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誘拐
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目を覚ますと、そこは見慣れぬ部屋の中だった。目に眩しい鮮やかなピンクの壁紙に、白い羽飾り。どこかで見たようなと眉を顰めつつ身体を起こそうとすると、両手両足が縛られていることに気づく。
「……っ何」
掠れた声でつぶやいて、シェイラは手足の戒めを解こうと身体をよじった。だけど固く結ばれた縄はびくともせず、拘束が緩むことは一切なかった。混乱と恐怖に呼吸が速くなっていき、泣き出しそうになった時、部屋のドアがかちゃりと開く音がした。
「あら、薬が強すぎて死んでしまうかと思ったけど、本当におまえはしぶといのねぇ」
甘くねっとりとした声の主は、予想通りベルナデットだった。この部屋と同じ色をした扇子で口元を隠しながら、彼女はシェイラを蔑むような目で見つめる。背後に控えた黒服の男が部屋の入口らしきドアの前に立っていて、逃げ出すことは叶わない。
何をされるのかと身を硬くするシェイラを見つめながら、ベルナデットはゆっくりと近づいてきた。こつこつと、ヒールの音が静かな部屋に響く。
すぐそばまでやってくると、ベルナデットは閉じた扇子の先でシェイラの顎を持ち上げた。強引に上を向かされることになって、シェイラは息苦しさに小さく呻いた。
「地味だけど、見てくれは悪くないわね。高く売れそう」
そう言って笑うベルナデットの言葉の意味は分からないけれど、決して良い内容ではないだろう。扇子から逃れるようにシェイラが顔を逸らすと、その反抗的な態度が気に喰わなかったのか、ベルナデットは背後に控えた男にシェイラの身体を押さえつけるよう命じる。
「じっとしていなさい。まったく、躾が必要ね」
身動きのできないよう押さえつけられたシェイラに、ベルナデットは苛立った表情で扇子を振りかぶった。ばしりと鈍い音と共に、頬に衝撃が走る。一瞬遅れてじんじんと痛み出して、シェイラは顔を歪めた。
「おまえがイーヴ様の花嫁ですって? 冗談にしても笑えない話だわ」
吐き捨てるように言うと、ベルナデットはシェイラの方に手を伸ばす。真っ赤な長い爪が近づいてくるのを見て、今度は何をされるのかと身体を硬くしていると、彼女の手は肩に落ちるシェイラの髪を払った。露出した首筋を検分するように指先が這い、いつその鋭い爪を肌に突き立てられるのかと恐ろしくてたまらない。
強く目を閉じて恐怖に耐えていると、やがて指先は離れていった。恐る恐る目を開けると、ベルナデットは嘲るような笑みを浮かべていた。
「……やっぱりね。そんなことじゃないかと思ったのよ」
何故か機嫌をよくしたベルナデットは、くすくすと笑いながらシェイラを見下ろす。
「おまえ、イーヴ様に愛されているとでも思ったの? 人間なんてどうせすぐに死んでしまうんだから、せめて優しくしてやろうという慈悲を勘違いしてしまったのね。哀れだわ」
「そんな、こと」
ないと言い切りたいのに、首筋に突きつけられた扇子がシェイラから言葉を奪う。
「こんな子供にイーヴ様が欲情するとは思えないし、ちょっと快楽を与えられて依存してしまったのかしら。人間とは本当に愚かで可哀想な生き物ね。ここでは竜族の保護なしでは生きていくことすらできないからって、イーヴ様に必死で媚びてバングルを与えてもらったの?」
憐れむように笑うベルナデットの言葉は、シェイラの胸に深く突き刺さる。まるでイーヴと一線を越えていないことを見透かされたようで、反論できない。
「イーヴ様はね、わたくしのものなの。おまえが生まれるずっと前から、わたくしたちは将来を誓い合っているのよ」
「……そんなの、嘘」
「嘘なものですか。その証拠に、おまえの首には番いの証がないもの。イーヴ様が本当におまえを花嫁として思っているなら、そこに証があるはずでしょう」
