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夜のお誘い
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入浴を終え、寝支度を済ませたシェイラは鏡の前でひとり気合を入れていた。
「やるわよ、シェイラ。今夜こそは……まず、一緒に寝てもらうことを目標に!」
本当は夜の営みをできたならと思うけれど、焦ってはならない。少しずつ距離を詰めていくのがきっと近道だ。
マリエルに借りた本でも、愛のない結婚だと思っていた二人が距離を縮めて本当の夫婦になる話がたくさんあった。読み返して復習できたら一番いいのだけど、残念ながら私物はすべて処分してきてしまった。今度ルベリアに頼んで、ドレージアで流行っている恋愛小説を買いに連れて行ってもらおうとシェイラは頭の隅にしっかりとメモしておく。
イーヴに好きになってもらうと宣言したものの、二人の間には色々な問題があることは分かっている。およそ三百年近くの年の差に、種族の違い。竜族が人間を恋愛対象として考えているのかすら分からない。
だけど、なんとなくの感覚として竜族は人間の十倍の寿命という感じがするので、恐らくイーヴは人間に換算すると二十代後半から三十代前半といったところだろうか。そのくらいの年の差なら、ありだと思いたい。
長く生きるイーヴにとって、シェイラの寿命はほんのひととき。そのわずかな時間でいいから、自分だけを見てほしい。
薄暗い廊下をランプ片手に歩きながら、シェイラは夕食の時のことを思い返す。
イーヴの食事を作りたいと意気込んでみたものの、料理なんて今までしたことがなかったから、正直なところシェイラが担当したのは飾りつけや材料を混ぜることくらいだった。本当はもっと色々としてみたかったのだけど、野菜を切る手伝いを申し出たら、指先をちょっと刃が掠っただけで顔面蒼白になったアルバンにナイフを取り上げられてしまったのだ。
指先に残る傷を見ながら、シェイラは小さく笑う。イーヴの唇のあたたかさも、柔らかく傷口をなぞった舌の感触も、今でもはっきりと思い出すことができる。あの唇が、もっと他の場所に触れたなら、どんな気持ちになるだろう。
シェイラの下手くそな盛りつけも、イーヴは嬉しいと笑ってくれた。嫌われていることはないと断言できるけれど、かといって愛されているかというとそれは違う気がする。
イーヴがシェイラに向ける優しい表情は、まるで小さな子供を見るようなものだから。
まずは、子供なんかではないことをイーヴにも分かってもらわなければ。
黒い扉の前で、シェイラは前開きの寝衣のボタンをいつもより多めに外した。ルベリアほどではないけれど、シェイラだって結構胸は大きい方だと思う。しっかりと胸の谷間が見えていることを確認してから、シェイラはドアをノックした。
「やるわよ、シェイラ。今夜こそは……まず、一緒に寝てもらうことを目標に!」
本当は夜の営みをできたならと思うけれど、焦ってはならない。少しずつ距離を詰めていくのがきっと近道だ。
マリエルに借りた本でも、愛のない結婚だと思っていた二人が距離を縮めて本当の夫婦になる話がたくさんあった。読み返して復習できたら一番いいのだけど、残念ながら私物はすべて処分してきてしまった。今度ルベリアに頼んで、ドレージアで流行っている恋愛小説を買いに連れて行ってもらおうとシェイラは頭の隅にしっかりとメモしておく。
イーヴに好きになってもらうと宣言したものの、二人の間には色々な問題があることは分かっている。およそ三百年近くの年の差に、種族の違い。竜族が人間を恋愛対象として考えているのかすら分からない。
だけど、なんとなくの感覚として竜族は人間の十倍の寿命という感じがするので、恐らくイーヴは人間に換算すると二十代後半から三十代前半といったところだろうか。そのくらいの年の差なら、ありだと思いたい。
長く生きるイーヴにとって、シェイラの寿命はほんのひととき。そのわずかな時間でいいから、自分だけを見てほしい。
薄暗い廊下をランプ片手に歩きながら、シェイラは夕食の時のことを思い返す。
イーヴの食事を作りたいと意気込んでみたものの、料理なんて今までしたことがなかったから、正直なところシェイラが担当したのは飾りつけや材料を混ぜることくらいだった。本当はもっと色々としてみたかったのだけど、野菜を切る手伝いを申し出たら、指先をちょっと刃が掠っただけで顔面蒼白になったアルバンにナイフを取り上げられてしまったのだ。
指先に残る傷を見ながら、シェイラは小さく笑う。イーヴの唇のあたたかさも、柔らかく傷口をなぞった舌の感触も、今でもはっきりと思い出すことができる。あの唇が、もっと他の場所に触れたなら、どんな気持ちになるだろう。
シェイラの下手くそな盛りつけも、イーヴは嬉しいと笑ってくれた。嫌われていることはないと断言できるけれど、かといって愛されているかというとそれは違う気がする。
イーヴがシェイラに向ける優しい表情は、まるで小さな子供を見るようなものだから。
まずは、子供なんかではないことをイーヴにも分かってもらわなければ。
黒い扉の前で、シェイラは前開きの寝衣のボタンをいつもより多めに外した。ルベリアほどではないけれど、シェイラだって結構胸は大きい方だと思う。しっかりと胸の谷間が見えていることを確認してから、シェイラはドアをノックした。
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