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未来に向けた約束
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再び竜の姿となったイーヴの背に乗って、シェイラは小さな島を後にした。この島を気に入ったことを伝えると、イーヴがまた連れてきてくれると言ってくれたことが嬉しい。
「しっかり掴まってろよ」
過保護な彼の毎度の言葉にうなずきつつ、シェイラはイーヴのたてがみに指を絡める。
ふわりと重力を感じさせない動きで飛び上がったイーヴは、そのまま滑るように前に進む。
「上着はちゃんと着てるか? シェイラさえ良ければ、少し遠回りして帰ろうと思うが」
「空を飛ぶのはとっても気持ちがいいから、遠回り嬉しいです!」
「じゃあ、もうひとつ俺のお気に入りの場所を見せてやろう」
どこか嬉しそうな声でそう言って、イーヴは更にスピードをあげた。
たくさんあった小さな島がだんだんと少なくなってきた頃、前方に大きな島が見えてきた。天に向かってそびえる山と、山から流れ落ちる水が溜まってできたであろう大きな湖。まるで鏡のような水面が、山の緑と空を映している。
「わぁ……! 綺麗!」
「本当は、夜が一番綺麗なんだけどな。水面に星が映り込んで、空がもっと広く見える」
「見てみたいなぁ」
「うーん、連れてきてやりたいけど、夜は冷えるからな……。シェイラに風邪でもひかせたら、レジスに怒られそうだ」
「じゃあ、もっと厚着をするから大丈夫って、私からもレジスさんにお願いしてみようかな」
「シェイラの頼みなら、いけるかもしれないな。あいつはシェイラに甘いから」
くすりと笑ったイーヴの言葉にうなずいて、シェイラは帰ったらレジスに聞いてみようと決めた。
やがて遠くに見覚えのあるドレージアが見えてきた。ぐんぐん近づく距離に、このお出かけの終わりを予感して少しだけ寂しくなる。
その時、雲の切れ間にちらりと地上が顔をのぞかせた。遥か遠くだけど、森に囲まれた特徴的な国土と中央にある青い城は、ラグノリアに違いない。
「どうした?」
急に黙りこくったシェイラに気づいたのか、イーヴが声をかける。どう返事をすればいいのか分からず言葉を探していると、彼も眼下に見えるラグノリアに気づいたのだろう。小さく納得したような声をあげた。
「あぁ、ラグノリアが見えるな」
「そうですね」
生まれ育った国を見ても懐かしいと思えない自分に戸惑いつつ、シェイラは言葉少なにうなずく。
「帰りたいと、思うか」
「……っ」
イーヴの声は優しくて、シェイラが故郷を恋しく思っていないか気遣っているのだろう。だけど、シェイラにはその言葉がまるで追い返されるように聞こえてしまう。
「シェイラ?」
「思わない、です。私は、ドレージアが好きだから」
少し震えた語尾に、イーヴが小さく息をのんだ気がした。
「そうか。シェイラがドレージアを気に入ってくれて、良かったよ」
「だから私、ラグノリアに帰りたいと思ったことはないです」
念押しするように、シェイラは繰り返す。
――ラグノリアに返すなんて言わないで。イーヴのそばに、いさせて。
その言葉は口にすることができなくて、代わりにシェイラはイーヴのたてがみに顔を埋めた。
生まれ故郷なのに帰りたくないと思ってしまうのは、ドレージアでの贅沢な暮らしに慣れてしまったからなのだろうか。ラグノリアでのあの生活に戻りたくないと思ってしまう自分の心が、酷く醜いもののような気がしてしまう。
成人まで育ててもらったはずなのに両親にすら会いたいと思えないなんて、自分はこんなにも冷たい人間だったのだろうか。
唯一マリエルには会いたいと思うけれど、それでも妹と過ごすよりもイーヴのそばにいたい。
黙って唇を噛むシェイラの表情は見えていないはずなのに、イーヴが安心させるように笑ったような気がした。
「そうだな、シェイラの居場所はドレージアだから。……俺の花嫁、だからな」
「……うん」
優しく響くその言葉を噛みしめるようにうなずいて、シェイラは滲んだ涙をこっそりとぬぐった。
「しっかり掴まってろよ」
過保護な彼の毎度の言葉にうなずきつつ、シェイラはイーヴのたてがみに指を絡める。
ふわりと重力を感じさせない動きで飛び上がったイーヴは、そのまま滑るように前に進む。
「上着はちゃんと着てるか? シェイラさえ良ければ、少し遠回りして帰ろうと思うが」
「空を飛ぶのはとっても気持ちがいいから、遠回り嬉しいです!」
「じゃあ、もうひとつ俺のお気に入りの場所を見せてやろう」
どこか嬉しそうな声でそう言って、イーヴは更にスピードをあげた。
たくさんあった小さな島がだんだんと少なくなってきた頃、前方に大きな島が見えてきた。天に向かってそびえる山と、山から流れ落ちる水が溜まってできたであろう大きな湖。まるで鏡のような水面が、山の緑と空を映している。
「わぁ……! 綺麗!」
「本当は、夜が一番綺麗なんだけどな。水面に星が映り込んで、空がもっと広く見える」
「見てみたいなぁ」
「うーん、連れてきてやりたいけど、夜は冷えるからな……。シェイラに風邪でもひかせたら、レジスに怒られそうだ」
「じゃあ、もっと厚着をするから大丈夫って、私からもレジスさんにお願いしてみようかな」
「シェイラの頼みなら、いけるかもしれないな。あいつはシェイラに甘いから」
くすりと笑ったイーヴの言葉にうなずいて、シェイラは帰ったらレジスに聞いてみようと決めた。
やがて遠くに見覚えのあるドレージアが見えてきた。ぐんぐん近づく距離に、このお出かけの終わりを予感して少しだけ寂しくなる。
その時、雲の切れ間にちらりと地上が顔をのぞかせた。遥か遠くだけど、森に囲まれた特徴的な国土と中央にある青い城は、ラグノリアに違いない。
「どうした?」
急に黙りこくったシェイラに気づいたのか、イーヴが声をかける。どう返事をすればいいのか分からず言葉を探していると、彼も眼下に見えるラグノリアに気づいたのだろう。小さく納得したような声をあげた。
「あぁ、ラグノリアが見えるな」
「そうですね」
生まれ育った国を見ても懐かしいと思えない自分に戸惑いつつ、シェイラは言葉少なにうなずく。
「帰りたいと、思うか」
「……っ」
イーヴの声は優しくて、シェイラが故郷を恋しく思っていないか気遣っているのだろう。だけど、シェイラにはその言葉がまるで追い返されるように聞こえてしまう。
「シェイラ?」
「思わない、です。私は、ドレージアが好きだから」
少し震えた語尾に、イーヴが小さく息をのんだ気がした。
「そうか。シェイラがドレージアを気に入ってくれて、良かったよ」
「だから私、ラグノリアに帰りたいと思ったことはないです」
念押しするように、シェイラは繰り返す。
――ラグノリアに返すなんて言わないで。イーヴのそばに、いさせて。
その言葉は口にすることができなくて、代わりにシェイラはイーヴのたてがみに顔を埋めた。
生まれ故郷なのに帰りたくないと思ってしまうのは、ドレージアでの贅沢な暮らしに慣れてしまったからなのだろうか。ラグノリアでのあの生活に戻りたくないと思ってしまう自分の心が、酷く醜いもののような気がしてしまう。
成人まで育ててもらったはずなのに両親にすら会いたいと思えないなんて、自分はこんなにも冷たい人間だったのだろうか。
唯一マリエルには会いたいと思うけれど、それでも妹と過ごすよりもイーヴのそばにいたい。
黙って唇を噛むシェイラの表情は見えていないはずなのに、イーヴが安心させるように笑ったような気がした。
「そうだな、シェイラの居場所はドレージアだから。……俺の花嫁、だからな」
「……うん」
優しく響くその言葉を噛みしめるようにうなずいて、シェイラは滲んだ涙をこっそりとぬぐった。
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