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7 素直な気持ちを告げてみる
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「ん……」
寝返りをしようとしたら、全く動けないことに気づいてメルヴィナは目を開けた。
金縛りにでもあったかと思ったけれど、メルヴィナの身体を拘束しているのはうしろから抱きついた誰かの腕。
そのことに気づくのと同時に、自分が服を着ていないことにも気づいて、メルヴィナは小さく悲鳴をあげた。
「メルヴィナ、どうした?」
「ひゃ!? フィ、フィンリー?」
「んー、おはよう。えらく早起きだな、朝弱くていつもギリギリまで寝てるくせに」
「え、あ、でも、遅刻はしたことないもの!」
「うん、まぁ時々寝癖ついてるけどな」
「わ、悪い?」
「いや、可愛いなと思って、いつも見てた」
「かわ……っ!?」
思いがけない言葉に目を見開くと、ぎゅっと強く抱きしめたフィンリーがメルヴィナの顔をうしろからのぞき込んだ。
「昨夜のこと、覚えてる?」
「……っ」
見つめる瞳は、今まで見たことないほどに甘く優しい。
「夢じゃ、なかったの……?」
「夢じゃないよ、現実。ほら、証拠だって残してる」
そう言ってフィンリーの指が肌を滑り、胸元をそっと撫でる。そこに残る赤い痕は、確かに夢の中でフィンリーにつけられたもの。
同時にあられもないことを散々口にした自分を思い出して、メルヴィナの顔は一気に真っ赤になる。
「嘘、あれ夢だと思ってたから、私……」
「昨夜のメルヴィナ、死ぬほど可愛かった。好きだって言ってくれたのは、催淫剤のせいじゃないよな?」
間近で見つめるアイスブルーの瞳は、メルヴィナの体温を下げるどころか身体ごと溶かしてしまいそうなほどの熱をはらんでいる。
「……っ、それ、は」
口ごもるメルヴィナを抱き寄せて、フィンリーは耳元にそっと口づけた。
「もう、催淫剤の効果は切れたよな? あらためてちゃんと言わせて。ずっと、メルヴィナのことが好きだった。メルヴィナが怒って反応してくれるのが嬉しくてさ、つい揶揄うようなことばかり言ってたけど……。子供みたいで、ごめん」
「私も、……っフィンリーが話しかけてくれるの、嬉しかった、から」
「もっとお互い素直になってれば良かったな。でも昨夜、メルヴィナが俺のこと好きって言ってくれて本当に嬉しかったんだ。夢じゃないよなって、何度も確認した」
笑いながら、フィンリーがメルヴィナを強く抱きしめる。
「でもまだ、なんだか夢……みたい」
夢だと思っていたことが現実で、失恋確定だと思っていたのに両思いで、まだ頭の中がふわふわとしている。
「じゃあ昨夜のことが夢じゃないって確認するために、正気に戻った今、もう一度しようか」
くすりと笑ったフィンリーの手が、メルヴィナの肌の上を滑っていく。その手が昨夜、どれほどメルヴィナを翻弄したかを思い出して、身体の奥に残っていた熱がまた広がっていく。
「で、でも昨日はあの、薬のせいで私、どうかしてたから、普段は違うの、多分……っ」
「昨日のあれはあれで、ものすごく可愛かったけど、どんなメルヴィナも好きだから大丈夫」
あんなに発情して、はしたないことを口走ったメルヴィナを可愛いと言ってくれるなんて。
恥ずかしさと共に嬉しさも湧き上がってくる。
「かわ、可愛いって……思ってくれる、の?」
「うん。メルヴィナは、何してても可愛い。真面目な仕事ぶりも、そのくせ頭に寝癖ついてても気にしてないとこも、怒った顔のメルヴィナも、昨日みたいに素直なメルヴィナも、全部可愛い」
「わぁぁ、フィンリーが甘すぎる……っ」
受け止めきれないほどの甘い言葉を囁かれて、メルヴィナは真っ赤になった頬を押さえてうつむく。それを見て、フィンリーは楽しそうに笑った。
「子供みたいに揶揄って反応をもらうのは、もうやめる。思ったことは素直に伝えた方がいいって思ったから」
だから、と囁いて、フィンリーは抱き寄せたメルヴィナの顔をのぞき込んだ。
「もう一度、したい。今度はちゃんとお互い正気なままで。俺がどれほどメルヴィナのことを好きなのか、言葉と態度で示させて」
