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17 はじめてのデート
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「すっかり仲良くなったようだな」
城の廊下を歩きながら、カミルがつぶやく。手を握られていることに少しドキドキとしながら、ルフィナはこくりとうなずいた。
「私も妹が欲しいなと思ったことがあったので、すごく嬉しいんです」
「俺よりも仲良くなってるような気がして、少し妬けるな」
「え?」
早口でつぶやかれた言葉が聞き取れなくて首をかしげたものの、カミルは何でもないと首を振った。
「せっかくだから、昼食は城の外で食べようか。俺のよく行く店があって、美味いんだ」
「外で……?」
結婚式の時にも思ったが、アルデイルは王家と国民の距離が近いようだ。ホロウードでは、王太子である兄が城の外で食事をするなんて考えられない。もしもそんなことをするならば、店選びから警備体制まで入念な下準備が必要になるだろう。
「ルフィナは魚料理は好きか?」
「え……えぇ、あまり食したことはないのですけど」
「ホロウードは海に面しているのに、あまり漁業が盛んではなかったみたいだもんな。王都が海から少し離れているというのもあるのだろうが。アルデイルには魚料理の店がたくさんあるんだ。ルフィナの口にも合うといいんだが」
「はい、楽しみです」
カミルが勧めてくれるものなら、そして彼と一緒に食べるなら、何だって美味しいだろう。
笑顔でうなずいたルフィナを見て、カミルも嬉しそうに笑ってくれた。
カミルが連れて行ってくれたのは、城からそう離れていない場所にあるこぢんまりとした店だった。外観は古いが店の中は清潔で、内装も可愛らしい。店主はカミルの顔を見て嬉しそうに歓迎の言葉を口にすると、奥にある個室へと案内してくれた。
他の席よりも少しだけ高価な調度品を見るに、この部屋は王族専用なのかもしれないと思う。
「すごく素敵なお店ですね。予約もなしに入れるなんて、びっくりしました」
「俺が小さい頃から通ってる店だからな。ここの個室だけは、いつも空けてくれてるんだ」
「絶対、近いうちに奥様を連れて来られるはずだって、皆で心待ちにしてたんですよ」
店主の男性が、テーブルにグラスを置きながらルフィナに笑いかける。柔らかな笑顔はルフィナのことも歓迎してくれているのが分かって、心があたたかくなった。
「ささやかですが、結婚のお祝いに。おめでとうございます、カミル様、ルフィナ様」
「まぁ……素敵、ありがとうございます」
目の前のグラスを見て、ルフィナは顔を綻ばせた。ぷくぷくと小さな泡を浮かべる金色の炭酸水の底には小さな砂糖菓子が沈み、水面には薄紫の花びらが浮いている。二人の髪色をあらわしたようなその飲み物を見ていると、思わず笑い出したくなるほどの幸せに襲われた。
この飲み物は、祝い事の際に飲むものなのだとカミルが説明してくれる。底に沈んだ砂糖菓子はアルデイルで縁起物とされる四葉の形をしていて、溶かして飲むと幸せが約束されるのだという。口の中で泡と一緒に弾けた甘い味は、今のルフィナの気分にぴったりだった。
しばらくして運ばれてきた料理は今まで見たことのないもので、ルフィナは思わず目を見張った。
皿の上には薄く切られた透き通った魚の身が綺麗に並べられている。色鮮やかな野菜が飾られていて、見た目も華やかだ。
「ここは海が近いから、新鮮な魚をこうして生で食べることができるんだ」
「生で食べるお魚は初めてです!」
ルフィナが初めて食べる料理であることを気遣ってか、カミルが先に料理を食べ始めた。それを見て、ルフィナも皿に手を伸ばす。
ホロウードで食べたことのある魚料理は火を通したものばかりで、生の魚を食べたことはなかった。恐る恐る口にしてみたが、思った以上に食感が良く、甘みのある味もとても好みだった。
「美味しい」
思わず頬を緩めると、カミルが嬉しそうにうなずいた。その他の料理もどれも美味しくて、誰かと一緒に食事をするというだけで、こんなにも楽しいものなのだなとルフィナは幸せな気持ちになった。
