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7 檻の中の金糸雀 ハロルド視点
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疲れ切って眠るツィリアの金の髪を梳きながら、ハロルドは窓辺に視線をやった。陽当たりの良いそこに吊るされた金の鳥籠は、小鳥の姿になった時のツィリアのために用意したもの。シンプルな作りだけど、素材は最高級のものを使用している。ハロルドの可愛い金糸雀には、相応しいものを与えてやりたいから。
「ツィリアは、俺のためだけに鳴いていればいいからね」
優しく頭を撫でながら、ハロルドはつぶやく。
その時、小さな白い封筒が窓の隙間から侵入してきてハロルドの目の前にぽとりと落ちた。宛先も差出人も書いていないけれど、封蝋に押された紋章はこの国の王族にのみ使用が許されるもの。それを確認して、ハロルドは小さくため息をついた。
「ツィリアと過ごしてる時は控えてって、兄上には言ったのになぁ」
文句を言いつつも、ハロルドは封筒を開く。そこに書かれた文字は、ハロルドにしか読むことができないように魔法がかけられている。内容を確認したハロルドは、にんまりとした笑みを浮かべた。
「あの男、捕まったって。良かったね、ツィリア」
眠るツィリアに囁きながら、ハロルドは上機嫌で手紙を読み進める。
「ふむ、色々と悪事に手を染めてたみたいだねぇ。まぁ、ツィリアに手を出したのが一番の大罪だけどね」
捕えられた男は、近いうちに処分を受けることになるだろう。恐らくは、貴族籍の剥奪。本当は、ハロルドの大切な金糸雀に触れた汚らしい手など、今すぐにでも斬り落としてやりたいくらいだけど。
とはいえ、あの男のおかげでツィリアを手に入れることができたのだから、この処分は命までは取らないでおいてやろうというハロルドの優しさだ。
ハロルドがこの国の第三王子であることを、ツィリアは知らない。知ればきっと彼女は萎縮するだろうから、それを告げるつもりはないし、ツィリアの前では意識して平民のハロルドを演じている。
第三王子とはいえ、母親は国王が気まぐれに手を出した侍女なので、その地位は低い。ハロルド自身も王位になど興味はないので、いずれ王となる兄をサポートをしていくと早いうちから宣言している。後継者争いの種を生まないために、結婚はしても子供は作らないことも決めているし、案外気楽な立場だ。だからこそ、ハロルドはツィリアを手に入れられた。
下級貴族の男がツィリアに目をつけて襲ったところまでは実際にあったこと。だけどツィリアを探すチラシは、ハロルドが密かに命じて作らせたものだ。
あの男がツィリアに目をつけるより先に、ハロルドはツィリアに出会っている。
それは、運命だったのかもしれない。たまたま平民街を歩いていたところ、とある部屋の窓のカーテンがふわりと風に揺れた。その瞬間、外から飛んできた黄色い小鳥が美しい女性の姿に変わるのを見たのだ。恐らく彼女は、獣人の血を引く者。
まるで内側から光を放っているかのような彼女の裸体に見惚れ、手に入れたいと思った。
だからハロルドは、小鳥の姿の彼女を手懐けることから始めたのだ。
最初は、珍しい獣人の血をひく娘を手に入れたいという思いだけだった。だけど、彼女の働く姿や楽しそうに笑う顔、そして信頼してハロルドの手からパンを啄む愛らしい小鳥の姿を見て、いつしか彼女の心も身体も全て手に入れたいと思うようになった。
そんな時に起きた、ツィリアの誘拐未遂事件。密かにツィリアの動向を見張らせていた者から報告を受けた時は、目の前が真っ赤になるほどの怒りを感じたけれど、それは彼女を手に入れるチャンスでもあった。
弱ったツィリアを保護して、彼女の心の中に入り込んだ。そして逃げられないように、うっかり外に出たいなどと言い出さないように、時々外の世界は恐ろしい場所であることを教えてやる。怯える彼女を優しく宥めて、ハロルドなしでは生きられないように依存させた。
ツィリアの世界は、ハロルドが用意したこの部屋の中だけ。外に出ればあの男がまたやってくると、彼女は心から信じ込んでいる。
平民育ちの彼女が萎縮しないように、華美になりすぎないようにと気を使って準備した居心地の良いこの部屋は、ツィリアのための鳥籠。
彼女は知らないけれど、この部屋は城の一角にあり、ハロルド以外が出入りすることができない。王族としての権力をここぞとばかりに使って、腕のある魔術師にまるで檻のような結界を張らせたのだ。だから、ツィリアもこの部屋から出ることはできない。もっとも、彼女が自分の意思でこの部屋を出ることはないだろうけれど。
ハロルドは、気持ちよさそうに眠るツィリアの左手をそっと取り上げた。こっそりと薬指に滑らせた指輪に、目覚めた彼女は気づくだろうか。
自分の瞳の色によく似た緑の石が光る指輪は、特殊な魔法によって彼女が鳥の姿になった時は首輪になるように設定されている。どちらの姿をしていても、彼女はハロルドのものだと分かるように。
毛布からのぞく剥き出しの肌を見るだけで、眠る彼女をまた抱きたくなる気持ちを堪えながら、ハロルドは柔らかな唇に触れるだけのキスを落とした。
ハロルドに愛される時のツィリアの声は、まるで鳥の囀りのよう。必死に声を堪えようとするのが可愛くて、つい意地悪に責め立ててしまう。