「ま、待って、せめて場所……っ変えよう!?」
昨夜はここで散々色んなことをしてしまったけれど、これ以上職場であれこれするのは避けたい。
「そう……だな、今日は休日とはいえ、誰かに邪魔されるのは嫌だし」
身体を起こしたフィンリーは、自分の部屋に行こうと言って手早く着替え始める。
騎士団の寮に入っている彼は、そこそこ大きめの個室を与えられているはずだ。
慌ててメルヴィナも服を着ようと起き上がると、フィンリーが悪戯っぽい笑みを浮かべて顔を近づけてきた。
「騎士団の寮ってすげぇ厳しくてさ。部屋に入ってもいい異性は、親か姉妹、それから婚約者に限るんだ」
言いながらフィンリーの指が、メルヴィナの左手に絡む。何も着けていない薬指をなぞるように撫でて、にこりと笑う。
「もうメルヴィナを手放す気はないから、そういうことでいいよな」
「……っ、そういうのは、もうちょっとロマンティックに告げるべきだわ」
すごく嬉しいのに、照れくささも相まって可愛くないことを言ってしまう。
ツンと顔を逸らしたメルヴィナを見て、フィンリーは少し眉を下げた。
「そう、だよな。あぁもう、こういうとこだよな……。でも、メルヴィナを手放す気はないのは本当で……っ」
「分かってる。私も嬉しいのに、つい可愛げのないこと言っちゃう。ねぇ、フィンリーの部屋に連れて行って」
一瞬で落ち込んだ様子を見せたフィンリーが可愛く思えて、メルヴィナは笑って顔をのぞき込む。
「ちゃんとしたプロポーズは、またあらためてさせて。今はとにかく、もう一度メルヴィナとしたい」
「正直すぎでしょ」
くすくすと笑いながら、メルヴィナはフィンリーに抱きついた。
その後、フィンリーの部屋でメルヴィナは、週末の休みのほとんどを彼のベッドの上で過ごすことになった。
騎士の体力半端ない……と思いつつも、優しく甘く蕩かしてくれるフィンリーに、メルヴィナは全身で溺れた。
あとでこっそり職場に行って、フィンリーとのあれこれが誰にも気づかれませんようにと密かに願いつつ、即席で作った除菌消臭剤をソファに向けてたっぷりと振りかけたのは、ここだけの話。
寝返りをしようとしたら、全く動けないことに気づいてメルヴィナは目を開けた。
金縛りにでもあったかと思ったけれど、メルヴィナの身体を拘束しているのはうしろから抱きついた誰かの腕。
そのことに気づくのと同時に、自分が服を着ていないことにも気づいて、メルヴィナは小さく悲鳴をあげた。
「メルヴィナ、どうした?」
「ひゃ!? フィ、フィンリー?」
「んー、おはよう。えらく早起きだな、朝弱くていつもギリギリまで寝てるくせに」
「え、あ、でも、遅刻はしたことないもの!」
「うん、まぁ時々寝癖ついてるけどな」
「わ、悪い?」
「いや、可愛いなと思って、いつも見てた」
「かわ……っ!?」
思いがけない言葉に目を見開くと、ぎゅっと強く抱きしめたフィンリーがメルヴィナの顔をうしろからのぞき込んだ。
「昨夜のこと、覚えてる?」
「……っ」
見つめる瞳は、今まで見たことないほどに甘く優しい。
「夢じゃ、なかったの……?」
「夢じゃないよ、現実。ほら、証拠だって残してる」
そう言ってフィンリーの指が肌を滑り、胸元をそっと撫でる。そこに残る赤い痕は、確かに夢の中でフィンリーにつけられたもの。
同時にあられもないことを散々口にした自分を思い出して、メルヴィナの顔は一気に真っ赤になる。
「嘘、あれ夢だと思ってたから、私……」
「昨夜のメルヴィナ、死ぬほど可愛かった。好きだって言ってくれたのは、催淫剤のせいじゃないよな?」
間近で見つめるアイスブルーの瞳は、メルヴィナの体温を下げるどころか身体ごと溶かしてしまいそうなほどの熱をはらんでいる。
「……っ、それ、は」
口ごもるメルヴィナを抱き寄せて、フィンリーは耳元にそっと口づけた。
「もう、催淫剤の効果は切れたよな? あらためてちゃんと言わせて。ずっと、メルヴィナのことが好きだった。メルヴィナが怒って反応してくれるのが嬉しくてさ、つい揶揄うようなことばかり言ってたけど……。子供みたいで、ごめん」
「私も、……っフィンリーが話しかけてくれるの、嬉しかった、から」
