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3 はじめての、キス
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「確か解毒剤の調合手順は……」
台の上に散らばる調合途中の材料を見ながら、フィンリーが記憶を辿るように眉を寄せる。
騎士である彼も、学生時代に座学で使用頻度の高い薬の調合はひととおり習っているはずだ。剣の才能だけでなく頭も良かったフィンリーは、十年近く昔に学んだことをきっちりと覚えているのだろう。
だけど今から調合をしたところで、もう遅い。メルヴィナの身体は、快楽を求めてずっと疼き続けているのだから。必死に耐えてきたけれど、あの薬剤入りの酒を飲んでからかなりの時間が経過している。
少しでも気を緩めれば、今すぐここで自慰を始めてしまうかフィンリーを押し倒しそうなほど、メルヴィナは追い詰められていた。
「おねが……い、もう、出てって」
「え?」
「手伝いなんて、いらないから……っ、どっか、行って」
「でも、メルヴィナ」
不機嫌そうに眉を顰めるその表情は、せっかく手伝っているのにとでも言いたげだ。
「もう、薬なんか効かない。限界なの。とにかくヤりたくてたまんないの。襲われたくなかったら、今すぐ出てって」
唇を震わせて吐き捨てるように言うと、フィンリーが驚いたように目を見開いた。その表情に、自分で言ったことなのに胸の奥がちくりと痛んだ。
幼馴染の関係から縮まることのなかったこの距離は、今日を最後にぐんと開くだろう。
きっともう、口喧嘩すらしてもらえなくなる。
薬のせいとはいえ、発情しきったメルヴィナを見て、彼も引いているだろうから。
こんなことになるのなら、意地を張らずに好きだと告げていれば良かった。
たとえ顔を合わせれば喧嘩ばかりだったとしても、彼が気安く声をかけてくれるならそれでいいと、想いを伝えて振られることに怯えていたのが馬鹿みたいだ。
結局、想いを告げるどころかドン引きされて終わるなんて。
浮かんだ涙を振り払うように首を振って、メルヴィナは自分の服に手をかけた。
色気の欠片もない、一番上まできっちりと留められたシャツのボタンを外していく。少しずつ服が緩むたびに、抑えつけていた衝動が暴れ出しそうだ。
早く、直に肌に触れたい。
ずっと硬く尖って刺激を待ち望んでいる胸の先を、指先で強く摘んだらどれほど気持ちがいいだろうか。
「……メルヴィナ」
硬い声で名前を呼ばれて、メルヴィナはにらみつけるように顔を上げる。自慰を邪魔された苛立ちと、そんな浅ましい姿を見られているのだという絶望で、気持ちはぐちゃぐちゃだ。
「何? 私がここで、自分を慰めるのを見物したいっていうの? それとも、手伝ってくれるわけ? フィンリーが私を満足させてくれる?」
腹立ち紛れに挑発するようなことを言えば、アイスブルーの瞳が大きく見開かれる。躊躇うように視線を揺らしたあと、彼はくるりと背を向けて扉の方へと向かった。
ようやく一人きりになれるとため息をつき、服の中に手を突っ込んで胸に触れようとしたメルヴィナの耳に、カチリと冷たい音が響いた。
「……っ、なん、で、鍵……」
「手伝うから」
部屋の鍵を閉めて戻ってきたフィンリーは、そっとメルヴィナの頬に触れた。その優しい手つきに縋りたくなる気持ちを振り払って、にらみつける。
「馬鹿じゃないの。手伝うとか、本気? 同情なんて、いらな……」
文句を言おうとした唇は、フィンリーにふさがれた。柔らかな唇の感触に驚くと同時に、もっと欲しいと身体が疼き始める。
「ん……ふ、ぁ……」
メルヴィナが欲しがっていることを知っているかのように、フィンリーの舌が口内を余すところなくまさぐっていく。
これが初めてのキスだとか、何故フィンリーがこんなことをするのかとか、そんなことも舌を絡める気持ちよさでどこかにいってしまう。
どれほどの間、濃厚な口づけを交わしていたのだろう。
離れていった唇が名残惜しくて、メルヴィナは思わず不満気な吐息を漏らした。
「キスだけじゃ、足りないよな」
息が上がったメルヴィナの頭を撫でて、フィンリーが小さく笑った。その表情は見たことないほどに甘くて、胸が苦しくなる。同時に湧き上がるのは、まだ足りない、もっと直接的な刺激が欲しいという渇望。
