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10 二人で迎える朝
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夜明けとともに目を覚ましたルフィナは、隣にカミルがいることに気づいて目を瞬いた。何故ここに彼がと考えかけて、昨晩はカミルに抱かれたことを思い出す。
誰かと一緒に眠るなんて初めてだが、彼のぬくもりがそばにあるのはとてもいい。
仕事を思い出したと言って部屋を出て行ったはずだが、熟睡していて彼が戻ってきたことには気づかなかった。
それでも、二人で一緒に朝を迎えることにくすぐったい気持ちが湧き上がる。
あらためて、彼の妻になったのだなと実感しつつ、ルフィナは眠るカミルの顔を観察する。いつもは大人びて見える彼も、目を閉じているとどこかあどけない。眠っていても耳は聞こえているのか、時々ぴくりと動くのが可愛らしくて、ルフィナはこっそりと悶えていた。触りたいけれど、そうしたらきっと起こしてしまう。
しばらく寝顔を観察していると、カミルが微かに眉を顰めた。同時に耳もぴこぴこと動く。
可愛すぎるその耳の動きに目を奪われるルフィナの前で、カミルが低くうめいて目を開けた。
「ん……、おはよう、ルフィナ」
「おはようございます、カミル様。よく眠れましたか?」
「うん、まぁ。……冷えるから、寝衣を着てって言ったのに」
その言葉に、ルフィナは服を着ないまま眠りに落ちたことを思い出す。未だに全裸だったかと慌てて確認すると、きっちりと寝衣を着せられていた。しかも初夜専用の薄い下着ではなく、透け感のないしっかりとした素材のものだ。
「もしかして、カミル様が着せてくださいました?」
「風邪をひいたら困るからな。……その、あまり見ずに着せたから、ボタンがずれてるかもしれないが」
照れたように視線を逸らしつつ言うカミルの言葉通り、前ボタンが二か所ほどずれていた。それでもルフィナのためにわざわざ着せてくれたその優しさが嬉しい。
「ありがとうございます。今夜からは、ちゃんと忘れずに服を着て眠るようにしますね!」
元気よく宣言したら、カミルは何故か困ったように手で顔を覆ってしまった。頬が赤くなっているので、照れているらしい。彼は案外照れ屋のようだ。
その時、ルフィナは昨晩の行為について確認しておかなければならないことを思い出した。
身体を起こして姿勢を正して座ると、カミルが何事かと怪訝な表情を浮かべる。
「カミル様、昨晩のことについてひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「聞きたい、こと?」
「えぇ。私たち、無事に行為は成し遂げたと思うのですけど、カミル様の子種をいただいたかどうか記憶が定かでなくて」
まっすぐに見上げて問うと、カミルはぐっと低く唸って顔を背けた。
「それは……その」
「精を受け止める感覚は、特に初めての女性にはあまり分からないこともあると書物で読みましたわ。実際私も記憶を辿ってみたのですが、よく分からないのです。でも、男性側はご自分が精を出したかどうか自覚があるでしょう? そのあたりを確認しておかなければと思ったのですけど」
「えぇと、何というか……あれは」
「カミル様は、吐精された実感はおありです?」
「あ……えぇと、うん、ある、ある」
視線を逸らしたまま、カミルが何度かうなずくのを見て、ルフィナは顔をほころばせた。
「ということは、私のお腹の中にはカミル様のお子が宿っている可能性もあるのですね」
「えっと……そうだな、それでいい、うん、可能性はゼロじゃないしな」
何やらぶつぶつとつぶやきつつ、カミルはそっとルフィナを抱き寄せた。優しいぬくもりに思わず幸せを感じながら身を任せると、カミルの手が頭を撫でた。
「だから、しばらくこういうことは控えておこう」
「え?」
「もしも子ができていたら、身体に障るだろう」
その言葉に、ルフィナは思わず自らのお腹に手を当てる。まだ薄いこのお腹の向こうに、もしかしたら新しい命が宿っているのだろうか。カミルの血を引く子は、この国の未来を背負う可能性がある。王太子妃として、ルフィナは世継ぎを産まなければならないのだ。使命感に燃えて、ルフィナは大きくうなずいた。
「承知いたしました。妊娠の有無が分かるまでは夫婦の営みはひとまず延期ということですね」
「いやあの、そんなに気負わなくてもいい。子供は授かりものだから」
「でも、お世継ぎを産むのは私の大事な使命ですもの。もしも子が宿っていなかった時は、あらためて抱いてくださいね!」
まっすぐ見つめてそう言えば、カミルはどこか困ったような表情を浮かべながらも分かったとうなずいてくれた。
「それから、昨晩のことは二人だけの秘密にしておこう」
「秘密、ですか」
ルフィナはきょとんと首をかしげた。昨晩ルフィナがカミルに抱かれたことは、誰もが知っている事実。シーツに染み込んだ血は、それを裏付ける証拠となる。それをどう秘密にすればいいのだろうか。
目を瞬くルフィナを見て、カミルは小さく笑った。
「きみをどういう風に抱いたとか、そういうことを秘密にしておきたいという意味だ。ほら、きみに押し倒されたなんて知られたら、ちょっと恥ずかしいだろう」
「そういうことでしたら、承知しましたわ。昨晩のことは、二人だけの秘密ですね。何だかそれって、すごく親密な感じがして素敵」
単純なルフィナは、そんな些細なことにもときめいて両手を胸の前で組んだ。確かに行為の有無が大事なのであって、その詳細は他人に明かすことではないだろう。
「分かってくれて嬉しいよ。さぁ、支度して朝食を食べに行こう。両親も妹も、きみと食事を共にするのを楽しみにしているはずだ」
