4 / 62
竜族の国へ
しおりを挟む
竜はすごい速さでどんどん空高く飛んでいく。振り落とされないように両手でたてがみを掴んでいるものの、乗り心地は案外悪くない。顔に当たる風は冷たく凍えそうなほどだけど、マントに包まれた身体はほっこりと暖かい。
「雲を抜けるから、少し目を閉じていろ」
ちらりと振り返った金の眼が、シェイラを確認するように見つめる。人の姿をしていた時も今も、獲物を狙うかのような冷たい光をしているのに、何故か怖くない。言われた通り目を閉じると、目蓋の裏に二つの月のような金色が残った。
ぶわりといっそう強い風が顔に当たるのを感じて、シェイラは更に強く目を閉じる。だけどそれも一瞬のことで、風が止んだと思ったら、明らかに空気が変わったことに気づく。頬を撫でる空気は柔らかく、先程までの冷たさが嘘のようだ。
「もう、いいぞ」
その声に恐る恐る目を開けたシェイラは、目の前に広がる光景に思わず息をのんだ。
見渡す限りの青空の中、宙に浮かぶ巨大な都市。木々に囲まれた都市の中心部にはいくつもの立派な建物が見えて、そこから時折竜が空に向かって飛び立っていくのが見える。生まれ育ったラグノリア王国よりも遥かに大きなその空中都市に、シェイラは見惚れる。
「すごい……、綺麗」
ため息のような声を漏らすと、竜が微かに笑ったような気がした。
「我が竜族の国、ドレージアへようこそ」
その声は優しくて、まるで歓迎されているかのように思ってしまいそうだ。ふいにこみ上げた涙を吹きつける風のせいにして、シェイラは何度か瞬きを繰り返す。
泣きそうになったことに気づいたのか、竜はシェイラを振り返ると微かに眼を細めた。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺は、イーヴだ」
「イーヴさん」
思わず復唱するように名前を呼ぶと、竜は鼻息ではふっと小さく笑った。
「イーヴでいい。それで、俺は何と呼べばいい」
「あ、私は……シェイラ、です」
「シェイラか。いい名前だ」
竜が――イーヴが優しい声でそう言う。
名前を褒めてもらったのなんて生まれて初めてで、胸が苦しいほどに嬉しくなる。ほとんど誰にも呼ばれることのなかった名前が、急に大切なものになったような気がした。
今までシェイラの世界は自室の中がほとんど全てで、こんなにも遠くまで広がる景色を見たことがない。
喰われる前にいいものを見せてもらえたなと、シェイラは美しい光景を目に焼きつけるように見つめた。
「雲を抜けるから、少し目を閉じていろ」
ちらりと振り返った金の眼が、シェイラを確認するように見つめる。人の姿をしていた時も今も、獲物を狙うかのような冷たい光をしているのに、何故か怖くない。言われた通り目を閉じると、目蓋の裏に二つの月のような金色が残った。
ぶわりといっそう強い風が顔に当たるのを感じて、シェイラは更に強く目を閉じる。だけどそれも一瞬のことで、風が止んだと思ったら、明らかに空気が変わったことに気づく。頬を撫でる空気は柔らかく、先程までの冷たさが嘘のようだ。
「もう、いいぞ」
その声に恐る恐る目を開けたシェイラは、目の前に広がる光景に思わず息をのんだ。
見渡す限りの青空の中、宙に浮かぶ巨大な都市。木々に囲まれた都市の中心部にはいくつもの立派な建物が見えて、そこから時折竜が空に向かって飛び立っていくのが見える。生まれ育ったラグノリア王国よりも遥かに大きなその空中都市に、シェイラは見惚れる。
「すごい……、綺麗」
ため息のような声を漏らすと、竜が微かに笑ったような気がした。
「我が竜族の国、ドレージアへようこそ」
その声は優しくて、まるで歓迎されているかのように思ってしまいそうだ。ふいにこみ上げた涙を吹きつける風のせいにして、シェイラは何度か瞬きを繰り返す。
泣きそうになったことに気づいたのか、竜はシェイラを振り返ると微かに眼を細めた。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺は、イーヴだ」
「イーヴさん」
思わず復唱するように名前を呼ぶと、竜は鼻息ではふっと小さく笑った。
「イーヴでいい。それで、俺は何と呼べばいい」
「あ、私は……シェイラ、です」
「シェイラか。いい名前だ」
竜が――イーヴが優しい声でそう言う。
名前を褒めてもらったのなんて生まれて初めてで、胸が苦しいほどに嬉しくなる。ほとんど誰にも呼ばれることのなかった名前が、急に大切なものになったような気がした。
今までシェイラの世界は自室の中がほとんど全てで、こんなにも遠くまで広がる景色を見たことがない。
喰われる前にいいものを見せてもらえたなと、シェイラは美しい光景を目に焼きつけるように見つめた。
24
お気に入りに追加
621
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる