10 / 67
10 二人で迎える朝
しおりを挟む
夜明けとともに目を覚ましたルフィナは、隣にカミルがいることに気づいて目を瞬いた。何故ここに彼がと考えかけて、昨晩はカミルに抱かれたことを思い出す。
誰かと一緒に眠るなんて初めてだが、彼のぬくもりがそばにあるのはとてもいい。
仕事を思い出したと言って部屋を出て行ったはずだが、熟睡していて彼が戻ってきたことには気づかなかった。
それでも、二人で一緒に朝を迎えることにくすぐったい気持ちが湧き上がる。
あらためて、彼の妻になったのだなと実感しつつ、ルフィナは眠るカミルの顔を観察する。いつもは大人びて見える彼も、目を閉じているとどこかあどけない。眠っていても耳は聞こえているのか、時々ぴくりと動くのが可愛らしくて、ルフィナはこっそりと悶えていた。触りたいけれど、そうしたらきっと起こしてしまう。
しばらく寝顔を観察していると、カミルが微かに眉を顰めた。同時に耳もぴこぴこと動く。
可愛すぎるその耳の動きに目を奪われるルフィナの前で、カミルが低くうめいて目を開けた。
「ん……、おはよう、ルフィナ」
「おはようございます、カミル様。よく眠れましたか?」
「うん、まぁ。……冷えるから、寝衣を着てって言ったのに」
その言葉に、ルフィナは服を着ないまま眠りに落ちたことを思い出す。未だに全裸だったかと慌てて確認すると、きっちりと寝衣を着せられていた。しかも初夜専用の薄い下着ではなく、透け感のないしっかりとした素材のものだ。
「もしかして、カミル様が着せてくださいました?」
「風邪をひいたら困るからな。……その、あまり見ずに着せたから、ボタンがずれてるかもしれないが」
照れたように視線を逸らしつつ言うカミルの言葉通り、前ボタンが二か所ほどずれていた。それでもルフィナのためにわざわざ着せてくれたその優しさが嬉しい。
「ありがとうございます。今夜からは、ちゃんと忘れずに服を着て眠るようにしますね!」
元気よく宣言したら、カミルは何故か困ったように手で顔を覆ってしまった。頬が赤くなっているので、照れているらしい。彼は案外照れ屋のようだ。
その時、ルフィナは昨晩の行為について確認しておかなければならないことを思い出した。
身体を起こして姿勢を正して座ると、カミルが何事かと怪訝な表情を浮かべる。
「カミル様、昨晩のことについてひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「聞きたい、こと?」
「えぇ。私たち、無事に行為は成し遂げたと思うのですけど、カミル様の子種をいただいたかどうか記憶が定かでなくて」
まっすぐに見上げて問うと、カミルはぐっと低く唸って顔を背けた。
「それは……その」
「精を受け止める感覚は、特に初めての女性にはあまり分からないこともあると書物で読みましたわ。実際私も記憶を辿ってみたのですが、よく分からないのです。でも、男性側はご自分が精を出したかどうか自覚があるでしょう? そのあたりを確認しておかなければと思ったのですけど」
「えぇと、何というか……あれは」
「カミル様は、吐精された実感はおありです?」
「あ……えぇと、うん、ある、ある」
視線を逸らしたまま、カミルが何度かうなずくのを見て、ルフィナは顔をほころばせた。
「ということは、私のお腹の中にはカミル様のお子が宿っている可能性もあるのですね」
「えっと……そうだな、それでいい、うん、可能性はゼロじゃないしな」
何やらぶつぶつとつぶやきつつ、カミルはそっとルフィナを抱き寄せた。優しいぬくもりに思わず幸せを感じながら身を任せると、カミルの手が頭を撫でた。
「だから、しばらくこういうことは控えておこう」
「え?」
「もしも子ができていたら、身体に障るだろう」
その言葉に、ルフィナは思わず自らのお腹に手を当てる。まだ薄いこのお腹の向こうに、もしかしたら新しい命が宿っているのだろうか。カミルの血を引く子は、この国の未来を背負う可能性がある。王太子妃として、ルフィナは世継ぎを産まなければならないのだ。使命感に燃えて、ルフィナは大きくうなずいた。
「承知いたしました。妊娠の有無が分かるまでは夫婦の営みはひとまず延期ということですね」
「いやあの、そんなに気負わなくてもいい。子供は授かりものだから」
「でも、お世継ぎを産むのは私の大事な使命ですもの。もしも子が宿っていなかった時は、あらためて抱いてくださいね!」
まっすぐ見つめてそう言えば、カミルはどこか困ったような表情を浮かべながらも分かったとうなずいてくれた。
「それから、昨晩のことは二人だけの秘密にしておこう」
「秘密、ですか」
ルフィナはきょとんと首をかしげた。昨晩ルフィナがカミルに抱かれたことは、誰もが知っている事実。シーツに染み込んだ血は、それを裏付ける証拠となる。それをどう秘密にすればいいのだろうか。
目を瞬くルフィナを見て、カミルは小さく笑った。
「きみをどういう風に抱いたとか、そういうことを秘密にしておきたいという意味だ。ほら、きみに押し倒されたなんて知られたら、ちょっと恥ずかしいだろう」
「そういうことでしたら、承知しましたわ。昨晩のことは、二人だけの秘密ですね。何だかそれって、すごく親密な感じがして素敵」
単純なルフィナは、そんな些細なことにもときめいて両手を胸の前で組んだ。確かに行為の有無が大事なのであって、その詳細は他人に明かすことではないだろう。
「分かってくれて嬉しいよ。さぁ、支度して朝食を食べに行こう。両親も妹も、きみと食事を共にするのを楽しみにしているはずだ」
「はい!」
元気よく返事をすると、カミルの大きな手が優しく頭を撫でてくれた。
誰かと一緒に眠るなんて初めてだが、彼のぬくもりがそばにあるのはとてもいい。
仕事を思い出したと言って部屋を出て行ったはずだが、熟睡していて彼が戻ってきたことには気づかなかった。
それでも、二人で一緒に朝を迎えることにくすぐったい気持ちが湧き上がる。
あらためて、彼の妻になったのだなと実感しつつ、ルフィナは眠るカミルの顔を観察する。いつもは大人びて見える彼も、目を閉じているとどこかあどけない。眠っていても耳は聞こえているのか、時々ぴくりと動くのが可愛らしくて、ルフィナはこっそりと悶えていた。触りたいけれど、そうしたらきっと起こしてしまう。
