【R18】檻の中の金糸雀は、今日も小さく愛を囀る

夕月

文字の大きさ
上 下
7 / 7

7 檻の中の金糸雀 ハロルド視点

しおりを挟む
 疲れ切って眠るツィリアの金の髪を梳きながら、ハロルドは窓辺に視線をやった。陽当たりの良いそこに吊るされた金の鳥籠は、小鳥の姿になった時のツィリアのために用意したもの。シンプルな作りだけど、素材は最高級のものを使用している。ハロルドの可愛い金糸雀には、相応しいものを与えてやりたいから。
「ツィリアは、俺のためだけに鳴いていればいいからね」
 優しく頭を撫でながら、ハロルドはつぶやく。
 その時、小さな白い封筒が窓の隙間から侵入してきてハロルドの目の前にぽとりと落ちた。宛先も差出人も書いていないけれど、封蝋に押された紋章はこの国の王族にのみ使用が許されるもの。それを確認して、ハロルドは小さくため息をついた。
「ツィリアと過ごしてる時は控えてって、兄上には言ったのになぁ」
 文句を言いつつも、ハロルドは封筒を開く。そこに書かれた文字は、ハロルドにしか読むことができないように魔法がかけられている。内容を確認したハロルドは、にんまりとした笑みを浮かべた。
「あの男、捕まったって。良かったね、ツィリア」
 眠るツィリアに囁きながら、ハロルドは上機嫌で手紙を読み進める。
「ふむ、色々と悪事に手を染めてたみたいだねぇ。まぁ、ツィリアに手を出したのが一番の大罪だけどね」
 捕えられた男は、近いうちに処分を受けることになるだろう。恐らくは、貴族籍の剥奪。本当は、ハロルドの大切な金糸雀ツィリアに触れた汚らしい手など、今すぐにでも斬り落としてやりたいくらいだけど。
 とはいえ、あの男のおかげでツィリアを手に入れることができたのだから、この処分は命までは取らないでおいてやろうというハロルドの優しさだ。
 
 ハロルドがこの国の第三王子であることを、ツィリアは知らない。知ればきっと彼女は萎縮するだろうから、それを告げるつもりはないし、ツィリアの前では意識して平民のハロルドを演じている。
 第三王子とはいえ、母親は国王が気まぐれに手を出した侍女なので、その地位は低い。ハロルド自身も王位になど興味はないので、いずれ王となる兄をサポートをしていくと早いうちから宣言している。後継者争いの種を生まないために、結婚はしても子供は作らないことも決めているし、案外気楽な立場だ。だからこそ、ハロルドはツィリアを手に入れられた。

 下級貴族の男がツィリアに目をつけて襲ったところまでは実際にあったこと。だけどツィリアを探すチラシは、ハロルドが密かに命じて作らせたものだ。
 あの男がツィリアに目をつけるより先に、ハロルドはツィリアに出会っている。
 それは、運命だったのかもしれない。たまたま平民街を歩いていたところ、とある部屋の窓のカーテンがふわりと風に揺れた。その瞬間、外から飛んできた黄色い小鳥が美しい女性の姿に変わるのを見たのだ。恐らく彼女は、獣人の血を引く者。
 まるで内側から光を放っているかのような彼女の裸体に見惚れ、手に入れたいと思った。
 だからハロルドは、小鳥の姿の彼女を手懐けることから始めたのだ。
 
 最初は、珍しい獣人の血をひく娘を手に入れたいという思いだけだった。だけど、彼女の働く姿や楽しそうに笑う顔、そして信頼してハロルドの手からパンを啄む愛らしい小鳥の姿を見て、いつしか彼女の心も身体も全て手に入れたいと思うようになった。
 そんな時に起きた、ツィリアの誘拐未遂事件。密かにツィリアの動向を見張らせていた者から報告を受けた時は、目の前が真っ赤になるほどの怒りを感じたけれど、それは彼女を手に入れるチャンスでもあった。
 弱ったツィリアを保護して、彼女の心の中に入り込んだ。そして逃げられないように、うっかり外に出たいなどと言い出さないように、時々外の世界は恐ろしい場所であることを教えてやる。怯える彼女を優しく宥めて、ハロルドなしでは生きられないように依存させた。
 
 ツィリアの世界は、ハロルドが用意したこの部屋の中だけ。外に出ればあの男がまたやってくると、彼女は心から信じ込んでいる。
 平民育ちの彼女が萎縮しないように、華美になりすぎないようにと気を使って準備した居心地の良いこの部屋は、ツィリアのための鳥籠。
 彼女は知らないけれど、この部屋は城の一角にあり、ハロルド以外が出入りすることができない。王族としての権力をここぞとばかりに使って、腕のある魔術師にまるで檻のような結界を張らせたのだ。だから、ツィリアもこの部屋から出ることはできない。もっとも、彼女が自分の意思でこの部屋を出ることはないだろうけれど。

 
 ハロルドは、気持ちよさそうに眠るツィリアの左手をそっと取り上げた。こっそりと薬指に滑らせた指輪に、目覚めた彼女は気づくだろうか。
 自分の瞳の色によく似た緑の石が光る指輪は、特殊な魔法によって彼女が鳥の姿になった時は首輪になるように設定されている。どちらの姿をしていても、彼女はハロルドのものだと分かるように。

 毛布からのぞく剥き出しの肌を見るだけで、眠る彼女をまた抱きたくなる気持ちを堪えながら、ハロルドは柔らかな唇に触れるだけのキスを落とした。
 ハロルドに愛される時のツィリアの声は、まるで鳥の囀りのよう。必死に声を堪えようとするのが可愛くて、つい意地悪に責め立ててしまう。
 小鳥の姿で愛らしく鳴くのも、ハロルドの腕の中で淫らに鳴くのも、誰にも見せないし聴かせない。だから、この鳥籠からは決して出してやらない。
 
「可愛い俺の金糸雀。愛してる」
 指輪に唇を押し当てて、ハロルドはつぶやいた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

処理中です...