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一緒に夜を
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「こんばんは、イーヴ」
「シェイラ? どうした、こんな時間に」
驚いたようにドアを開けてくれる彼は、やっぱり優しい。扉を閉められないようにすかさず半身を部屋の中に滑り込ませると、シェイラはにっこりと笑ってイーヴを見上げた。
「一緒に寝ようと思って、来ました」
「え? いやいや、シェイラ。前にも言っただろう、一緒に寝る気はないって」
困ったように眉を顰めてだめだと言ったあと、イーヴは少し心配そうな表情で首をかしげた。
「……もしかして、怖い夢でも見たか」
「違うもん」
心配してくれるイーヴは優しいけれど、やっぱり子供扱いされているような気がする。怖い夢を見てひとりで眠れないなんて、そんな幼い子供じゃないのにと思わず唇を尖らせて、シェイラは胸を強調するように腕を組んだ。
「イーヴと一緒に寝たいだけなの」
「そんな格好しても、俺は落ちないからな」
ちらりと胸元に視線をやったイーヴは、ため息をついて頭をかくとソファの上にあったブランケットをばさりとシェイラにかぶせる。少しはイーヴを動揺させられるかと思ったのに、呆れたような表情を向けられてしまった。
「じゃあ、どんな格好をしたらイーヴは落ちるの? どんな子が好み?」
「さあな。今は、素直に部屋に戻って寝てくれる子が好きだけど」
「うぅ……だって」
このままでは部屋に送り返されてしまいそうなので、シェイラは一生懸命足を踏ん張った。きっとイーヴがその気になれば、ひょいっとかつぎ上げられてしまうだろうけど。
絶対にここから動かないという無言の抵抗に気づいたのか、イーヴはため息をついてシェイラの頭をくしゃりと撫でた。
「まったく……。今夜だけだからな。ほら、もう遅いから早くベッドに入れ。俺はソファで寝るから」
「だめ、イーヴも一緒にベッドで!」
ソファに向かおうとするイーヴの腕を慌てて掴み、シェイラはじっと彼を見上げる。鏡の前で練習した上目遣いは、成功しているだろうか。しばらく見つめているとイーヴは根負けしたように小さく笑い、シェイラの頭を撫でてくれた。
「分かった。だけど何もしないからな。シェイラも大人しく寝ること。約束できるか?」
「約束します! イーヴ、大好き!」
イーヴの優しさにつけ込んでいる気がしないでもないけれど、まずは一緒に寝ることに成功してシェイラは笑みを浮かべた。
ベッドに横になると、イーヴも恐る恐るといった様子で隣に寝転がる。だけど、指一本触れないとでもいうかのように距離をおかれて、シェイラは面白くない。
「イーヴ、遠いです」
「これが最大限の譲歩だ。これ以上は近づかないから、シェイラも離れていてくれ」
「少しはその気になってくれるかなって思ったのに」
「それは期待されても困るな」
さらりとそんなことを言って、イーヴはもう寝るからと背を向けようとしてしまう。
やっぱりハッピーエンドが約束された物語とは違って、そう簡単にうまくいくものではないみたいだ。露出させてみた胸元を見てもイーヴは何の反応も示さなかったし、張り切った自分が少し馬鹿みたいだ。
情けない気持ちになりながらため息混じりにボタンを留め直して、それでもシェイラは最後の足搔きとばかりにイーヴの服の裾を引っ張る。
「ねえ、イーヴ。こっちを向いて」
「注文の多いお嬢さんだな」
そう言いつつも、イーヴはゆっくりとこちらに向き直ってくれる。なんだかんだいって、彼はシェイラに甘い。だから、少しだけ期待してしまうのだ。子供扱いせずに、ひとりの女性として彼がシェイラを見てくれる日を。