しばらく寝顔を観察していると、カミルが微かに眉を顰めた。同時に耳もぴこぴこと動く。
可愛すぎるその耳の動きに目を奪われるルフィナの前で、カミルが低くうめいて目を開けた。
「ん……、おはよう、ルフィナ」
「おはようございます、カミル様。よく眠れましたか?」
「うん、まぁ。……冷えるから、寝衣を着てって言ったのに」
その言葉に、ルフィナは服を着ないまま眠りに落ちたことを思い出す。未だに全裸だったかと慌てて確認すると、きっちりと寝衣を着せられていた。しかも初夜専用の薄い下着ではなく、透け感のないしっかりとした素材のものだ。
「もしかして、カミル様が着せてくださいました?」
「風邪をひいたら困るからな。……その、あまり見ずに着せたから、ボタンがずれてるかもしれないが」
照れたように視線を逸らしつつ言うカミルの言葉通り、前ボタンが二か所ほどずれていた。それでもルフィナのためにわざわざ着せてくれたその優しさが嬉しい。
「ありがとうございます。今夜からは、ちゃんと忘れずに服を着て眠るようにしますね!」
元気よく宣言したら、カミルは何故か困ったように手で顔を覆ってしまった。頬が赤くなっているので、照れているらしい。彼は案外照れ屋のようだ。
その時、ルフィナは昨晩の行為について確認しておかなければならないことを思い出した。
身体を起こして姿勢を正して座ると、カミルが何事かと怪訝な表情を浮かべる。
「カミル様、昨晩のことについてひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「聞きたい、こと?」
「えぇ。私たち、無事に行為は成し遂げたと思うのですけど、カミル様の子種をいただいたかどうか記憶が定かでなくて」
まっすぐに見上げて問うと、カミルはぐっと低く唸って顔を背けた。
「それは……その」
「精を受け止める感覚は、特に初めての女性にはあまり分からないこともあると書物で読みましたわ。実際私も記憶を辿ってみたのですが、よく分からないのです。でも、男性側はご自分が精を出したかどうか自覚があるでしょう? そのあたりを確認しておかなければと思ったのですけど」
「えぇと、何というか……あれは」
「カミル様は、吐精された実感はおありです?」
「あ……えぇと、うん、ある、ある」
視線を逸らしたまま、カミルが何度かうなずくのを見て、ルフィナは顔をほころばせた。
「ということは、私のお腹の中にはカミル様のお子が宿っている可能性もあるのですね」
「えっと……そうだな、それでいい、うん、可能性はゼロじゃないしな」
何やらぶつぶつとつぶやきつつ、カミルはそっとルフィナを抱き寄せた。優しいぬくもりに思わず幸せを感じながら身を任せると、カミルの手が頭を撫でた。
「だから、しばらくこういうことは控えておこう」
「え?」
「もしも子ができていたら、身体に障るだろう」
その言葉に、ルフィナは思わず自らのお腹に手を当てる。まだ薄いこのお腹の向こうに、もしかしたら新しい命が宿っているのだろうか。カミルの血を引く子は、この国の未来を背負う可能性がある。王太子妃として、ルフィナは世継ぎを産まなければならないのだ。使命感に燃えて、ルフィナは大きくうなずいた。
「承知いたしました。妊娠の有無が分かるまでは夫婦の営みはひとまず延期ということですね」
「いやあの、そんなに気負わなくてもいい。子供は授かりものだから」
「でも、お世継ぎを産むのは私の大事な使命ですもの。もしも子が宿っていなかった時は、あらためて抱いてくださいね!」
まっすぐ見つめてそう言えば、カミルはどこか困ったような表情を浮かべながらも分かったとうなずいてくれた。
「それから、昨晩のことは二人だけの秘密にしておこう」
「秘密、ですか」
ルフィナはきょとんと首をかしげた。昨晩ルフィナがカミルに抱かれたことは、誰もが知っている事実。シーツに染み込んだ血は、それを裏付ける証拠となる。それをどう秘密にすればいいのだろうか。
目を瞬くルフィナを見て、カミルは小さく笑った。
「きみをどういう風に抱いたとか、そういうことを秘密にしておきたいという意味だ。ほら、きみに押し倒されたなんて知られたら、ちょっと恥ずかしいだろう」
「そういうことでしたら、承知しましたわ。昨晩のことは、二人だけの秘密ですね。何だかそれって、すごく親密な感じがして素敵」
単純なルフィナは、そんな些細なことにもときめいて両手を胸の前で組んだ。確かに行為の有無が大事なのであって、その詳細は他人に明かすことではないだろう。
「分かってくれて嬉しいよ。さぁ、支度して朝食を食べに行こう。両親も妹も、きみと食事を共にするのを楽しみにしているはずだ」
「はい!」
元気よく返事をすると、カミルの大きな手が優しく頭を撫でてくれた。
97
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。


巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?
はなまる
恋愛
シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。
ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。
そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。
国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。
そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。
彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。
そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。
隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…
この話は全てフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる