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26 マッサージを学びましょう

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 三日後、約束した時間にサラハは訪ねてきた。侍女のイライーダはお茶の準備だけして、すぐに退室する。
「その後、ルフィナ様の方はいかがです? 殿下に何か変化は見られましたか?」
 サラハの問いに、ルフィナは黙って首を振る。カミルは相変わらず寝室に仕事を持ち込んでいるし、ルフィナが眠ったあとにベッドに入っているようだ。朝も彼の方が先に目覚めるので、一緒に眠っているかどうかすら定かではない。
「カミル様はお忙しいから。最近は、同じ時間に休むこともできていないの」
「そうですね、殿下は随分お疲れのようでしたもの」
 ルフィナの言葉に共感を示すサラハ。きっと彼女は、カミルと会ったのだろう。閨の担当として、彼を慰めたのだろうか。
 サラハの艶やかな唇を見ると、その口でカミルのものに触れたのだろうかと考えてしまい、ルフィナは慌てて目を逸らした。
「本日は、少しずつ距離を縮めるのに効果的なマッサージの練習をいたしましょうか」
「マッサージ?」
 目を瞬くと、サラハは笑顔でうなずいて鞄から小さな瓶を取り出した。中に入っているのは、香油だろうか。
「執務にお疲れの殿下を、ルフィナ様が癒して差し上げるのです。本当なら背中や腰のマッサージが良いのですけれど、まずは手のマッサージから学んでまいりましょう」
 ほっそりとしたサラハの手がルフィナの手を握り、手のひらの上に香油を垂らしていく。微かにアルゥの甘い香りがした。
「こうして、少し力を入れて指先に向けてなぞるのです。殿下の手は大きいですから、香油はスプーン二杯ほどが適量かと」
「なるほど……。確かにこれは心地良いわね。カミル様も喜んでくださるかしら」
「もちろんです。殿下は、こうして爪の根元を強めに押さえるマッサージがお好きですから、ルフィナ様もぜひ試してみてくださいませ」
 ルフィナの手をマッサージしながら、サラハが微笑む。強すぎずちょうどいい力加減で気持ちがいいはずなのに、ルフィナの胸は落ち着かない。サラハは、カミルの手をこうしてマッサージしたことがあるのだ。でなければ、彼の好きな方法を知っているはずがない。香油に混ぜられているであろうアルゥの甘い香りが、何だか鼻について息が苦しくなってくる。
 ルフィナはそっと手を引いた。
「……ごめんなさい、もうそろそろいいかしら」
「えぇ。あまり難しい手技ではありませんから、あとはルフィナ様のお好みで。殿下の表情をよくご覧になって、気持ちがいいと感じてらっしゃる箇所を探ることが重要ですわ」
「そうね、努力するわ」
 タオルで香油を拭き取ったのに、手には甘い香りが染み込んでいる。最初に嗅いだ時は素敵な香りだと思ったのに、今では少し気分が悪くなるほどだ。
「良ければ今夜にでも、試してみてくださいませ」
 そう言って微笑むサラハの表情に邪気はなく、心からルフィナとカミルのことを思ってくれているようだ。
 何だか申し訳なくて、ルフィナは黙ってうなずくことしかできなかった。
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