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しおりを挟む「ワタシと組んでくれないか?」
クリスタシアは俺にそう持ち掛けた。
「組む?憲兵隊副隊長と殺人の容疑者が?」
「そうだ。」
「俺に何をして欲しいんだ?」
「え?」
「俺と手を組むことの、アンタのメリットが思いつかない。
なのにアンタは手を組みたいという。
ってコトは、アンタじゃ出来ないが俺には出来る[何か]があるんだろ?」
「ふふ、何だと思う?」
クリスタシアが微笑む。
「誤魔化すなよ。囚人の俺だからできる、アンタのして欲しい事ってのはなんなんだ?」
「ふぅー。」
クリスタシアは大きく息を吐くと立ち上がり、くるりとこちらに背を向けると、
「君は…この国をどう思う?」
随分おおざっぱな質問だ。
「どうもこうも…この街には来たばかりだし、この国のことはよくわからないが…。
そうだな、この街には初めて来たが、いい宿屋があるいい街だ。
子共をさらう悪いヤツらもいるが、一緒に助けようとしてくれる人もいる。
決して悪い街じゃないんだろうな、ってのが俺の感想だよ。」
俺はこのホルクに来て数日間の率直な感想を述べた。
「そうか…。
色々な国や街を見ている君にそう言ってもらえると、
この街を、国を守る人間としては嬉しいね。」
俺の感想を聞いたクリスタシアの背中は、嬉しそうに少し揺れる。
「だが、この国の為政者達は腐りきっている。」
クリスタシアの顔が険しくなる。
「たしかに帝都は美しく整備され、快適な住環境が提供されている。
だが、ココに来るまでに君も見ただろう、田舎の村々を。」
俺はさっきまで居た、雪に埋もれたテウム村を思い出す。
「帝都やいくつかの大都市には税金が大量に投入され、こんなに整備されているが、
田舎の村々は今日も雪に埋もれていることだろう!
税金は大都市にまわされ、村々は税金を取られるだけで貧しいままだ。」
クリスタシアの肩が震え始めた。
怒りからなのか、悲しみによるものか…。
「田舎の村々では生活が苦しくなり、帝都に出稼ぎに来る者も多いが、
中には税が払えずに、帝都で身売りする娘もいる状態だ。
君も知ってるだろう?」
ああ、知っている。アンヌの事だ。やはり、他にも同じような娘がいるのか…。
「しかも、この帝都には出稼ぎに来た者を借金漬けにし、身売りするように仕向ける輩までいる始末っ!」
それも知ってるよ、俺は今、そいつ等を追ってるんだ。
「さらにー。」
「もういいよ。」
「なに?」
俺はクリスタシアの演説を遮る。
彼女にはそれが不満だったようで、鋭い目つきで俺を睨む。
「アンタが今御高説を垂れてた話を俺は知っているし、
なにより、俺はその金貸し屋に用があるんだ。
知り合いの女の子がそいつ等に連れ去られた。俺は早くその娘を助けたいんだ!」
俺は現状をクリスタシアに説明する。
「…その金貸しが、我ら憲兵隊と繋がっている様なんだ。」
「えぇ?」
「君にさっき、[剣で刺したか?]と聞いただろう?」
「ああ。」
「あの男、ゴゥスは、胸を刺されて死んでいたんだ。」
「なっ?!じゃあ俺は関係ないじゃないかっ!」
「そうだな、君の[刺していない]という証言が正しければ、これは濡れ衣で君は無罪だ。
そして、モチロン私は君を信じている。」
「信じるって、なんで…俺たちはさっき会ったばかりなんだぞ?
もちろん、信じてくれるのは嬉しいが…。」
「悪いヤツかいいヤツか、目を見ればわかるさ。」
自信ありそうに話すクリスタシアが、得意げに話す。
「そんなの、勘じゃないか…。」
俺の不満そうな口調が気に障ったのか、
「勘とは、経験則の事だよ。
憲兵隊になって、私がどれだけの悪いヤツの目を見てきたと思うんだ?」
「う~ん…。」
もっともな意見に、俺は唸るしかできない。
確かに、勘とは経験から来る瞬間的な判断だ。
勘は経験値が上がるほど鋭く、正確になっていくものだ。
「この憲兵隊の中に、ゴゥスの死因を偽装して、君を牢に入れておきたい人間がいる。
恐らく…。」
「攫ったユウリを、どこかに売り払うまでの時間稼ぎのため…か。」
「そうだろうね…。」
「ますます早く助けに行かないとっー。」
「だが、君はココから出られない。
金貸しと繋がる憲兵隊は、君を中々出さないだろう。
なんなら、このまま殺人の罪でー。」
クリスタシアは自分の首を切り落とすジェスチャーをする。
「おいおい、無実の罪で死刑なんて、冗談じゃないっ!」
「それだけじゃない。牢屋の中で事故死として殺されてしまうかも…。」
クリスタシアが俺の不安をどんどん煽ってくる。
勘弁してくれ、そんな物騒な所にいつまでもいられるかっ!
クリスタシアが俺から離れたすきに、長距離転移でどこかへ逃げてしまおうっ!
「安心してくれ、ここに居る限りは、ワタシが君の身の安全を保障しよう!
