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2 黄色い小鳥
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目を覚ましたツィリアは、身体を起こすとゆっくりと着替え始めた。夢うつつに頭を撫でられて、行ってくると声をかけられた気がするから、ハロルドはもう仕事に行ったのかもしれない。
袖を通した白いワンピースは、ツィリアの金の髪がよく映えるからとハロルドが贈ってくれたもの。後ろ側が大きく開いているのは、背中が敏感なツィリアのためだとハロルドは言うけれど、そんなことを言いながら彼は時々揶揄うように背中に触れてくるのだから、本当はハロルドの好みなのではないかとツィリアは少し疑っている。
その時寝室の扉が開いて、紙袋を抱えたハロルドが顔を出した。
「おはよう、お寝坊さん」
頭を撫でる大きな手の心地よさに目を細めつつ、ツィリアはハロルドに抱きついて少しだけ拗ねた顔をしてみせる。
「起きられなかったのは、誰のせい?」
「うん、俺のせいだね。だけど、ツィリアが可愛いから仕方ない」
つい、朝から抱きたくなっちゃうんだものと笑いながら、ハロルドが紙袋の中からパンを取り出した。どうやら買い物に行っていたようだ。
「食事にしようか、ツィリア。きみの大好きなパンを買ってきたよ」
うなずいたツィリアは、一度ハロルドの頬にそっと唇を寄せたあと、その場でくるりと回った。白いワンピースの裾が、それに合わせてふわりと広がる。次の瞬間、ワンピースは持ち主を失って床に落ちた。
と同時に、ハロルドの肩には金に近い黄色をした羽根を持つ小鳥が止まる。小さくピィと鳴いた小鳥を指先で撫でて、ハロルドはパンを小さくちぎると薄紅色の嘴の前に差し出した。
「ツィリアは、本当に可愛いね」
パンを突いて食べる小鳥を撫でながら、ハロルドは優しく笑う。
「人間の姿のきみも、この姿のきみも、どちらも本当に大好きなんだよ」
そっと触れる指先のぬくもりを感じながら、ツィリアも返事をするように小さく鳴いた。
ツィリアは、鳥獣人の母親と人間の父親を持つ、いわゆる半獣人だ。母親のように背中に羽根は持たないけれど、鳥の姿に形を変えることはできる。
だけどこの国において獣人はあまり一般的ではなく、目立ってトラブルになることを避けるため、ツィリアは獣人の血を引くことは隠して暮らしている。
普段は人間として生活しながらも、お昼過ぎにこっそりと鳥の姿になって近所の公園に行くのがツィリアの日課だった。
ツィリアもお気に入りの大きな木の下で、お昼を食べていたハロルドが食べていたパンを少し分けてくれたのが、ふたりの出会い。
もちろんハロルドはツィリアのことを単なる小鳥だと思っていただろうし、ツィリアも正体を明かす気はなかった。ただ、お昼のひとときに彼と触れ合う時間は幸せで、向けられる優しい微笑みや羽根を撫でてくれる指先のぬくもりが嬉しくて、いつしかツィリアはハロルドに仄かな恋心を抱いていた。
勇気を出して、人間の姿でハロルドに会いに行くことも考えたけれど、言葉を交わせない鳥の姿で得られるハロルドの情報はほとんどない。だから、毎日のように会っていても、ツィリアはハロルドの年齢も仕事も住んでいる場所も、何も知らなかった。
袖を通した白いワンピースは、ツィリアの金の髪がよく映えるからとハロルドが贈ってくれたもの。後ろ側が大きく開いているのは、背中が敏感なツィリアのためだとハロルドは言うけれど、そんなことを言いながら彼は時々揶揄うように背中に触れてくるのだから、本当はハロルドの好みなのではないかとツィリアは少し疑っている。
その時寝室の扉が開いて、紙袋を抱えたハロルドが顔を出した。
「おはよう、お寝坊さん」
頭を撫でる大きな手の心地よさに目を細めつつ、ツィリアはハロルドに抱きついて少しだけ拗ねた顔をしてみせる。
「起きられなかったのは、誰のせい?」
「うん、俺のせいだね。だけど、ツィリアが可愛いから仕方ない」
つい、朝から抱きたくなっちゃうんだものと笑いながら、ハロルドが紙袋の中からパンを取り出した。どうやら買い物に行っていたようだ。
「食事にしようか、ツィリア。きみの大好きなパンを買ってきたよ」
うなずいたツィリアは、一度ハロルドの頬にそっと唇を寄せたあと、その場でくるりと回った。白いワンピースの裾が、それに合わせてふわりと広がる。次の瞬間、ワンピースは持ち主を失って床に落ちた。
と同時に、ハロルドの肩には金に近い黄色をした羽根を持つ小鳥が止まる。小さくピィと鳴いた小鳥を指先で撫でて、ハロルドはパンを小さくちぎると薄紅色の嘴の前に差し出した。
「ツィリアは、本当に可愛いね」
パンを突いて食べる小鳥を撫でながら、ハロルドは優しく笑う。
「人間の姿のきみも、この姿のきみも、どちらも本当に大好きなんだよ」
そっと触れる指先のぬくもりを感じながら、ツィリアも返事をするように小さく鳴いた。
ツィリアは、鳥獣人の母親と人間の父親を持つ、いわゆる半獣人だ。母親のように背中に羽根は持たないけれど、鳥の姿に形を変えることはできる。
だけどこの国において獣人はあまり一般的ではなく、目立ってトラブルになることを避けるため、ツィリアは獣人の血を引くことは隠して暮らしている。
普段は人間として生活しながらも、お昼過ぎにこっそりと鳥の姿になって近所の公園に行くのがツィリアの日課だった。
ツィリアもお気に入りの大きな木の下で、お昼を食べていたハロルドが食べていたパンを少し分けてくれたのが、ふたりの出会い。
もちろんハロルドはツィリアのことを単なる小鳥だと思っていただろうし、ツィリアも正体を明かす気はなかった。ただ、お昼のひとときに彼と触れ合う時間は幸せで、向けられる優しい微笑みや羽根を撫でてくれる指先のぬくもりが嬉しくて、いつしかツィリアはハロルドに仄かな恋心を抱いていた。
勇気を出して、人間の姿でハロルドに会いに行くことも考えたけれど、言葉を交わせない鳥の姿で得られるハロルドの情報はほとんどない。だから、毎日のように会っていても、ツィリアはハロルドの年齢も仕事も住んでいる場所も、何も知らなかった。
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