イーヴの金の瞳に映る自分がなるべく大人っぽく見えるようにと心の中で願いながら、シェイラは小さく首をかしげてイーヴを見つめた。
「あのね、夫婦は寝る前におやすみのキスをするんですよ」
「……そうきたか」
眉間に皺を寄せたイーヴは、困惑の表情だ。夕方に半ば強引にイーヴの頬に口づけをしたけれど、やっぱり嫌だったのだろうか。自分の気持ちばかり先走って一気に距離を詰めすぎたかもしれないと反省して前言撤回しようとした時、ふわりと頭が撫でられた。顔を上げると、苦笑まじりに見下ろすイーヴと目が合った。
「本当に、俺の花嫁は積極的だな」
「……っ」
自分からイーヴの花嫁であると散々アピールしてきたけれど、彼の口からあらためて言われると胸がしめつけられるほどに嬉しい。思わず言葉を失ったシェイラにイーヴがそっと顔を近づけ、額に柔らかなものが一瞬触れて離れていく。
「これでいいか?」
「う、うん……」
自分から言い出したことなのに、まさか本当にキスをもらえるなんて思っていなかったから、シェイラは動揺を隠すことができない。嬉しいのだけど、どんな顔をしたらいいのか分からなくてうろうろと視線をさまよわせるシェイラを見て、イーヴが小さく笑った。
「おやすみ、シェイラ」
耳元で囁かれた低い声は、これまで聞いたものよりずっと甘く響く。身体の芯にまでしみ込んでいくようなその声に、全身から力が抜けていくような気がした。
「おやすみ、なさい」
結局シェイラは、逃げるようにブランケットの中に潜り込むことしかできなかった。
真っ赤になった頬を持て余すように押さえているうちに、シェイラはいつの間にか眠っていた。夢の中でもイーヴは優しく頭を撫でてくれ、そのぬくもりが嬉しくて思わずその手を捕まえてしまう。大きくてあたたかなその手に触れるだけで、どれほど安心できるか彼は知らないだろう。いつか頭を撫でるだけでなく、もっと色々な場所にその手が触れる日が来たらいいなと思いながら、シェイラは更に深い夢の中へと潜っていった。
「シェイラ? どうした、こんな時間に」
驚いたようにドアを開けてくれる彼は、やっぱり優しい。扉を閉められないようにすかさず半身を部屋の中に滑り込ませると、シェイラはにっこりと笑ってイーヴを見上げた。
「一緒に寝ようと思って、来ました」
「え? いやいや、シェイラ。前にも言っただろう、一緒に寝る気はないって」
困ったように眉を顰めてだめだと言ったあと、イーヴは少し心配そうな表情で首をかしげた。
「……もしかして、怖い夢でも見たか」
「違うもん」
心配してくれるイーヴは優しいけれど、やっぱり子供扱いされているような気がする。怖い夢を見てひとりで眠れないなんて、そんな幼い子供じゃないのにと思わず唇を尖らせて、シェイラは胸を強調するように腕を組んだ。
「イーヴと一緒に寝たいだけなの」
「そんな格好しても、俺は落ちないからな」
ちらりと胸元に視線をやったイーヴは、ため息をついて頭をかくとソファの上にあったブランケットをばさりとシェイラにかぶせる。少しはイーヴを動揺させられるかと思ったのに、呆れたような表情を向けられてしまった。
「じゃあ、どんな格好をしたらイーヴは落ちるの? どんな子が好み?」
「さあな。今は、素直に部屋に戻って寝てくれる子が好きだけど」
「うぅ……だって」
このままでは部屋に送り返されてしまいそうなので、シェイラは一生懸命足を踏ん張った。きっとイーヴがその気になれば、ひょいっとかつぎ上げられてしまうだろうけど。
絶対にここから動かないという無言の抵抗に気づいたのか、イーヴはため息をついてシェイラの頭をくしゃりと撫でた。
「まったく……。今夜だけだからな。ほら、もう遅いから早くベッドに入れ。俺はソファで寝るから」
「だめ、イーヴも一緒にベッドで!」
