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21 閨教育を受けたい
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式を挙げ、初夜を終え、一緒にお出かけもした。
カミルとの距離はぐっと縮まったように思うのだが、ルフィナには不満がひとつだけある。
それは、彼が一向にルフィナを抱こうとしないこと。
初夜でカミルにもらった子種は、残念ながら実を結ぶことはなかったようだ。数日後には月のものがやってきて、ルフィナは少しだけ落ち込んだが、またカミルに抱いてもらおうと決意を新たにしていた。
だが、カミルは全くルフィナを抱こうとしない。子ができていなかったことを報告すると、彼は「そんなこともあるだろう」とさほど気にしていない様子だった。それなのにルフィナに触れてくれない。
「……それでも、新婚夫婦よ。もう少し夜の生活を充実させてもいいと思うの」
自室で、ルフィナは侍女のイライーダに思わず愚痴る。初夜はお互い痛みしかなかったが、もともと性交というのは快楽を分かち合う行為でもあるはず。回数を重ねれば痛みはましになるとも聞くのに、今はまだ痛い思い出しか残っていない状態だ。
自分はともかく、カミルには快楽を得てもらいたいとルフィナは密かに意気込んでいるのに、学んできた技術すら披露する機会がないのだ。
「でも、夜はご一緒に休まれているでしょう? そのような雰囲気にはならないんですか?」
イライーダの疑問に、ルフィナは苦い顔をする。
「それがね、カミル様ったら寝室にまでお仕事を持ち込んでらっしゃるの。すごくお忙しそうだし、先に寝ていろと言われたらずっと起きて待っていることもできないでしょう」
頬を押さえてルフィナはため息をつく。今夜こそはと期待して待っているのに、大量の書類を抱えたカミルを見れば、抱いてほしいと言い出すことなんて我儘に思えてしまう。一度子作りは義務だと迫ってみたが、そこまで焦る必要はないと諭されてしまえば、それ以上強く言うことなんてできなかった。
日中は何かとルフィナを構ってくれるし、優しく甘い微笑みを向けてくれる。だけど夜だけは、彼はルフィナとの距離を縮めてくれないのだ。
「何とかしたいんだけど、いい案はないかしら……」
「一度、アルデイルの閨教育を受けてみてはいかがです? 国が変われば閨の作法も多少違うかもしれません。アルデイルの殿方がどのようなことを喜ぶのか知っておくのは、いいことだと思いますよ」
イライーダの提案に、ルフィナは目を輝かせた。
「そうよ、閨教育! ありがとう、イライーダ。そうよね、身体のつくりはほとんど同じとはいえ、違いがあるかもしれないもの。このあとお義母様とお茶会なの。さっそく頼んでみるわ」
王妃であるカミルの母親も、嫁いできたからには閨の教育を受けているはずだ。王家のしきたりもあるかもしれないし、初夜の前に閨の教育を受けたいと申し出ておけばよかったなと思いつつ、ルフィナは義母とのお茶会に張り切って向かった。
◇
「閨教育?」
飲んでいたお茶を噴きそうな勢いで、王妃が目を丸くする。ルフィナはこくりとうなずいた。
「本来ならば、初夜の前に申し出るべきことだったと思うのですが、今からでも受講させていただきたいのです」
「それは……構わないけど、どうしてまた急に」
首をかしげる王妃は、カミルの母親だということが信じられないほどに若く、美しい。狐獣人だという彼女のキリっとした三角の耳には、王と揃いの黄金のピアスが輝いている。
「先日ご報告いたしました通り、私はまだカミル様のお子を宿すことができておりません。閨の教育で、子を授かるための手技をあらためて学び直したく思っております」
「そんな、思い詰めなくてもいいのよ。子は天からの授かりものだもの。それに結婚したばかりのあなたたちに、すぐに子供を望むような真似はしないわ。二人きりの時間だって、大切にして欲しいのよ」
王妃は困ったように眉尻を下げる。月のものがきて、子ができていなかったことを報告した際も、彼女は気にすることないと笑ってくれた。その優しさは嬉しいけれど、それに甘えてはならないとルフィナは拳を握りしめる。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが、できることは何でもしておきたいのです。あとで後悔はしたくないですから」
「まぁ、あなたが望むなら……。閨教育の担当をつけるよう手配するけれど」
「ありがとうございます、お義母様!」
満面の笑みでうなずいたルフィナを見て、王妃は苦笑しつつもうなずいた。
「でも、本当に思い詰めないでね。子供ができるかどうかは、誰にも分からないことなのだから。あなたとカミルの子ならきっと間違いなく可愛いでしょうけど、世継ぎとか祖国に申し訳が立たないとか、そういったことを考える必要はないんだからね」
「はい」
微笑んでうなずきながらも、ルフィナは頭のどこかで兄のヴァルラムの言葉を思い出していた。
