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23 初夜でやらかしたこと
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言葉を選びつつ、ルフィナはサラハに初夜での出来事を話した。聞き終えると、彼女はふうっと長いため息をつく。それに合わせて白い垂れ耳がふるふると揺れるのが可愛らしい。
「事情は、分かりました」
しばらく黙ったあと、サラハは重々しくうなずいた。その口調に、ルフィナはやはり何か問題があったのだろうかと胸が騒ぐのを感じた。
「大変恐れながら、ルフィナ様は初夜にて致命的な間違いをいくつか犯してしまわれたようです」
「致命的な間違い……」
やらかしたことに少し心当たりはあるが、致命的と言われるほどに酷いものだったのだろうか。
眉を顰めたルフィナを見て、サラハは困ったような笑みを浮かべると指を一本立てた。
「まずひとつ。恐らくカミル殿下は、初夜の場において肉体的な満足感を充分に得られていなかったと推測されます」
「満足感……」
「ルフィナ様が仰るように、短時間で終えられたということは、一刻も早く終わらせたかったという思いのあらわれかと」
サラハの言葉に、ルフィナはうなだれた。一方的に、ルフィナから抱いてもらったことに礼を言って終わらせた自覚はある。本来ならば、一度で満足できなければ二度三度と行為に及ぶというが、カミルは一度で終わらせると仕事に戻ってしまった。きっと、複数回抱きたいと思うほどにルフィナの身体に満足できなかったのだろう。
自分の痛みに必死になりすぎて、カミルの快楽を考えなかったルフィナのミスだ。
うつむくルフィナを気遣いながらも、サラハはすらりとした細い指をもう一本立てる。
「そして二つ目。これが特に致命的なのですが、ルフィナ様がカミル殿下を押し倒されたことです」
「だ、だめだった……?」
うかがうようにサラハを見上げると、彼女は眉を下げつつうなずいた。
「獅子獣人は高貴でプライドが高いのです。組み敷かれることを屈辱と捉えます。人族の間ではそういった体位が存在することも存じておりますが、ルフィナ様は受け身で殿下の行動にお任せするべきでしたね」
「……っ私、とんでもないことをしてしまったのね。カミル様が気分を害されるのは当然だわ」
これ以上ないほどに落ち込んで、ルフィナは再びうつむく。思い返してみれば、カミルがルフィナに何度も制止の声をあげていた。本来ならその場で不敬だと切り捨てられていたかもしれないのに、そうしなかったのはきっとカミルの優しさだ。
「どうすればいいの、今から私にできることはあるのかしら。まずはカミル様にちゃんと謝罪しなければならないわね」
落ち込みつつもできることからしていこうと考えて、ルフィナは顔を上げる。落ち込んで後悔ばかりしていても、何も生まれない。少しでも状況を改善するために、何をすればいいか考えなければ。
そんなルフィナを見て、サラハはゆっくりと首を振った。
「謝罪は、やめておいたほうがいいでしょう」
その言葉に、ルフィナは首をかしげる。彼女は困ったように頬に手を当てつつ、ゆっくりと口を開く。
「組み敷かれたという事実は、カミル殿下にとって辱められたという記憶です。謝罪することで、その忌まわしい記憶を再び蘇らせることになってしまいますから」
「そう……ね、カミル様にとっては思い出したくもない出来事だもの。これからの行動で挽回するしかないということね」
ため息をつきつつ、ルフィナはうなずいた。
「それでも、とんでもない失礼をした私に変わらず接してくれるなんて、カミル様はやっぱりお優しい方だわ」
「えぇ、ルフィナ様はホロウードからいらした大切な花嫁様ですもの。閨のことはともかく、大切にしてくださるでしょう」
「今でも充分良くしていただいているのに、抱いていただきたいなんて申し出るのは過ぎた願いかしら」
考え込むルフィナを見て、サラハは優しい微笑みを浮かべた。
「ひとまず、ルフィナ様の方から抱いていただきたいと殿下に申し出るのは控えておいた方が良いかと。殿下のお気持ちがルフィナ様に向くまで、しばし待ちの姿勢が大事ですわ」
「そうよね、私ったらつい前のめりになってしまうところがあるから気をつけなくちゃ。待ちの姿勢ね……」
いずれ子を成す必要があるのだから、カミルが二度とルフィナに触れないということはないだろう。その日が来るまで、ルフィナは待つべきなのだろう。