だから、君には協力者として、裏切り者の憲兵を捕まえるのを手伝って欲しいんだっ!」
「いや、自分で脱獄するんで結構です。」
「…………ええぇぇっっ??!!」
俺はクリスタシアの申し出を断った。
つづく
クリスタシアは俺にそう持ち掛けた。
「組む?憲兵隊副隊長と殺人の容疑者が?」
「そうだ。」
「俺に何をして欲しいんだ?」
「え?」
「俺と手を組むことの、アンタのメリットが思いつかない。
なのにアンタは手を組みたいという。
ってコトは、アンタじゃ出来ないが俺には出来る[何か]があるんだろ?」
「ふふ、何だと思う?」
クリスタシアが微笑む。
「誤魔化すなよ。囚人の俺だからできる、アンタのして欲しい事ってのはなんなんだ?」
「ふぅー。」
クリスタシアは大きく息を吐くと立ち上がり、くるりとこちらに背を向けると、
「君は…この国をどう思う?」
随分おおざっぱな質問だ。
「どうもこうも…この街には来たばかりだし、この国のことはよくわからないが…。
そうだな、この街には初めて来たが、いい宿屋があるいい街だ。
子共をさらう悪いヤツらもいるが、一緒に助けようとしてくれる人もいる。
決して悪い街じゃないんだろうな、ってのが俺の感想だよ。」
俺はこのホルクに来て数日間の率直な感想を述べた。
「そうか…。
色々な国や街を見ている君にそう言ってもらえると、
この街を、国を守る人間としては嬉しいね。」
俺の感想を聞いたクリスタシアの背中は、嬉しそうに少し揺れる。
「だが、この国の為政者達は腐りきっている。」
クリスタシアの顔が険しくなる。
「たしかに帝都は美しく整備され、快適な住環境が提供されている。
だが、ココに来るまでに君も見ただろう、田舎の村々を。」
俺はさっきまで居た、雪に埋もれたテウム村を思い出す。
「帝都やいくつかの大都市には税金が大量に投入され、こんなに整備されているが、
田舎の村々は今日も雪に埋もれていることだろう!
税金は大都市にまわされ、村々は税金を取られるだけで貧しいままだ。」
クリスタシアの肩が震え始めた。
怒りからなのか、悲しみによるものか…。
「田舎の村々では生活が苦しくなり、帝都に出稼ぎに来る者も多いが、
中には税が払えずに、帝都で身売りする娘もいる状態だ。
君も知ってるだろう?」
ああ、知っている。アンヌの事だ。やはり、他にも同じような娘がいるのか…。
「しかも、この帝都には出稼ぎに来た者を借金漬けにし、身売りするように仕向ける輩までいる始末っ!」
それも知ってるよ、俺は今、そいつ等を追ってるんだ。
「さらにー。」
「もういいよ。」
「なに?」
俺はクリスタシアの演説を遮る。
彼女にはそれが不満だったようで、鋭い目つきで俺を睨む。
「アンタが今御高説を垂れてた話を俺は知っているし、
なにより、俺はその金貸し屋に用があるんだ。
知り合いの女の子がそいつ等に連れ去られた。俺は早くその娘を助けたいんだ!」
俺は現状をクリスタシアに説明する。
「…その金貸しが、我ら憲兵隊と繋がっている様なんだ。」
「えぇ?」
「君にさっき、[剣で刺したか?]と聞いただろう?」
「ああ。」
「あの男、ゴゥスは、胸を刺されて死んでいたんだ。」
「なっ?!じゃあ俺は関係ないじゃないかっ!」
「そうだな、君の[刺していない]という証言が正しければ、これは濡れ衣で君は無罪だ。
そして、モチロン私は君を信じている。」
「信じるって、なんで…俺たちはさっき会ったばかりなんだぞ?
もちろん、信じてくれるのは嬉しいが…。」
「悪いヤツかいいヤツか、目を見ればわかるさ。」
自信ありそうに話すクリスタシアが、得意げに話す。
「そんなの、勘じゃないか…。」
俺の不満そうな口調が気に障ったのか、
「勘とは、経験則の事だよ。
憲兵隊になって、私がどれだけの悪いヤツの目を見てきたと思うんだ?」
「う~ん…。」
もっともな意見に、俺は唸るしかできない。
確かに、勘とは経験から来る瞬間的な判断だ。
勘は経験値が上がるほど鋭く、正確になっていくものだ。
「この憲兵隊の中に、ゴゥスの死因を偽装して、君を牢に入れておきたい人間がいる。
恐らく…。」
「攫ったユウリを、どこかに売り払うまでの時間稼ぎのため…か。」
「そうだろうね…。」
「ますます早く助けに行かないとっー。」
「だが、君はココから出られない。
金貸しと繋がる憲兵隊は、君を中々出さないだろう。
なんなら、このまま殺人の罪でー。」
クリスタシアは自分の首を切り落とすジェスチャーをする。
「おいおい、無実の罪で死刑なんて、冗談じゃないっ!」
「それだけじゃない。牢屋の中で事故死として殺されてしまうかも…。」
クリスタシアが俺の不安をどんどん煽ってくる。
勘弁してくれ、そんな物騒な所にいつまでもいられるかっ!
クリスタシアが俺から離れたすきに、長距離転移でどこかへ逃げてしまおうっ!
「安心してくれ、ここに居る限りは、ワタシが君の身の安全を保障しよう!
だから、君には協力者として、裏切り者の憲兵を捕まえるのを手伝って欲しいんだっ!」
「いや、自分で脱獄するんで結構です。」
「…………ええぇぇっっ??!!」
俺はクリスタシアの申し出を断った。
つづく
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