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空を翔ける
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「イーヴ、お待たせしました!」
身支度を整えて中庭に戻ると、竜の姿で身体を丸くして休んでいたイーヴがぱちりと目を開けた。人の姿の時より大きなその金の瞳を見るたびに、シェイラは丸い月を思い出す。
「ん、ちゃんと厚着してきたな」
鼻先で優しく触れられて、シェイラはくすぐったさに小さく身体をよじって笑った。
その気になれば小柄なシェイラの身体など一撃で吹っ飛ばすこともできるはずのイーヴが、力を加減してそっと触れてくれることが嬉しくてたまらない。何だかとても、大切にされているような気がするから。
背中に乗れと言って身体を屈めてくれたイーヴが、シェイラが手に抱えた大きなバスケットを見て軽く目を細めた。
「シェイラ、その荷物は?」
「アルバンさんが、朝食を持たせてくれました。せっかくのお出かけなら、外で食べておいでって」
バスケットを先にイーヴの背に乗せて、シェイラはそう説明する。部屋に戻る時にレジスと出会ったのでイーヴと出かけることを告げたら、ふわふわのファーのついた外套の用意と共にバスケットを携えたアルバンもやってきたのだ。
本当はイーヴのために朝食の準備をしてみたかったことを伝えると、それなら夕食を一緒に作ろうとアルバンに誘われた。背に乗せてくれるお礼に食事を作るというのは、とてもいい考えだと思う。驚かせたいから、イーヴにはまだ秘密だけど。
「パンやサラダ、飲み物もあるそうです。イーヴの好きな肉料理もたくさん詰めてもらったから、あとで一緒に食べましょうね」
「それなら、景色のいいところまで行こうか」
イーヴの提案に大きくうなずいて、シェイラは彼の背に乗った。
「ちゃんと掴まってろよ」
「はぁい!」
シェイラがたてがみをしっかりと握りしめたのを確認して、イーヴがふわりと空へ飛び上がった。巨大な体躯に対して、その動きは驚くほど静かだ。
きっとシェイラが落ちないように気をつけて飛んでくれているのもあるだろうけど、乗り心地はとても良い。少しだけ硬いたてがみを指先で弄ぶように絡めながら、シェイラは周囲を見回した。
あっという間に空高く飛び上がったからか、頬に感じる風は少し冷たい。だけどしっかりと厚着をしているから、その冷たさが逆に気持ちいいほどだ。
ここに初めて来た時も思ったけれど、ドレージアはとても大きな国だ。たくさんの屋敷が集まる居住区の他にも、高くそびえ立つ山や青々とした森があり、そして美しい水の流れる川もある。
川から流れ落ちた水は、きっと雲を抜けてシェイラの故郷に雨を降らすのだろう。
陽の光を浴びてきらきらと輝きながら地上へ落ちていく川の水には、小さな虹がかかっている。ふわふわと浮かぶ雲も柔らかそうで、手を伸ばせば届きそうだ。
「わぁ、虹! すごく綺麗……!」
「なら、もう少し近づこうか」
そう言って、イーヴがすいっと向きを変える。
ふわりと頬を撫でるような感覚は、雲に触れたからだろうか。
まるで虹をひとりじめしているかのような気持ちになって、シェイラは思わず歓声をあげた。
細かい霧のような水飛沫でしっとりと頬を濡らしながら、シェイラは興奮して声をあげっぱなしだった。
身支度を整えて中庭に戻ると、竜の姿で身体を丸くして休んでいたイーヴがぱちりと目を開けた。人の姿の時より大きなその金の瞳を見るたびに、シェイラは丸い月を思い出す。
「ん、ちゃんと厚着してきたな」
鼻先で優しく触れられて、シェイラはくすぐったさに小さく身体をよじって笑った。
その気になれば小柄なシェイラの身体など一撃で吹っ飛ばすこともできるはずのイーヴが、力を加減してそっと触れてくれることが嬉しくてたまらない。何だかとても、大切にされているような気がするから。
背中に乗れと言って身体を屈めてくれたイーヴが、シェイラが手に抱えた大きなバスケットを見て軽く目を細めた。
「シェイラ、その荷物は?」
「アルバンさんが、朝食を持たせてくれました。せっかくのお出かけなら、外で食べておいでって」
バスケットを先にイーヴの背に乗せて、シェイラはそう説明する。部屋に戻る時にレジスと出会ったのでイーヴと出かけることを告げたら、ふわふわのファーのついた外套の用意と共にバスケットを携えたアルバンもやってきたのだ。
本当はイーヴのために朝食の準備をしてみたかったことを伝えると、それなら夕食を一緒に作ろうとアルバンに誘われた。背に乗せてくれるお礼に食事を作るというのは、とてもいい考えだと思う。驚かせたいから、イーヴにはまだ秘密だけど。
「パンやサラダ、飲み物もあるそうです。イーヴの好きな肉料理もたくさん詰めてもらったから、あとで一緒に食べましょうね」
「それなら、景色のいいところまで行こうか」
イーヴの提案に大きくうなずいて、シェイラは彼の背に乗った。
「ちゃんと掴まってろよ」
「はぁい!」
シェイラがたてがみをしっかりと握りしめたのを確認して、イーヴがふわりと空へ飛び上がった。巨大な体躯に対して、その動きは驚くほど静かだ。
きっとシェイラが落ちないように気をつけて飛んでくれているのもあるだろうけど、乗り心地はとても良い。少しだけ硬いたてがみを指先で弄ぶように絡めながら、シェイラは周囲を見回した。
あっという間に空高く飛び上がったからか、頬に感じる風は少し冷たい。だけどしっかりと厚着をしているから、その冷たさが逆に気持ちいいほどだ。
ここに初めて来た時も思ったけれど、ドレージアはとても大きな国だ。たくさんの屋敷が集まる居住区の他にも、高くそびえ立つ山や青々とした森があり、そして美しい水の流れる川もある。
川から流れ落ちた水は、きっと雲を抜けてシェイラの故郷に雨を降らすのだろう。
陽の光を浴びてきらきらと輝きながら地上へ落ちていく川の水には、小さな虹がかかっている。ふわふわと浮かぶ雲も柔らかそうで、手を伸ばせば届きそうだ。
「わぁ、虹! すごく綺麗……!」
「なら、もう少し近づこうか」
そう言って、イーヴがすいっと向きを変える。
ふわりと頬を撫でるような感覚は、雲に触れたからだろうか。
まるで虹をひとりじめしているかのような気持ちになって、シェイラは思わず歓声をあげた。
細かい霧のような水飛沫でしっとりと頬を濡らしながら、シェイラは興奮して声をあげっぱなしだった。
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