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19 不意打ちに、甘い言葉

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 変装の効果は抜群で、街を歩いても今度は誰も声をかけてこなくなった。先程話しかけてきたばかりの屋台の店主すら気づいていなくて、そんなことが楽しくてルフィナはカミルと顔を見合わせてくすくすと笑った。
「これをルフィナに見せたかったんだ」
 そう言ってカミルが連れて行ってくれたのは、まるで雲のようなふわふわとした砂糖菓子の並ぶ屋台。真っ白なものや鮮やかな色をしたものなど、色とりどりだ。
「まぁ、素敵。空に浮かぶ雲みたいですね」
「ほらこれ、ルフィナの髪の色みたいだろう」
 耳元でこそりと囁いたカミルが、薄紫の菓子を手に取る。ふわふわとした見た目も色も、確かにルフィナの髪にそっくりだ。
「ルフィナも、この砂糖菓子と同じくらいに甘い」
「……っ」
「ひとつ、買おうか」
 艶めいた言葉を囁いたことなどなかったかのように、カミルはにこりと笑ってその薄紫の菓子を購入した。不意打ちの甘い言葉に、ルフィナは熱を持った頬を押さえて小さくうなずくことしかできなかった。
 
 買ってもらった菓子を手に、ルフィナはいつもより速い鼓動に動揺しながら歩く。繋がれた手から、ルフィナの鼓動がカミルに伝わってしまうような気がした。
 結婚式も挙げたし、初夜も済ませたはずなのに、今更手を繋いでいることが恥ずかしくてたまらなくなってくる。
 きっと今は、『ホロウードから嫁いできたルフィナ王女』ではないからだ。挙式も初夜も、ルフィナはずっと自らの使命を果たすことしか考えていなかったから。
 だとすると、今のルフィナは何なのだろうか。この状況でルフィナに求められる使命は――。
 ふと考え込んだルフィナの顔を、カミルがのぞき込んだ。
「どうした、ルフィナ。急に黙りこくって」
「いえ、あの……何でもない、です」
 慌てて笑顔を浮かべてみるものの、カミルは微かに眉を顰めたままだ。
「疲れたか? 俺もつい浮かれて色々と連れ回してしまったから」
「大丈夫です、体力には自信があるんですよ」
 まだうかがうような視線を向けてくるカミルから逃げるように、ルフィナは周囲を見回した。そして目に入った適当な屋台を指さす。
「えぇとあの、あちらにも行ってみたいです。あれは何を売ってる屋台なのかしら」
「ん……あれは、装身具か。うん、見に行ってみるか」
 ルフィナが指差したのはその隣だったのだが、話題が逸れるなら何でもいい。カミルの言葉にうなずいて、ルフィナはその屋台へと足を向けた。
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