「番いの証?」
とんとんと、扇子がなぞるようにシェイラの首を指す。初めて耳にする言葉に眉を顰めたシェイラを見て、ベルナデットは更に笑みを深めた。
「まぁ、おまえ、番いの証のことも知らされていないの? 本当に言葉だけで信じてしまうなんて、おめでたい頭をしているのねぇ。竜族は、唯一の伴侶と決めた相手の首に証を残すのよ。それがおまえの首にないということは、イーヴ様がおまえを唯一と思っていないことの何よりの証拠でしょう」
高らかに笑ったベルナデットは、ぐっと顔を近づけてシェイラの目をのぞき込む。
「わたくし、前にイーヴ様に言われたのよ。どうせ人間なんて数十年で死んでしまうのだから、それまで待っていてほしいって。だけど、今すぐおまえがいなくなれば、イーヴ様は自由になれる。そうしたら、わたくしのもとに来ることができるでしょう」
「何を……」
唇を震わせたシェイラを見て、ベルナデットはにこりと笑った。そしてすっと立ち上がると、シェイラを押さえつけている男に目くばせをした。
「淫紋をつけてやって。とびっきり強力なやつをね」
「ですがお嬢様、人間相手に……」
「それでこれが狂って死のうが、わたくしには関係ないもの。どうせ娼館に売り飛ばすんだから、近い未来に廃人になることは決まっているんだし、さっさとなさいな」
冷たく言い捨てたベルナデットの言葉に、男は小さくため息をついた。
「……だとさ。悪く思うなよ、お嬢ちゃん。まぁ、すぐに何も分からなくなると思うが」
「や、嫌……っ」
逃げようとしても押さえつけられた身体はびくともしない。せめて首を振って拒絶の意思を示すものの、それが聞き入れられるはずもない。男の手には白く光る札が握られていて、それに触れてはならないことだけは分かる。
「まぁ、安心しな。これが発動したら、気持ちいいこと以外は何も考えられなくなるから」
「やだ……っ、嫌、やめて!」
どんなに悲鳴を上げても、男の腕は揺るがない。乱暴に服を捲り上げられ、下腹部に男が札を近づける。
もう逃げられないことを悟ったシェイラは、強く目を閉じた。
「……っ何」
掠れた声でつぶやいて、シェイラは手足の戒めを解こうと身体をよじった。だけど固く結ばれた縄はびくともせず、拘束が緩むことは一切なかった。混乱と恐怖に呼吸が速くなっていき、泣き出しそうになった時、部屋のドアがかちゃりと開く音がした。
「あら、薬が強すぎて死んでしまうかと思ったけど、本当におまえはしぶといのねぇ」
甘くねっとりとした声の主は、予想通りベルナデットだった。この部屋と同じ色をした扇子で口元を隠しながら、彼女はシェイラを蔑むような目で見つめる。背後に控えた黒服の男が部屋の入口らしきドアの前に立っていて、逃げ出すことは叶わない。
何をされるのかと身を硬くするシェイラを見つめながら、ベルナデットはゆっくりと近づいてきた。こつこつと、ヒールの音が静かな部屋に響く。
すぐそばまでやってくると、ベルナデットは閉じた扇子の先でシェイラの顎を持ち上げた。強引に上を向かされることになって、シェイラは息苦しさに小さく呻いた。
「地味だけど、見てくれは悪くないわね。高く売れそう」
そう言って笑うベルナデットの言葉の意味は分からないけれど、決して良い内容ではないだろう。扇子から逃れるようにシェイラが顔を逸らすと、その反抗的な態度が気に喰わなかったのか、ベルナデットは背後に控えた男にシェイラの身体を押さえつけるよう命じる。
「じっとしていなさい。まったく、躾が必要ね」
身動きのできないよう押さえつけられたシェイラに、ベルナデットは苛立った表情で扇子を振りかぶった。ばしりと鈍い音と共に、頬に衝撃が走る。一瞬遅れてじんじんと痛み出して、シェイラは顔を歪めた。
「おまえがイーヴ様の花嫁ですって? 冗談にしても笑えない話だわ」