「もっとお互い素直になってれば良かったな。でも昨夜、メルヴィナが俺のこと好きって言ってくれて本当に嬉しかったんだ。夢じゃないよなって、何度も確認した」
笑いながら、フィンリーがメルヴィナを強く抱きしめる。
「でもまだ、なんだか夢……みたい」
夢だと思っていたことが現実で、失恋確定だと思っていたのに両思いで、まだ頭の中がふわふわとしている。
「じゃあ昨夜のことが夢じゃないって確認するために、正気に戻った今、もう一度しようか」
くすりと笑ったフィンリーの手が、メルヴィナの肌の上を滑っていく。その手が昨夜、どれほどメルヴィナを翻弄したかを思い出して、身体の奥に残っていた熱がまた広がっていく。
「で、でも昨日はあの、薬のせいで私、どうかしてたから、普段は違うの、多分……っ」
「昨日のあれはあれで、ものすごく可愛かったけど、どんなメルヴィナも好きだから大丈夫」
あんなに発情して、はしたないことを口走ったメルヴィナを可愛いと言ってくれるなんて。
恥ずかしさと共に嬉しさも湧き上がってくる。
「かわ、可愛いって……思ってくれる、の?」
「うん。メルヴィナは、何してても可愛い。真面目な仕事ぶりも、そのくせ頭に寝癖ついてても気にしてないとこも、怒った顔のメルヴィナも、昨日みたいに素直なメルヴィナも、全部可愛い」
「わぁぁ、フィンリーが甘すぎる……っ」
受け止めきれないほどの甘い言葉を囁かれて、メルヴィナは真っ赤になった頬を押さえてうつむく。それを見て、フィンリーは楽しそうに笑った。
「子供みたいに揶揄って反応をもらうのは、もうやめる。思ったことは素直に伝えた方がいいって思ったから」
だから、と囁いて、フィンリーは抱き寄せたメルヴィナの顔をのぞき込んだ。
「もう一度、したい。今度はちゃんとお互い正気なままで。俺がどれほどメルヴィナのことを好きなのか、言葉と態度で示させて」
「ま、待って、せめて場所……っ変えよう!?」
昨夜はここで散々色んなことをしてしまったけれど、これ以上職場であれこれするのは避けたい。
「そう……だな、今日は休日とはいえ、誰かに邪魔されるのは嫌だし」
身体を起こしたフィンリーは、自分の部屋に行こうと言って手早く着替え始める。
騎士団の寮に入っている彼は、そこそこ大きめの個室を与えられているはずだ。
慌ててメルヴィナも服を着ようと起き上がると、フィンリーが悪戯っぽい笑みを浮かべて顔を近づけてきた。
「騎士団の寮ってすげぇ厳しくてさ。部屋に入ってもいい異性は、親か姉妹、それから婚約者に限るんだ」
言いながらフィンリーの指が、メルヴィナの左手に絡む。何も着けていない薬指をなぞるように撫でて、にこりと笑う。
「もうメルヴィナを手放す気はないから、そういうことでいいよな」
「……っ、そういうのは、もうちょっとロマンティックに告げるべきだわ」
すごく嬉しいのに、照れくささも相まって可愛くないことを言ってしまう。
ツンと顔を逸らしたメルヴィナを見て、フィンリーは少し眉を下げた。
「そう、だよな。あぁもう、こういうとこだよな……。でも、メルヴィナを手放す気はないのは本当で……っ」
「分かってる。私も嬉しいのに、つい可愛げのないこと言っちゃう。ねぇ、フィンリーの部屋に連れて行って」
一瞬で落ち込んだ様子を見せたフィンリーが可愛く思えて、メルヴィナは笑って顔をのぞき込む。
「ちゃんとしたプロポーズは、またあらためてさせて。今はとにかく、もう一度メルヴィナとしたい」
「正直すぎでしょ」
くすくすと笑いながら、メルヴィナはフィンリーに抱きついた。
その後、フィンリーの部屋でメルヴィナは、週末の休みのほとんどを彼のベッドの上で過ごすことになった。
騎士の体力半端ない……と思いつつも、優しく甘く蕩かしてくれるフィンリーに、メルヴィナは全身で溺れた。
あとでこっそり職場に行って、フィンリーとのあれこれが誰にも気づかれませんようにと密かに願いつつ、即席で作った除菌消臭剤をソファに向けてたっぷりと振りかけたのは、ここだけの話。
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