――子を産めなければ、おまえはアルデイルでも役立たずの烙印を押されることになる。そうなりたくなければ、せいぜい励め。
カミルとの距離はぐっと縮まったように思うのだが、ルフィナには不満がひとつだけある。
それは、彼が一向にルフィナを抱こうとしないこと。
初夜でカミルにもらった子種は、残念ながら実を結ぶことはなかったようだ。数日後には月のものがやってきて、ルフィナは少しだけ落ち込んだが、またカミルに抱いてもらおうと決意を新たにしていた。
だが、カミルは全くルフィナを抱こうとしない。子ができていなかったことを報告すると、彼は「そんなこともあるだろう」とさほど気にしていない様子だった。それなのにルフィナに触れてくれない。
「……それでも、新婚夫婦よ。もう少し夜の生活を充実させてもいいと思うの」
自室で、ルフィナは侍女のイライーダに思わず愚痴る。初夜はお互い痛みしかなかったが、もともと性交というのは快楽を分かち合う行為でもあるはず。回数を重ねれば痛みはましになるとも聞くのに、今はまだ痛い思い出しか残っていない状態だ。
自分はともかく、カミルには快楽を得てもらいたいとルフィナは密かに意気込んでいるのに、学んできた技術すら披露する機会がないのだ。
「でも、夜はご一緒に休まれているでしょう? そのような雰囲気にはならないんですか?」
イライーダの疑問に、ルフィナは苦い顔をする。
「それがね、カミル様ったら寝室にまでお仕事を持ち込んでらっしゃるの。すごくお忙しそうだし、先に寝ていろと言われたらずっと起きて待っていることもできないでしょう」
頬を押さえてルフィナはため息をつく。今夜こそはと期待して待っているのに、大量の書類を抱えたカミルを見れば、抱いてほしいと言い出すことなんて我儘に思えてしまう。一度子作りは義務だと迫ってみたが、そこまで焦る必要はないと諭されてしまえば、それ以上強く言うことなんてできなかった。
日中は何かとルフィナを構ってくれるし、優しく甘い微笑みを向けてくれる。だけど夜だけは、彼はルフィナとの距離を縮めてくれないのだ。
「何とかしたいんだけど、いい案はないかしら……」
「一度、アルデイルの閨教育を受けてみてはいかがです? 国が変われば閨の作法も多少違うかもしれません。アルデイルの殿方がどのようなことを喜ぶのか知っておくのは、いいことだと思いますよ」
イライーダの提案に、ルフィナは目を輝かせた。
「そうよ、閨教育! ありがとう、イライーダ。そうよね、身体のつくりはほとんど同じとはいえ、違いがあるかもしれないもの。このあとお義母様とお茶会なの。さっそく頼んでみるわ」
王妃であるカミルの母親も、嫁いできたからには閨の教育を受けているはずだ。王家のしきたりもあるかもしれないし、初夜の前に閨の教育を受けたいと申し出ておけばよかったなと思いつつ、ルフィナは義母とのお茶会に張り切って向かった。
◇
「閨教育?」
飲んでいたお茶を噴きそうな勢いで、王妃が目を丸くする。ルフィナはこくりとうなずいた。
「本来ならば、初夜の前に申し出るべきことだったと思うのですが、今からでも受講させていただきたいのです」
「それは……構わないけど、どうしてまた急に」
首をかしげる王妃は、カミルの母親だということが信じられないほどに若く、美しい。狐獣人だという彼女のキリっとした三角の耳には、王と揃いの黄金のピアスが輝いている。
「先日ご報告いたしました通り、私はまだカミル様のお子を宿すことができておりません。閨の教育で、子を授かるための手技をあらためて学び直したく思っております」
「そんな、思い詰めなくてもいいのよ。子は天からの授かりものだもの。それに結婚したばかりのあなたたちに、すぐに子供を望むような真似はしないわ。二人きりの時間だって、大切にして欲しいのよ」
王妃は困ったように眉尻を下げる。月のものがきて、子ができていなかったことを報告した際も、彼女は気にすることないと笑ってくれた。その優しさは嬉しいけれど、それに甘えてはならないとルフィナは拳を握りしめる。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。ですが、できることは何でもしておきたいのです。あとで後悔はしたくないですから」
「まぁ、あなたが望むなら……。閨教育の担当をつけるよう手配するけれど」
「ありがとうございます、お義母様!」
満面の笑みでうなずいたルフィナを見て、王妃は苦笑しつつもうなずいた。
「でも、本当に思い詰めないでね。子供ができるかどうかは、誰にも分からないことなのだから。あなたとカミルの子ならきっと間違いなく可愛いでしょうけど、世継ぎとか祖国に申し訳が立たないとか、そういったことを考える必要はないんだからね」
「はい」
微笑んでうなずきながらも、ルフィナは頭のどこかで兄のヴァルラムの言葉を思い出していた。
――子を産めなければ、おまえはアルデイルでも役立たずの烙印を押されることになる。そうなりたくなければ、せいぜい励め。
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