ふむふむとうなずいたルフィナに、サラハはそれでいいのだというように微笑んだ。
「事情は、分かりました」
しばらく黙ったあと、サラハは重々しくうなずいた。その口調に、ルフィナはやはり何か問題があったのだろうかと胸が騒ぐのを感じた。
「大変恐れながら、ルフィナ様は初夜にて致命的な間違いをいくつか犯してしまわれたようです」
「致命的な間違い……」
やらかしたことに少し心当たりはあるが、致命的と言われるほどに酷いものだったのだろうか。
眉を顰めたルフィナを見て、サラハは困ったような笑みを浮かべると指を一本立てた。
「まずひとつ。恐らくカミル殿下は、初夜の場において肉体的な満足感を充分に得られていなかったと推測されます」
「満足感……」
「ルフィナ様が仰るように、短時間で終えられたということは、一刻も早く終わらせたかったという思いのあらわれかと」
サラハの言葉に、ルフィナはうなだれた。一方的に、ルフィナから抱いてもらったことに礼を言って終わらせた自覚はある。本来ならば、一度で満足できなければ二度三度と行為に及ぶというが、カミルは一度で終わらせると仕事に戻ってしまった。きっと、複数回抱きたいと思うほどにルフィナの身体に満足できなかったのだろう。
自分の痛みに必死になりすぎて、カミルの快楽を考えなかったルフィナのミスだ。
うつむくルフィナを気遣いながらも、サラハはすらりとした細い指をもう一本立てる。
「そして二つ目。これが特に致命的なのですが、ルフィナ様がカミル殿下を押し倒されたことです」
「だ、だめだった……?」
うかがうようにサラハを見上げると、彼女は眉を下げつつうなずいた。
「獅子獣人は高貴でプライドが高いのです。組み敷かれることを屈辱と捉えます。人族の間ではそういった体位が存在することも存じておりますが、ルフィナ様は受け身で殿下の行動にお任せするべきでしたね」
「……っ私、とんでもないことをしてしまったのね。カミル様が気分を害されるのは当然だわ」
これ以上ないほどに落ち込んで、ルフィナは再びうつむく。思い返してみれば、カミルがルフィナに何度も制止の声をあげていた。本来ならその場で不敬だと切り捨てられていたかもしれないのに、そうしなかったのはきっとカミルの優しさだ。
「どうすればいいの、今から私にできることはあるのかしら。まずはカミル様にちゃんと謝罪しなければならないわね」
落ち込みつつもできることからしていこうと考えて、ルフィナは顔を上げる。落ち込んで後悔ばかりしていても、何も生まれない。少しでも状況を改善するために、何をすればいいか考えなければ。
そんなルフィナを見て、サラハはゆっくりと首を振った。
「謝罪は、やめておいたほうがいいでしょう」
その言葉に、ルフィナは首をかしげる。彼女は困ったように頬に手を当てつつ、ゆっくりと口を開く。
「組み敷かれたという事実は、カミル殿下にとって辱められたという記憶です。謝罪することで、その忌まわしい記憶を再び蘇らせることになってしまいますから」
「そう……ね、カミル様にとっては思い出したくもない出来事だもの。これからの行動で挽回するしかないということね」
ため息をつきつつ、ルフィナはうなずいた。
「それでも、とんでもない失礼をした私に変わらず接してくれるなんて、カミル様はやっぱりお優しい方だわ」
「えぇ、ルフィナ様はホロウードからいらした大切な花嫁様ですもの。閨のことはともかく、大切にしてくださるでしょう」
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考え込むルフィナを見て、サラハは優しい微笑みを浮かべた。
「ひとまず、ルフィナ様の方から抱いていただきたいと殿下に申し出るのは控えておいた方が良いかと。殿下のお気持ちがルフィナ様に向くまで、しばし待ちの姿勢が大事ですわ」
「そうよね、私ったらつい前のめりになってしまうところがあるから気をつけなくちゃ。待ちの姿勢ね……」
いずれ子を成す必要があるのだから、カミルが二度とルフィナに触れないということはないだろう。その日が来るまで、ルフィナは待つべきなのだろう。
ふむふむとうなずいたルフィナに、サラハはそれでいいのだというように微笑んだ。
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