「はい!」
元気よく返事をすると、カミルの大きな手が優しく頭を撫でてくれた。
誰かと一緒に眠るなんて初めてだが、彼のぬくもりがそばにあるのはとてもいい。
仕事を思い出したと言って部屋を出て行ったはずだが、熟睡していて彼が戻ってきたことには気づかなかった。
それでも、二人で一緒に朝を迎えることにくすぐったい気持ちが湧き上がる。
あらためて、彼の妻になったのだなと実感しつつ、ルフィナは眠るカミルの顔を観察する。いつもは大人びて見える彼も、目を閉じているとどこかあどけない。眠っていても耳は聞こえているのか、時々ぴくりと動くのが可愛らしくて、ルフィナはこっそりと悶えていた。触りたいけれど、そうしたらきっと起こしてしまう。
しばらく寝顔を観察していると、カミルが微かに眉を顰めた。同時に耳もぴこぴこと動く。
可愛すぎるその耳の動きに目を奪われるルフィナの前で、カミルが低くうめいて目を開けた。
「ん……、おはよう、ルフィナ」
「おはようございます、カミル様。よく眠れましたか?」
「うん、まぁ。……冷えるから、寝衣を着てって言ったのに」
その言葉に、ルフィナは服を着ないまま眠りに落ちたことを思い出す。未だに全裸だったかと慌てて確認すると、きっちりと寝衣を着せられていた。しかも初夜専用の薄い下着ではなく、透け感のないしっかりとした素材のものだ。
「もしかして、カミル様が着せてくださいました?」
「風邪をひいたら困るからな。……その、あまり見ずに着せたから、ボタンがずれてるかもしれないが」
照れたように視線を逸らしつつ言うカミルの言葉通り、前ボタンが二か所ほどずれていた。それでもルフィナのためにわざわざ着せてくれたその優しさが嬉しい。
「ありがとうございます。今夜からは、ちゃんと忘れずに服を着て眠るようにしますね!」
元気よく宣言したら、カミルは何故か困ったように手で顔を覆ってしまった。頬が赤くなっているので、照れているらしい。彼は案外照れ屋のようだ。
その時、ルフィナは昨晩の行為について確認しておかなければならないことを思い出した。
身体を起こして姿勢を正して座ると、カミルが何事かと怪訝な表情を浮かべる。
「カミル様、昨晩のことについてひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「聞きたい、こと?」
「えぇ。私たち、無事に行為は成し遂げたと思うのですけど、カミル様の子種をいただいたかどうか記憶が定かでなくて」
まっすぐに見上げて問うと、カミルはぐっと低く唸って顔を背けた。
「それは……その」
「精を受け止める感覚は、特に初めての女性にはあまり分からないこともあると書物で読みましたわ。実際私も記憶を辿ってみたのですが、よく分からないのです。でも、男性側はご自分が精を出したかどうか自覚があるでしょう? そのあたりを確認しておかなければと思ったのですけど」
「えぇと、何というか……あれは」
「カミル様は、吐精された実感はおありです?」
「あ……えぇと、うん、ある、ある」
視線を逸らしたまま、カミルが何度かうなずくのを見て、ルフィナは顔をほころばせた。
「ということは、私のお腹の中にはカミル様のお子が宿っている可能性もあるのですね」
「えっと……そうだな、それでいい、うん、可能性はゼロじゃないしな」
何やらぶつぶつとつぶやきつつ、カミルはそっとルフィナを抱き寄せた。優しいぬくもりに思わず幸せを感じながら身を任せると、カミルの手が頭を撫でた。
「だから、しばらくこういうことは控えておこう」
「え?」
「もしも子ができていたら、身体に障るだろう」
その言葉に、ルフィナは思わず自らのお腹に手を当てる。まだ薄いこのお腹の向こうに、もしかしたら新しい命が宿っているのだろうか。カミルの血を引く子は、この国の未来を背負う可能性がある。王太子妃として、ルフィナは世継ぎを産まなければならないのだ。使命感に燃えて、ルフィナは大きくうなずいた。
「承知いたしました。妊娠の有無が分かるまでは夫婦の営みはひとまず延期ということですね」
「いやあの、そんなに気負わなくてもいい。子供は授かりものだから」
「でも、お世継ぎを産むのは私の大事な使命ですもの。もしも子が宿っていなかった時は、あらためて抱いてくださいね!」
まっすぐ見つめてそう言えば、カミルはどこか困ったような表情を浮かべながらも分かったとうなずいてくれた。
「それから、昨晩のことは二人だけの秘密にしておこう」
「秘密、ですか」
ルフィナはきょとんと首をかしげた。昨晩ルフィナがカミルに抱かれたことは、誰もが知っている事実。シーツに染み込んだ血は、それを裏付ける証拠となる。それをどう秘密にすればいいのだろうか。
目を瞬くルフィナを見て、カミルは小さく笑った。
「きみをどういう風に抱いたとか、そういうことを秘密にしておきたいという意味だ。ほら、きみに押し倒されたなんて知られたら、ちょっと恥ずかしいだろう」
「そういうことでしたら、承知しましたわ。昨晩のことは、二人だけの秘密ですね。何だかそれって、すごく親密な感じがして素敵」
単純なルフィナは、そんな些細なことにもときめいて両手を胸の前で組んだ。確かに行為の有無が大事なのであって、その詳細は他人に明かすことではないだろう。
「分かってくれて嬉しいよ。さぁ、支度して朝食を食べに行こう。両親も妹も、きみと食事を共にするのを楽しみにしているはずだ」
「はい!」
元気よく返事をすると、カミルの大きな手が優しく頭を撫でてくれた。
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