城の廊下を歩きながら、カミルがつぶやく。手を握られていることに少しドキドキとしながら、ルフィナはこくりとうなずいた。
「私も妹が欲しいなと思ったことがあったので、すごく嬉しいんです」
「俺よりも仲良くなってるような気がして、少し妬けるな」
「え?」
早口でつぶやかれた言葉が聞き取れなくて首をかしげたものの、カミルは何でもないと首を振った。
「せっかくだから、昼食は城の外で食べようか。俺のよく行く店があって、美味いんだ」
「外で……?」
結婚式の時にも思ったが、アルデイルは王家と国民の距離が近いようだ。ホロウードでは、王太子である兄が城の外で食事をするなんて考えられない。もしもそんなことをするならば、店選びから警備体制まで入念な下準備が必要になるだろう。
「ルフィナは魚料理は好きか?」
「え……えぇ、あまり食したことはないのですけど」
「ホロウードは海に面しているのに、あまり漁業が盛んではなかったみたいだもんな。王都が海から少し離れているというのもあるのだろうが。アルデイルには魚料理の店がたくさんあるんだ。ルフィナの口にも合うといいんだが」
「はい、楽しみです」
カミルが勧めてくれるものなら、そして彼と一緒に食べるなら、何だって美味しいだろう。
笑顔でうなずいたルフィナを見て、カミルも嬉しそうに笑ってくれた。
カミルが連れて行ってくれたのは、城からそう離れていない場所にあるこぢんまりとした店だった。外観は古いが店の中は清潔で、内装も可愛らしい。店主はカミルの顔を見て嬉しそうに歓迎の言葉を口にすると、奥にある個室へと案内してくれた。
他の席よりも少しだけ高価な調度品を見るに、この部屋は王族専用なのかもしれないと思う。
「すごく素敵なお店ですね。予約もなしに入れるなんて、びっくりしました」
「俺が小さい頃から通ってる店だからな。ここの個室だけは、いつも空けてくれてるんだ」
「絶対、近いうちに奥様を連れて来られるはずだって、皆で心待ちにしてたんですよ」
店主の男性が、テーブルにグラスを置きながらルフィナに笑いかける。柔らかな笑顔はルフィナのことも歓迎してくれているのが分かって、心があたたかくなった。
「ささやかですが、結婚のお祝いに。おめでとうございます、カミル様、ルフィナ様」
「まぁ……素敵、ありがとうございます」
目の前のグラスを見て、ルフィナは顔を綻ばせた。ぷくぷくと小さな泡を浮かべる金色の炭酸水の底には小さな砂糖菓子が沈み、水面には薄紫の花びらが浮いている。二人の髪色をあらわしたようなその飲み物を見ていると、思わず笑い出したくなるほどの幸せに襲われた。
この飲み物は、祝い事の際に飲むものなのだとカミルが説明してくれる。底に沈んだ砂糖菓子はアルデイルで縁起物とされる四葉の形をしていて、溶かして飲むと幸せが約束されるのだという。口の中で泡と一緒に弾けた甘い味は、今のルフィナの気分にぴったりだった。
しばらくして運ばれてきた料理は今まで見たことのないもので、ルフィナは思わず目を見張った。
皿の上には薄く切られた透き通った魚の身が綺麗に並べられている。色鮮やかな野菜が飾られていて、見た目も華やかだ。
「ここは海が近いから、新鮮な魚をこうして生で食べることができるんだ」
「生で食べるお魚は初めてです!」
ルフィナが初めて食べる料理であることを気遣ってか、カミルが先に料理を食べ始めた。それを見て、ルフィナも皿に手を伸ばす。
ホロウードで食べたことのある魚料理は火を通したものばかりで、生の魚を食べたことはなかった。恐る恐る口にしてみたが、思った以上に食感が良く、甘みのある味もとても好みだった。
「美味しい」
思わず頬を緩めると、カミルが嬉しそうにうなずいた。その他の料理もどれも美味しくて、誰かと一緒に食事をするというだけで、こんなにも楽しいものなのだなとルフィナは幸せな気持ちになった。
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