吐き捨てるように言うと、ベルナデットはシェイラの方に手を伸ばす。真っ赤な長い爪が近づいてくるのを見て、今度は何をされるのかと身体を硬くしていると、彼女の手は肩に落ちるシェイラの髪を払った。露出した首筋を検分するように指先が這い、いつその鋭い爪を肌に突き立てられるのかと恐ろしくてたまらない。
強く目を閉じて恐怖に耐えていると、やがて指先は離れていった。恐る恐る目を開けると、ベルナデットは嘲るような笑みを浮かべていた。
「……やっぱりね。そんなことじゃないかと思ったのよ」
何故か機嫌をよくしたベルナデットは、くすくすと笑いながらシェイラを見下ろす。
「おまえ、イーヴ様に愛されているとでも思ったの? 人間なんてどうせすぐに死んでしまうんだから、せめて優しくしてやろうという慈悲を勘違いしてしまったのね。哀れだわ」
「そんな、こと」
ないと言い切りたいのに、首筋に突きつけられた扇子がシェイラから言葉を奪う。
「こんな子供にイーヴ様が欲情するとは思えないし、ちょっと快楽を与えられて依存してしまったのかしら。人間とは本当に愚かで可哀想な生き物ね。ここでは竜族の保護なしでは生きていくことすらできないからって、イーヴ様に必死で媚びてバングルを与えてもらったの?」
憐れむように笑うベルナデットの言葉は、シェイラの胸に深く突き刺さる。まるでイーヴと一線を越えていないことを見透かされたようで、反論できない。
「イーヴ様はね、わたくしのものなの。おまえが生まれるずっと前から、わたくしたちは将来を誓い合っているのよ」
「……そんなの、嘘」
「嘘なものですか。その証拠に、おまえの首には番いの証がないもの。イーヴ様が本当におまえを花嫁として思っているなら、そこに証があるはずでしょう」
「番いの証?」
とんとんと、扇子がなぞるようにシェイラの首を指す。初めて耳にする言葉に眉を顰めたシェイラを見て、ベルナデットは更に笑みを深めた。
「まぁ、おまえ、番いの証のことも知らされていないの? 本当に言葉だけで信じてしまうなんて、おめでたい頭をしているのねぇ。竜族は、唯一の伴侶と決めた相手の首に証を残すのよ。それがおまえの首にないということは、イーヴ様がおまえを唯一と思っていないことの何よりの証拠でしょう」
高らかに笑ったベルナデットは、ぐっと顔を近づけてシェイラの目をのぞき込む。
「わたくし、前にイーヴ様に言われたのよ。どうせ人間なんて数十年で死んでしまうのだから、それまで待っていてほしいって。だけど、今すぐおまえがいなくなれば、イーヴ様は自由になれる。そうしたら、わたくしのもとに来ることができるでしょう」
「何を……」
唇を震わせたシェイラを見て、ベルナデットはにこりと笑った。そしてすっと立ち上がると、シェイラを押さえつけている男に目くばせをした。
「淫紋をつけてやって。とびっきり強力なやつをね」
「ですがお嬢様、人間相手に……」
「それでこれが狂って死のうが、わたくしには関係ないもの。どうせ娼館に売り飛ばすんだから、近い未来に廃人になることは決まっているんだし、さっさとなさいな」
冷たく言い捨てたベルナデットの言葉に、男は小さくため息をついた。
「……だとさ。悪く思うなよ、お嬢ちゃん。まぁ、すぐに何も分からなくなると思うが」
「や、嫌……っ」
逃げようとしても押さえつけられた身体はびくともしない。せめて首を振って拒絶の意思を示すものの、それが聞き入れられるはずもない。男の手には白く光る札が握られていて、それに触れてはならないことだけは分かる。
「まぁ、安心しな。これが発動したら、気持ちいいこと以外は何も考えられなくなるから」
「やだ……っ、嫌、やめて!」
どんなに悲鳴を上げても、男の腕は揺るがない。乱暴に服を捲り上げられ、下腹部に男が札を近づける。
もう逃げられないことを悟ったシェイラは、強く目を閉じた。
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