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4 外の世界はこわいところ
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食事を終えたツィリアは、また人間の姿に戻った。鳥の姿でハロルドの手から食べさせてもらうのは、ツィリアにとって今も変わらぬ幸福の時間。
「コーヒーを淹れるね」
白いワンピースをまた身に着けて、ツィリアは軽やかな足取りでキッチンへと向かう。
ハロルドにはブラックで、自分用にはお砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを持って彼の待つソファへと向かおうとした時、テーブルの上に置かれたチラシが目に入った。
「これ……」
「……っ、ごめん、処分しておけば良かった。ツィリアは気にしなくて大丈夫だよ。ここは安全だから」
一瞬で顔色を悪くしたツィリアに気づいたのだろう、ハロルドが慌てたように駆け寄ってきて、テーブルの上のチラシを取り上げてゴミ箱に捨てる。
はっきりと見たわけではないけれど、ハロルドが隠したチラシは人探しのものだ。そして、そこに書かれているのはツィリアのこと。
手に入れる寸前で逃したことが余程悔しかったのか、あの男はツィリアを婚約者だと偽って人探しのチラシをばら撒き始めたのだ。末端とはいえ貴族階級に属している男の権力の前では、平民のツィリアが自分は婚約者ではないと言ったところで、捻り潰されるだろう。もしもまたあの男に見つかれば、今度こそ逃げられない。
ツィリアの事情を知ったハロルドは、それならここに居ればいいと言ってくれた。彼の家はツィリアの住んでいた場所から随分と離れた場所にあり、あの貴族の男の住まいからも遠い。
迷惑をかけるわけにはいかないと一度は断わろうとしたものの、外に出ようとした瞬間にチラシを手にツィリアを探す人の姿を見てしまい、恐怖でその場から動けなくなってしまった。
多額の懸賞金をかけられたツィリアの存在は、今や街中の人が探しているといっても過言ではない。男は、何度も何度もチラシをばら撒いているようだから。
結局、ツィリアはハロルドの優しさに甘えて、今も彼の家にいる。
ただで世話になるのが申し訳なくて、食事を作るのはツィリアの仕事にさせてもらったけど、買い出しはハロルドに任せるしかない。完全にお荷物でしかないツィリアなのに、優しく笑って受け入れてくれるハロルドに何度惚れ直しただろう。
これ以上重荷になりたくなくて、想いを告げないと決めていたのに、それを越えてきたのはハロルドの方だった。
ある時、世話になりっぱなしで申し訳ないと相変わらず眉を下げるツィリアにハロルドは、大好きな子が家にいてくれて幸せだからと笑ったのだ。
保護した小鳥が人間の姿になったのを見た時に、一目惚れをしたんだと照れくさそうに告げてくれたハロルドに、ツィリアも小鳥として触れ合っていた時から好きだったと想いを打ち明けて、ふたりは恋人となった。
以来、ツィリアはこの部屋の中でハロルドに愛されながら暮らしている。外には出られないものの、鳥の姿となって部屋の中を飛び回ることはできるから、運動不足になることはない。毎晩のように、ベッドの上でも散々運動させられているけれど。
「諦めの悪いやつだよね。だけど、きっとあと少しで落ち着くよ。ツィリアのことは俺が守るから、何も心配しないで。戸締りだけは気をつけておこうね」
宥めるように、抱きしめたツィリアの頭を撫でながらハロルドが優しく囁く。この腕の中にいる時が一番落ち着けるなと思いながら、ツィリアはこくりとうなずいた。
「コーヒーを淹れるね」
白いワンピースをまた身に着けて、ツィリアは軽やかな足取りでキッチンへと向かう。
ハロルドにはブラックで、自分用にはお砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを持って彼の待つソファへと向かおうとした時、テーブルの上に置かれたチラシが目に入った。
「これ……」
「……っ、ごめん、処分しておけば良かった。ツィリアは気にしなくて大丈夫だよ。ここは安全だから」
一瞬で顔色を悪くしたツィリアに気づいたのだろう、ハロルドが慌てたように駆け寄ってきて、テーブルの上のチラシを取り上げてゴミ箱に捨てる。
はっきりと見たわけではないけれど、ハロルドが隠したチラシは人探しのものだ。そして、そこに書かれているのはツィリアのこと。
手に入れる寸前で逃したことが余程悔しかったのか、あの男はツィリアを婚約者だと偽って人探しのチラシをばら撒き始めたのだ。末端とはいえ貴族階級に属している男の権力の前では、平民のツィリアが自分は婚約者ではないと言ったところで、捻り潰されるだろう。もしもまたあの男に見つかれば、今度こそ逃げられない。
ツィリアの事情を知ったハロルドは、それならここに居ればいいと言ってくれた。彼の家はツィリアの住んでいた場所から随分と離れた場所にあり、あの貴族の男の住まいからも遠い。
迷惑をかけるわけにはいかないと一度は断わろうとしたものの、外に出ようとした瞬間にチラシを手にツィリアを探す人の姿を見てしまい、恐怖でその場から動けなくなってしまった。
多額の懸賞金をかけられたツィリアの存在は、今や街中の人が探しているといっても過言ではない。男は、何度も何度もチラシをばら撒いているようだから。
結局、ツィリアはハロルドの優しさに甘えて、今も彼の家にいる。
ただで世話になるのが申し訳なくて、食事を作るのはツィリアの仕事にさせてもらったけど、買い出しはハロルドに任せるしかない。完全にお荷物でしかないツィリアなのに、優しく笑って受け入れてくれるハロルドに何度惚れ直しただろう。
これ以上重荷になりたくなくて、想いを告げないと決めていたのに、それを越えてきたのはハロルドの方だった。
ある時、世話になりっぱなしで申し訳ないと相変わらず眉を下げるツィリアにハロルドは、大好きな子が家にいてくれて幸せだからと笑ったのだ。
保護した小鳥が人間の姿になったのを見た時に、一目惚れをしたんだと照れくさそうに告げてくれたハロルドに、ツィリアも小鳥として触れ合っていた時から好きだったと想いを打ち明けて、ふたりは恋人となった。
以来、ツィリアはこの部屋の中でハロルドに愛されながら暮らしている。外には出られないものの、鳥の姿となって部屋の中を飛び回ることはできるから、運動不足になることはない。毎晩のように、ベッドの上でも散々運動させられているけれど。
「諦めの悪いやつだよね。だけど、きっとあと少しで落ち着くよ。ツィリアのことは俺が守るから、何も心配しないで。戸締りだけは気をつけておこうね」
宥めるように、抱きしめたツィリアの頭を撫でながらハロルドが優しく囁く。この腕の中にいる時が一番落ち着けるなと思いながら、ツィリアはこくりとうなずいた。
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