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7 妖精姫と獣人王子

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 今日の夜会は、ルフィナとアルデイルのカミル王子との顔合わせと婚約発表の場を兼ねている。初めて会う相手とすぐに婚約だなんてとも思うけれど、ヴァルラムに逆らうことはできない。ホロウードで採れる希少な鉱石を優先的に輸出するという条件に、アルデイルは大喜びで飛びついたというから、あちらも欲しいのは鉱石で、ルフィナはおまけなのだろう。

「姫様、ヴァルラム殿下がお呼びです」
 侍女に声をかけられ、ルフィナはうなずいて立ち上がった。いよいよ、カミル王子と対面することになる。
 隣室で兄と会談しているはずのカミル王子は、どんな人なのだろう。
 どきどきといつもより速い鼓動を落ち着かせるように胸に手を当てて、ルフィナはちらりと鏡をのぞき込んだ。
 淡い金色のドレスはふんわりと広がったデザインで、ルフィナの可憐さを最大限に引き立てている。毛先をふわふわと散らして結った髪には小さな宝石をふんだんに使った髪飾りが添えてあり、動くたびに繊細な輝きを放つ。あまり派手に装うことは好きではないのだが、今日は大事な日。兄の指示通り、ルフィナは「ホロウードの妖精姫」に相応しい装いをしているのだ。
「本当におまえは、見てくれだけは上等だな。それを活かせる機会がようやく来たんだ、せいぜいあの獣人に媚びてみせろよ」
 隣室に続く扉が開くと、出迎えるようにそこに立っていたヴァルラムがルフィナの姿を確認して小声で吐き捨てる。彼は、こんな時でも何か言わずにはいられないらしい。ルフィナはそれを黙って微笑みで受け流す。
「お待たせしました、カミル殿下。こちらが我が妹、ルフィナです」
 振り返った時には、ヴァルラムはルフィナに見せた冷たい表情をあっという間に引っ込めている。彼は、外面だけは完璧なのだ。優しくエスコートするように背中に回された手だけは、まるでルフィナに触りたくないというように絶妙な距離を保っているけれど。
 とはいえルフィナだって、そんな兄のことばかり気にしてはいられない。控えめで可憐な笑みを浮かべると、ルフィナは深く頭を下げた。
「はじめまして、カミル殿下。ルフィナと申します。お会いできて光栄です」
 笑顔を保ったままゆっくりと顔を上げれば、背の高い男性と目が合った。色の濃い金の髪を持つ彼は、瞳も同じ色をしている。鋭い目でルフィナを値踏みするように見つめているが、顔立ちはかなり整った部類に入るだろう。ルフィナより三つ年上の二十三歳だと聞いていたが、大人びた顔立ちは彼をもう少し年上に見せている。
 そして何より気になるのは、彼の頭の上にあるふたつの丸い耳。そして背中からちらりとのぞく尻尾。
――ふわふわ、もふもふだわ……!
 思わずそちらに視線が吸い寄せられそうになるのを堪えて、ルフィナは口角を上げ続ける。
「はじめまして、ルフィナ姫。こちらこそ、お会いできて光栄です」
 そう言って握られた手は思った以上にあたたかく、大きかった。少し冷たそうに見えるものの、ルフィナを見つめる視線は案外柔らかい。
 金の髪からの連想か、ルフィナは彼のことを太陽みたいだと思った。凍てつく大地を優しく照らし、氷を溶かしてくれるあたたかな太陽。冬の長いホロウードにおいて、陽光は春を告げる希望の光。
 そんな太陽のようなカミルを見つめ、この人のもとに嫁ぐのならきっと大丈夫だと、何故かそう思えた。
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