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8 魔女の媚薬を盛られた2人のその後
しおりを挟む結局、食事も忘れて抱き潰されたクラリスは、翌日になってもベッドから動くことができなかった。騎士の体力を舐めていた、とクラリスは、指先ひとつ動かすことすら怠い身体で思う。
ネイトは、申し訳なさそうな顔をして、着替えから食事まで、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。大きな身体を縮めてクラリスに頭を下げる姿を見ていると、何だか可愛く思えてきて、そんなところも好きだなぁと思ってしまう。
アンジェリカからは、回復薬の差し入れと共に、しっかり休むようにとネイトを通じて連絡があった。ネイトは、やり過ぎだと散々アンジェリカに絞られたらしく、少し青い顔をしていたけれど。
丸一日休んだその翌日、ようやく仕事に復帰したクラリスを待っていたのは実家の両親だった。
何故ここに、と驚くクラリスに、アンジェリカが自分が呼んだのだと笑う。
「クラリスは、あたしの大事な侍女だもの。結婚して遠くに行ってしまうなんて、耐えられないわ。だから、ご両親にもあたしからお願いしようと思って」
アンジェリカは更に、ディーテ家の内情についても調べ上げていた。どうやら違法な手段で仕事を同業者から奪い取っているらしく、近いうちにその罪が明らかになる予定なのだという。
それを聞いた両親は、即座にディーテ家との話は無しにすると決めたし、そのままの流れでアンジェリカがネイトを紹介し、あっという間に結婚の承諾までとりつけた。
「これでクラリスは、ずっとあたしと一緒にいてくれるでしょう。あなたは揶揄い甲斐があるから、手放したくないのよ」
そう言って、アンジェリカは満足気に微笑んだ。
彼女の我儘に見せかけて、クラリスの望まぬ結婚を阻止し、ネイトとの仲まで取り持ってくれたアンジェリカには、感謝してもしきれない。
両親も、近衛騎士というネイトの職業に大いに満足したようだし、結婚の許可はすぐに降りた。クラリスとしては、ネイトを職業で好きになったわけではないので、少しだけ複雑だけど。
◇
クラリスは、今日もアンジェリカの侍女として働いている。扉の前には、近々夫になる予定のネイトが、生真面目な表情で姿勢良く立っている。
そんなネイトと、時折目を合わせて微笑みあうのが、最近のクラリスの密かな楽しみだ。もっとも、その現場をアンジェリカに見られると延々と揶揄われるので、あまり扉の方は見ないようにしているけれど。
「今日は何だか暑いわね。そうだわ、あたしのとっておきのお茶をご馳走様してあげるわ。ネイトも一緒にどうかしら?」
クラリスがお茶の準備をしていると、アンジェリカが何かを思いついたような表情で近づいてくる。
その手にキラキラと光る小瓶が握られていることに気づいて、クラリスは思わずティーワゴンごと後退る。
「アンジェリカ様、それは……」
恐る恐る問いかけると、アンジェリカは小瓶を光にかざしてにっこりと笑った。
「魔女の媚薬……だと言ったら、どうする?」
「え、遠慮しておきます……」
「あら、いいじゃない。このあと2人とも、休暇にしてあげるわよ?」
「結構ですっ!」
一気に熱を持った頬を押さえつつ、クラリスは慌てて首を振る。
「遠慮しなくてもいいのに。せっかく作ってもらったんだもの、使わなきゃもったいないじゃない?」
「そ、そういうのはご自身でどうぞっ!」
「あら、あたしに相手がいないことを知った上で、そんなことを言うのね、クラリス。傷つくわぁ」
わざとらしい仕草で、アンジェリカは胸を押さえてみせる。相手がいないと言いつつも、隣国の第三王子と近々婚約予定であることはクラリスも知っているので、黙って微笑んでおく。
「まぁ、いいわ。あたしが持っていても使わないでしょうし、あなたにあげるわ、ネイト」
「アンジェリカ様!?」
思わず声をあげたクラリスに悪戯っぽく笑ってみせると、アンジェリカはネイトの手に小瓶を握らせる。
「適量は、ティースプーン1杯よ。素敵な夜のスパイスになるといいわね」
「ありがとうございます、アンジェリカ様。いただきます」
「ちょ、ネイトまで!」
クラリスの悲鳴と、アンジェリカの笑い声が、部屋の中に響いた。
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(*´꒳`*)~❀
可愛くて大好きなお話✨
みんなに読んで欲しいな
॑⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝⋆*
りんさん、ありがとうございます(*´∇`*)
媚薬出てきた割に、めちゃくちゃ初々しい2人になってしまった…!(笑)
可愛いって言ってもらえて嬉しいです♡