台の上に散らばる調合途中の材料を見ながら、フィンリーが記憶を辿るように眉を寄せる。
騎士である彼も、学生時代に座学で使用頻度の高い薬の調合はひととおり習っているはずだ。剣の才能だけでなく頭も良かったフィンリーは、十年近く昔に学んだことをきっちりと覚えているのだろう。
だけど今から調合をしたところで、もう遅い。メルヴィナの身体は、快楽を求めてずっと疼き続けているのだから。必死に耐えてきたけれど、あの薬剤入りの酒を飲んでからかなりの時間が経過している。
少しでも気を緩めれば、今すぐここで自慰を始めてしまうかフィンリーを押し倒しそうなほど、メルヴィナは追い詰められていた。
「おねが……い、もう、出てって」
「え?」
「手伝いなんて、いらないから……っ、どっか、行って」
「でも、メルヴィナ」
不機嫌そうに眉を顰めるその表情は、せっかく手伝っているのにとでも言いたげだ。
「もう、薬なんか効かない。限界なの。とにかくヤりたくてたまんないの。襲われたくなかったら、今すぐ出てって」
唇を震わせて吐き捨てるように言うと、フィンリーが驚いたように目を見開いた。その表情に、自分で言ったことなのに胸の奥がちくりと痛んだ。
幼馴染の関係から縮まることのなかったこの距離は、今日を最後にぐんと開くだろう。
きっともう、口喧嘩すらしてもらえなくなる。
薬のせいとはいえ、発情しきったメルヴィナを見て、彼も引いているだろうから。
こんなことになるのなら、意地を張らずに好きだと告げていれば良かった。
たとえ顔を合わせれば喧嘩ばかりだったとしても、彼が気安く声をかけてくれるならそれでいいと、想いを伝えて振られることに怯えていたのが馬鹿みたいだ。
結局、想いを告げるどころかドン引きされて終わるなんて。
浮かんだ涙を振り払うように首を振って、メルヴィナは自分の服に手をかけた。
色気の欠片もない、一番上まできっちりと留められたシャツのボタンを外していく。少しずつ服が緩むたびに、抑えつけていた衝動が暴れ出しそうだ。
早く、直に肌に触れたい。
ずっと硬く尖って刺激を待ち望んでいる胸の先を、指先で強く摘んだらどれほど気持ちがいいだろうか。
「……メルヴィナ」
硬い声で名前を呼ばれて、メルヴィナはにらみつけるように顔を上げる。自慰を邪魔された苛立ちと、そんな浅ましい姿を見られているのだという絶望で、気持ちはぐちゃぐちゃだ。
「何? 私がここで、自分を慰めるのを見物したいっていうの? それとも、手伝ってくれるわけ? フィンリーが私を満足させてくれる?」
腹立ち紛れに挑発するようなことを言えば、アイスブルーの瞳が大きく見開かれる。躊躇うように視線を揺らしたあと、彼はくるりと背を向けて扉の方へと向かった。
ようやく一人きりになれるとため息をつき、服の中に手を突っ込んで胸に触れようとしたメルヴィナの耳に、カチリと冷たい音が響いた。
「……っ、なん、で、鍵……」
「手伝うから」
部屋の鍵を閉めて戻ってきたフィンリーは、そっとメルヴィナの頬に触れた。その優しい手つきに縋りたくなる気持ちを振り払って、にらみつける。
「馬鹿じゃないの。手伝うとか、本気? 同情なんて、いらな……」
文句を言おうとした唇は、フィンリーにふさがれた。柔らかな唇の感触に驚くと同時に、もっと欲しいと身体が疼き始める。
「ん……ふ、ぁ……」
メルヴィナが欲しがっていることを知っているかのように、フィンリーの舌が口内を余すところなくまさぐっていく。
これが初めてのキスだとか、何故フィンリーがこんなことをするのかとか、そんなことも舌を絡める気持ちよさでどこかにいってしまう。
どれほどの間、濃厚な口づけを交わしていたのだろう。
離れていった唇が名残惜しくて、メルヴィナは思わず不満気な吐息を漏らした。
「キスだけじゃ、足りないよな」
息が上がったメルヴィナの頭を撫でて、フィンリーが小さく笑った。その表情は見たことないほどに甘くて、胸が苦しくなる。同時に湧き上がるのは、まだ足りない、もっと直接的な刺激が欲しいという渇望。
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