小鳥の姿で愛らしく鳴くのも、ハロルドの腕の中で淫らに鳴くのも、誰にも見せないし聴かせない。だから、この鳥籠からは決して出してやらない。
「可愛い俺の金糸雀。愛してる」
指輪に唇を押し当てて、ハロルドはつぶやいた。
「ツィリアは、俺のためだけに鳴いていればいいからね」
優しく頭を撫でながら、ハロルドはつぶやく。
その時、小さな白い封筒が窓の隙間から侵入してきてハロルドの目の前にぽとりと落ちた。宛先も差出人も書いていないけれど、封蝋に押された紋章はこの国の王族にのみ使用が許されるもの。それを確認して、ハロルドは小さくため息をついた。
「ツィリアと過ごしてる時は控えてって、兄上には言ったのになぁ」
文句を言いつつも、ハロルドは封筒を開く。そこに書かれた文字は、ハロルドにしか読むことができないように魔法がかけられている。内容を確認したハロルドは、にんまりとした笑みを浮かべた。
「あの男、捕まったって。良かったね、ツィリア」
眠るツィリアに囁きながら、ハロルドは上機嫌で手紙を読み進める。
「ふむ、色々と悪事に手を染めてたみたいだねぇ。まぁ、ツィリアに手を出したのが一番の大罪だけどね」
捕えられた男は、近いうちに処分を受けることになるだろう。恐らくは、貴族籍の剥奪。本当は、ハロルドの大切な金糸雀に触れた汚らしい手など、今すぐにでも斬り落としてやりたいくらいだけど。
とはいえ、あの男のおかげでツィリアを手に入れることができたのだから、この処分は命までは取らないでおいてやろうというハロルドの優しさだ。
ハロルドがこの国の第三王子であることを、ツィリアは知らない。知ればきっと彼女は萎縮するだろうから、それを告げるつもりはないし、ツィリアの前では意識して平民のハロルドを演じている。
第三王子とはいえ、母親は国王が気まぐれに手を出した侍女なので、その地位は低い。ハロルド自身も王位になど興味はないので、いずれ王となる兄をサポートをしていくと早いうちから宣言している。後継者争いの種を生まないために、結婚はしても子供は作らないことも決めているし、案外気楽な立場だ。だからこそ、ハロルドはツィリアを手に入れられた。
下級貴族の男がツィリアに目をつけて襲ったところまでは実際にあったこと。だけどツィリアを探すチラシは、ハロルドが密かに命じて作らせたものだ。
あの男がツィリアに目をつけるより先に、ハロルドはツィリアに出会っている。
それは、運命だったのかもしれない。たまたま平民街を歩いていたところ、とある部屋の窓のカーテンがふわりと風に揺れた。その瞬間、外から飛んできた黄色い小鳥が美しい女性の姿に変わるのを見たのだ。恐らく彼女は、獣人の血を引く者。
まるで内側から光を放っているかのような彼女の裸体に見惚れ、手に入れたいと思った。
だからハロルドは、小鳥の姿の彼女を手懐けることから始めたのだ。
最初は、珍しい獣人の血をひく娘を手に入れたいという思いだけだった。だけど、彼女の働く姿や楽しそうに笑う顔、そして信頼してハロルドの手からパンを啄む愛らしい小鳥の姿を見て、いつしか彼女の心も身体も全て手に入れたいと思うようになった。
そんな時に起きた、ツィリアの誘拐未遂事件。密かにツィリアの動向を見張らせていた者から報告を受けた時は、目の前が真っ赤になるほどの怒りを感じたけれど、それは彼女を手に入れるチャンスでもあった。
弱ったツィリアを保護して、彼女の心の中に入り込んだ。そして逃げられないように、うっかり外に出たいなどと言い出さないように、時々外の世界は恐ろしい場所であることを教えてやる。怯える彼女を優しく宥めて、ハロルドなしでは生きられないように依存させた。
ツィリアの世界は、ハロルドが用意したこの部屋の中だけ。外に出ればあの男がまたやってくると、彼女は心から信じ込んでいる。
平民育ちの彼女が萎縮しないように、華美になりすぎないようにと気を使って準備した居心地の良いこの部屋は、ツィリアのための鳥籠。
彼女は知らないけれど、この部屋は城の一角にあり、ハロルド以外が出入りすることができない。王族としての権力をここぞとばかりに使って、腕のある魔術師にまるで檻のような結界を張らせたのだ。だから、ツィリアもこの部屋から出ることはできない。もっとも、彼女が自分の意思でこの部屋を出ることはないだろうけれど。
ハロルドは、気持ちよさそうに眠るツィリアの左手をそっと取り上げた。こっそりと薬指に滑らせた指輪に、目覚めた彼女は気づくだろうか。
自分の瞳の色によく似た緑の石が光る指輪は、特殊な魔法によって彼女が鳥の姿になった時は首輪になるように設定されている。どちらの姿をしていても、彼女はハロルドのものだと分かるように。
毛布からのぞく剥き出しの肌を見るだけで、眠る彼女をまた抱きたくなる気持ちを堪えながら、ハロルドは柔らかな唇に触れるだけのキスを落とした。
ハロルドに愛される時のツィリアの声は、まるで鳥の囀りのよう。必死に声を堪えようとするのが可愛くて、つい意地悪に責め立ててしまう。
小鳥の姿で愛らしく鳴くのも、ハロルドの腕の中で淫らに鳴くのも、誰にも見せないし聴かせない。だから、この鳥籠からは決して出してやらない。
「可愛い俺の金糸雀。愛してる」
指輪に唇を押し当てて、ハロルドはつぶやいた。
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