め過ぎずに優しく上下に擦るようにすると、とても快楽を得ておられるようです」
「……サラハは、カミル様の尻尾に触れたことがあるのね」
 思わずぽつりと漏れた言葉に、サラハがハッとしたように口をつぐんだ。だがその顔にはすぐ、にっこりとした笑みが浮かぶ。
「わたくしは、殿下の閨の担当ですもの。殿下が快楽を感じる箇所を把握しているのは当然のことです。それをルフィナ様にお伝えすることで、お二人が真に結ばれることをわたくしも願っているのですよ」
「そう、ね」
「ルフィナ様、そんな顔をしないでくださいませ。わたくしも、閨の担当としての職務に励むことが申し訳なくなってしまいますわ」
 悲しげに眉を下げるサラハを見て、ルフィナはうつむいた。閨の担当なんて要らないと、言い切ることができたらどんなにいいだろう。だけど、初夜以来ルフィナを抱こうとしないカミルは、きっと欲を溜め込んでいるはずだ。それを解消するのがサラハの仕事。彼女は真面目に職務に向き合っているだけなのだ。
 一度強く唇を噛みしめると、ルフィナは顔を上げた。
「ごめんなさい、サラハ。今日のところはもうおしまいにしてくれるかしら。少し疲れてしまったみたい」
「承知いたしました。次回はどうなさいますか?」
「次回は……」
 本心では、もう終わりにしたい。サラハの口からカミルのことを聞きたくないのだ。だけど、ここで逃げたら何のために閨教育を受けているか分からなくなる。ルフィナの使命はカミルに再び抱いてもらうこと、そして彼の子を産むことなのだから。
 一度深く呼吸をして、ルフィナは笑みを浮かべた。
「もちろん、また三日後に。カミル様がどういった時に快楽を感じられるのか、もっとお勉強したいわ」
「かしこまりました。ではまた、三日後に」
 うなずいて、サラハは笑顔で手を振り退室した。部屋に漂う彼女の残り香を消すために、ルフィナは窓を全開にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー

夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。 成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。 そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。 虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。 ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。 大人描写のある回には★をつけます。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

処理中です...