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彼女のこと

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 どれほどの時間が経ったのだろう。
 シェイラは、ぼんやりと顔を上げた。窓の外は薄暗く、ガラスに雨粒が見える。雨が降り始めたようだ。
 ルベリアにタオルを持って行かなくちゃ、と思うのに、身体が動かない。泣きすぎて頭が痛いし、何だかぼうっとする。
 だけど、涙はまだ止まらない。音もなく頬を流れては、服にいくつもの染みを作っていく。
 結局立ち上がることすらできずに座り込んだままだったシェイラの耳に、ドアの開く音が聞こえた。
「シェイラ……!?」
 ヒールの音を響かせて駆け寄ってきたのはルベリアで、座り込んで涙を流すシェイラを見て驚いたように足を止めた。
「どうしたの、シェイラ。何があったの、どうして泣いてるの」
 おろおろとした表情で、ルベリアは長い指で涙を拭ってくれる。そのぬくもりに、こわばっていた身体がようやく少し動き始めた。シェイラは、緩慢な動きで握りしめた写真を差し出す。
「……これ、見たの」
「なぁに、写真?」
 確認するように眉を顰めて写真を見たルベリアは、小さく息をのんだ。その反応に、彼女もこの女性のことを知っているのだと理解する。イーヴに直接聞くのはさすがに無理だけど、ルベリアになら事情を聞くことはできるだろうか。
「この人は、誰?」
「それは」
「知ってるなら教えて、ルベリア。もしかしたらイーヴの……恋人、なのかな」
 きっと知れば傷つくことが分かっているのに、それでも知りたいと思ってしまうことにシェイラは苦い笑みを浮かべる。
 ルベリアはしばらく逡巡するように唇を噛んでいたけれど、やがて決意したような表情で顔を上げた。
「恋人ではないわ。……この子はね、シェイラの前にラグノリアから迎えた花嫁よ」
「え……」
 シェイラは思わず言葉を失う。自分と同じ状況にあった女性。イーヴの花嫁だった女性。
 ドレージアに来てから、シェイラ以外の人間に出会ったことはない。彼女は今、どうしているのだろう。
 痛ましげな表情を浮かべながら、ルベリアはため息をつく。そして写真を取り上げるとシェイラの手を引いた。
「シェイラも、事情を知っておくべきかもね。あたしの知る範囲のことで良ければ説明するから、部屋に戻りましょう。床に座り込んだままする話じゃないわ」
 そう言われて、シェイラは小さくうなずくと立ち上がった。


 部屋に戻ると、ルベリアはソファに座るようにと促す。この部屋の主はシェイラのはずなのに、ルベリアは慣れた手つきでお茶を淹れてくれた。
「さて、何から話せばいいかしらね」
 カップを傾けつつ、ルベリアが考えるように首をかしげる。どんな話がくるのか分からず、シェイラは身構えてしまってお茶を飲む気にもなれない。
「あの子は――ソフィって名前だったかな。イーヴの花嫁として迎えられた子だったの。長い黒髪が印象的な、おとなしい子だったわ。あたしは、そこまで親しくなかったんだけど」
 記憶を辿るように遠い目をしながら、ルベリアはゆっくりと語り始める。
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