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2 熱い身体
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「メルヴィナ!?」
慌てたようなフィンリーの声と同時に駆け寄ってくる足音。
「や、来ないで……ひ、あぁっ」
咄嗟に叫んだものの、騎士の俊敏さを舐めてはいけない。気づけばメルヴィナはフィンリーにうしろから抱きかかえられていた。自分の唇からこぼれ落ちる、甘えたような媚びた悲鳴に、耳を塞ぎたくなる。
「メルヴィナ、おまえ……」
顔は見えないけれど、ドン引きしたような声音に涙が出そうになる。
「違、私……っふぁ、触ら、ないで」
フィンリーの腕が肌に触れるだけで、全身がぞくりとするほどの快感に襲われる。必死に耐えてきたけれど、飲み干した薬がメルヴィナの身体を、心を、じわじわと侵食していく。
「何を飲んだ? メルヴィナ」
触らないでと訴えているのに、フィンリーは抱きかかえる腕をそのままに、うしろから顔をのぞき込んでくる。その分だけ密着が深まって、メルヴィナは快楽から逃げるように自らの腕に爪を立てた。
「どうせまた、実験と称して何か変なもん飲んだんだろ」
「し、失礼ね……そんなわけ、……ぁんっ」
文句を言ってやりたいのに、語尾にどうしても甘さが混じる。普段から自分の身体を実験台にして、あれこれ試作品を飲んでいるのは確かに事実だけど。
「……っ酒場で、変なお酒飲まされそうになってた子を助けようと思って……。私なら大抵の薬には耐性あるし……っ」
飲み干してやったわ!と若干得意げに言うと、フィンリーが呆れたようなため息をついた。
「おまえ、馬鹿じゃないの。そういう時は、店員に声かけるだけにしとけよ。何でわざわざ首突っ込むんだよ」
「ひど……っ! 馬鹿とか、何よ。私は人助けを……んんっ」
「その結果がコレだろ。本当、馬鹿だな」
「うる……っさいわね! じゃあそんな馬鹿放ってさっさと行きなさいよ。調合の、邪魔よ」
「それは無理」
困ってる人を放ってはおけないと、真面目な顔でそう言って、フィンリーはメルヴィナを抱き上げた。
「ひゃ……、何? 降ろして……っ」
「今の症状を教えろ。解毒には何が必要だ」
「なんであんたに教える必要が……っん」
「見たところ、発情してるみたいだけど、催淫剤を飲んだので間違いないか?」
「その通り、だけど……っ発情とか、ぁんっ、失礼な……っ」
何が悲しくて、発情していると認めなければならないのだろう。しかも、よく知る相手に。
「ほかの症状は? あとは何が混入されてた」
「……んっ、あとは睡眠剤だけど、はぁ……っ、私、耐性あるから、へいき」
「ということは、催淫剤の効果だけで間違いないな?」
確認するように顔をのぞき込んでこないで欲しい。すぐそばにある唇がやけに艶めかしく見えて、その唇に触れられたらどうなるだろうかと、そんなことを考えてしまう。
「ふぁ、だから解毒剤……調合しようと、おもって」
身体が無性に熱くて喉が渇く。このまま手を伸ばして彼とキスしたら、その渇きが癒えるような気がした。
ぼんやりとした頭で伸ばした手をフィンリーが握りしめ、その感触にハッと意識がはっきりとする。
今、何をしようとしていただろうか。
「……っ、ごめん、私……」
「調合、手伝うから。指示だけしてくれ」
安心させるような笑みを浮かべて、フィンリーがメルヴィナを調合台のそばの椅子に座らせてくれる。こんなふうに優しくされたのなんて初めてで、いつもと違う彼の様子に戸惑ってしまう。
普段ならきっと、馬鹿だとか調合が遅いとか言ってメルヴィナを怒らせるはずなのに。
慌てたようなフィンリーの声と同時に駆け寄ってくる足音。
「や、来ないで……ひ、あぁっ」
咄嗟に叫んだものの、騎士の俊敏さを舐めてはいけない。気づけばメルヴィナはフィンリーにうしろから抱きかかえられていた。自分の唇からこぼれ落ちる、甘えたような媚びた悲鳴に、耳を塞ぎたくなる。
「メルヴィナ、おまえ……」
顔は見えないけれど、ドン引きしたような声音に涙が出そうになる。
「違、私……っふぁ、触ら、ないで」
フィンリーの腕が肌に触れるだけで、全身がぞくりとするほどの快感に襲われる。必死に耐えてきたけれど、飲み干した薬がメルヴィナの身体を、心を、じわじわと侵食していく。
「何を飲んだ? メルヴィナ」
触らないでと訴えているのに、フィンリーは抱きかかえる腕をそのままに、うしろから顔をのぞき込んでくる。その分だけ密着が深まって、メルヴィナは快楽から逃げるように自らの腕に爪を立てた。
「どうせまた、実験と称して何か変なもん飲んだんだろ」
「し、失礼ね……そんなわけ、……ぁんっ」
文句を言ってやりたいのに、語尾にどうしても甘さが混じる。普段から自分の身体を実験台にして、あれこれ試作品を飲んでいるのは確かに事実だけど。
「……っ酒場で、変なお酒飲まされそうになってた子を助けようと思って……。私なら大抵の薬には耐性あるし……っ」
飲み干してやったわ!と若干得意げに言うと、フィンリーが呆れたようなため息をついた。
「おまえ、馬鹿じゃないの。そういう時は、店員に声かけるだけにしとけよ。何でわざわざ首突っ込むんだよ」
「ひど……っ! 馬鹿とか、何よ。私は人助けを……んんっ」
「その結果がコレだろ。本当、馬鹿だな」
「うる……っさいわね! じゃあそんな馬鹿放ってさっさと行きなさいよ。調合の、邪魔よ」
「それは無理」
困ってる人を放ってはおけないと、真面目な顔でそう言って、フィンリーはメルヴィナを抱き上げた。
「ひゃ……、何? 降ろして……っ」
「今の症状を教えろ。解毒には何が必要だ」
「なんであんたに教える必要が……っん」
「見たところ、発情してるみたいだけど、催淫剤を飲んだので間違いないか?」
「その通り、だけど……っ発情とか、ぁんっ、失礼な……っ」
何が悲しくて、発情していると認めなければならないのだろう。しかも、よく知る相手に。
「ほかの症状は? あとは何が混入されてた」
「……んっ、あとは睡眠剤だけど、はぁ……っ、私、耐性あるから、へいき」
「ということは、催淫剤の効果だけで間違いないな?」
確認するように顔をのぞき込んでこないで欲しい。すぐそばにある唇がやけに艶めかしく見えて、その唇に触れられたらどうなるだろうかと、そんなことを考えてしまう。
「ふぁ、だから解毒剤……調合しようと、おもって」
身体が無性に熱くて喉が渇く。このまま手を伸ばして彼とキスしたら、その渇きが癒えるような気がした。
ぼんやりとした頭で伸ばした手をフィンリーが握りしめ、その感触にハッと意識がはっきりとする。
今、何をしようとしていただろうか。
「……っ、ごめん、私……」
「調合、手伝うから。指示だけしてくれ」
安心させるような笑みを浮かべて、フィンリーがメルヴィナを調合台のそばの椅子に座らせてくれる。こんなふうに優しくされたのなんて初めてで、いつもと違う彼の様子に戸惑ってしまう。
普段ならきっと、馬鹿だとか調合が遅いとか言ってメルヴィナを怒らせるはずなのに。
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