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甘く刺激的な飲み物

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 屋敷に戻って庭でイーヴの背から降りると、彼はあっという間に人へと姿を変えた。両手に抱えたバスケットを、何も言わずにさっと持ってくれる優しさに笑みを浮かべて、シェイラは彼の背中を追う。
 屋敷に入ると、何故かルベリアが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。二人でお出かけだなんて、いいわねぇ。どこ行ってきたの?」
「なんでおまえが我が物顔でここにいるんだ、ルベリア」
 眉間に皺を寄せるイーヴに、ルベリアは気にするなと言って明るく笑う。
「シェイラに会いに来たら、イーヴと出かけてるっていうんだもの。せっかくだから待たせてもらおうと思ったら、アルバンとエルフェが買い物に行くって言うし、レジスも出かけるって言うから、あたしが留守番するわって言ったのよ」
「他人に家を任せるとか、あいつら……」
 イーヴはため息をつくけれど、レジスが留守を任せるくらいなのだから、ルベリアは彼らにも信用されているのだろう。
 シェイラを抱き寄せたルベリアは、頬に手を触れると驚いたように目を見開いた。
「どうしたの、シェイラ。すごく冷えてるじゃない」
「あぁ、ちょっと空を飛んできたから」
 何気ない口調で言ったイーヴの言葉に、ルベリアは一瞬口をぽかんと開けたあと、きゃあっと叫んでシェイラを強く抱き寄せた。
「すごいわ、シェイラってば、イーヴの背に乗ったの?」
「え? うん、空を飛んでみたいってお願いしたら、連れて行ってくれたの」
「えぇっ、詳しく話を聞かせてちょうだい!」
 身を乗り出すルベリアに、シェイラは戸惑って目を瞬き、イーヴは眉間の皺を深くした。
「話はあとだ。シェイラの身体が冷えてるから、何か飲み物を……、っと、アルバンはいないんだったか」
 厨房の方に視線をやったイーヴは、小さく息を吐くとシェイラの背を押した。
「何か身体のあたたまるものを持ってくるから、シェイラは座ってろ」
「あたしの分もよろしくねー」
「図々しいやつだな」
 手を挙げるルベリアに苦笑しつつ、イーヴはソファで待つようにと言って厨房の方に姿を消した。
「あたしたちはここで待ってましょ。イーヴとのお出かけについて、聞かせてよ」
 ルベリアに手を引かれて、シェイラはソファに腰を下ろす。
「お出かけ、楽しかった?」
「うん! イーヴの好きな場所にも連れて行ってもらったし、すごく楽しかった!」
「良かったわねぇ。どこに行ったの?」 
「えっと……」
 シェイラは言葉に詰まって視線を泳がせる。イーヴに連れて行ってもらった場所はとても素敵だったけれど、彼は秘密の場所だと言っていた。勝手に明かすわけにはいかないけれど、それをどう説明したらいいのか分からない。
「ふふ、いいのよ、無理に聞き出そうとは思わないわ。シェイラが楽しかったなら、それでいいの」
 困り果てて唇を開いたり閉じたりを繰り返すシェイラを見て、ルベリアは大丈夫だと笑う。
 そこに、湯気のたつカップを載せたトレーを持ってイーヴが戻ってきた。甘くスパイシーな香りに、シェイラは思わずすんと鼻を鳴らしてしまう。
「身体が冷えた時は、これだ」
「わぁ、美味しそう! ありがとうございます、イーヴ」
 カップの中に浮かぶたっぷりのクリームは、まるでふわふわの雲のようだ。イーヴと一緒に見た空を思い出して、シェイラは幸せな気持ちになりながらカップを口へと運んだ。
「んんー! 甘くて美味しい!」
 柔らかなクリームの下には濃厚な紅茶が隠れていて、クリームと溶けてじんわりと混じり合っている。遅れて口の中に広がるスパイスのほのかな刺激が甘さに慣れた舌の上で弾け、シェイラは思わず頬を緩めた。
「口に合って良かった」
 小さく笑ったイーヴが、ぽんぽんとシェイラの頭を撫でる。そのぬくもりが嬉しくて笑顔でイーヴを見上げると、隣に座っていたルベリアが驚いたような声をあげた。
「あらぁ、何だか二人、すごく仲睦まじいわね?」
「え、あ、……えっと」
 揶揄うようなその声に急に恥ずかしくなって、シェイラは慌ててうつむく。赤くなった顔を見られないようにカップに口をつけていると、イーヴも困ったような表情で視線をそらした。
「別に、普通だ」
「ごめんごめん、揶揄ってるわけじゃないのよ。あなたたちの仲がいいのは悪いことじゃないもの」
 とりなすようにルベリアが言うものの、イーヴは仕事を思いだしたからと言って、逃げるように部屋に戻ってしまった。
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