ソファに向かおうとするイーヴの腕を慌てて掴み、シェイラはじっと彼を見上げる。鏡の前で練習した上目遣いは、成功しているだろうか。しばらく見つめているとイーヴは根負けしたように小さく笑い、シェイラの頭を撫でてくれた。
「分かった。だけど何もしないからな。シェイラも大人しく寝ること。約束できるか?」
「約束します! イーヴ、大好き!」
イーヴの優しさにつけ込んでいる気がしないでもないけれど、まずは一緒に寝ることに成功してシェイラは笑みを浮かべた。
ベッドに横になると、イーヴも恐る恐るといった様子で隣に寝転がる。だけど、指一本触れないとでもいうかのように距離をおかれて、シェイラは面白くない。
「イーヴ、遠いです」
「これが最大限の譲歩だ。これ以上は近づかないから、シェイラも離れていてくれ」
「少しはその気になってくれるかなって思ったのに」
「それは期待されても困るな」
さらりとそんなことを言って、イーヴはもう寝るからと背を向けようとしてしまう。
やっぱりハッピーエンドが約束された物語とは違って、そう簡単にうまくいくものではないみたいだ。露出させてみた胸元を見てもイーヴは何の反応も示さなかったし、張り切った自分が少し馬鹿みたいだ。
情けない気持ちになりながらため息混じりにボタンを留め直して、それでもシェイラは最後の足搔きとばかりにイーヴの服の裾を引っ張る。
「ねえ、イーヴ。こっちを向いて」
「注文の多いお嬢さんだな」
そう言いつつも、イーヴはゆっくりとこちらに向き直ってくれる。なんだかんだいって、彼はシェイラに甘い。だから、少しだけ期待してしまうのだ。子供扱いせずに、ひとりの女性として彼がシェイラを見てくれる日を。
イーヴの金の瞳に映る自分がなるべく大人っぽく見えるようにと心の中で願いながら、シェイラは小さく首をかしげてイーヴを見つめた。
「あのね、夫婦は寝る前におやすみのキスをするんですよ」
「……そうきたか」
眉間に皺を寄せたイーヴは、困惑の表情だ。夕方に半ば強引にイーヴの頬に口づけをしたけれど、やっぱり嫌だったのだろうか。自分の気持ちばかり先走って一気に距離を詰めすぎたかもしれないと反省して前言撤回しようとした時、ふわりと頭が撫でられた。顔を上げると、苦笑まじりに見下ろすイーヴと目が合った。
「本当に、俺の花嫁は積極的だな」
「……っ」
自分からイーヴの花嫁であると散々アピールしてきたけれど、彼の口からあらためて言われると胸がしめつけられるほどに嬉しい。思わず言葉を失ったシェイラにイーヴがそっと顔を近づけ、額に柔らかなものが一瞬触れて離れていく。
「これでいいか?」
「う、うん……」
自分から言い出したことなのに、まさか本当にキスをもらえるなんて思っていなかったから、シェイラは動揺を隠すことができない。嬉しいのだけど、どんな顔をしたらいいのか分からなくてうろうろと視線をさまよわせるシェイラを見て、イーヴが小さく笑った。
「おやすみ、シェイラ」
耳元で囁かれた低い声は、これまで聞いたものよりずっと甘く響く。身体の芯にまでしみ込んでいくようなその声に、全身から力が抜けていくような気がした。
「おやすみ、なさい」
結局シェイラは、逃げるようにブランケットの中に潜り込むことしかできなかった。
真っ赤になった頬を持て余すように押さえているうちに、シェイラはいつの間にか眠っていた。夢の中でもイーヴは優しく頭を撫でてくれ、そのぬくもりが嬉しくて思わずその手を捕まえてしまう。大きくてあたたかなその手に触れるだけで、どれほど安心できるか彼は知らないだろう。いつか頭を撫でるだけでなく、もっと色々な場所にその手が触れる日が来たらいいなと思いながら、シェイラは更に深い夢の中へと潜っていった。
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