上 下
227 / 260

227

しおりを挟む
この別荘地は静養するにはいい場所かもしれないが、歓楽街も大きな市場も遠いところにあって……
小高い丘からは牧歌的で小さな街が見下ろせるのみ。
ルイスのように豪勢に遊びたい人間には、滞在するのに不向きというしかないところだったからだ。

馬車の方を見てみても御者以外に人影はなく、使用人へと聞けば客人たちは早々にエントランスへと通してしまっているのだという。
門の内側に入れてしまっていたり、そもそもルイスへ会わせてもいいのかと使用人が尋ねに来ている辺りは、そんなに警戒されるような風体ではない……ということだろう。

見た目が怪しい人間であれば、文字通り門前払いになってしまうだろうから。
……もちろん、普段は使用していないこの別邸の使用人の危機感が少し欠けているのかもしれないけれど。

「ていうか、どんな人たちですぅ?」

ここに来て数日ではあるのだが……変わり映えのない景色を眺め続けて、いい加減退屈をしていたルイスがそう尋ねる。すると年若い使用人たちは、はしゃいだように笑みを見せた。

「とっても麗しい方々ですわ!道中を旅しながら商人をされているのだとか」

「ええ、皆さん揃ってお顔立ちも華やかでお話もお上手で……」

……本邸とは違ってこちらの使用人には砕けたものも多い。
見た目が華やかだと聞いて、ルイスは興味が出てきたが……同時に商人と聞いたことで、苦い思い出も頭に浮かぶ。

(まさかあの詐欺集団がまた近づいて来たんじゃないでしょうね……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【完結】オトナのお付き合いの彼を『友達』と呼んではいけないらしい(震え声)

佐倉えび
恋愛
貧乏子爵家の三女のミシェルは結婚する気がなく、父親に言われて仕方なく出席した夜会で助けてもらったことをきっかけに、騎士のレイモンドと大人の恋愛をしていた。そんな関係がずるずると続き、四年が経ってしまう。そろそろ潮時かと思っていたころ、レイモンドを「友達」と言ってしまい、それを本人に聞かれてしまった。あわや『わからせ』られてしまうかと身構えていたら、お誘いがパタリと止み、同時にレイモンドの結婚話が浮上する。いよいよレイモンドとの別れを覚悟したミシェルにも結婚話が浮上して……? 鈍感な我がままボディヒロイン×冷静沈着な計算高いどSヒーロー。 *ムーンライトノベルズにもタイトルを少し変更してR18版を掲載

【完結】私は薬売り(男)として生きていくことにしました

雫まりも
恋愛
第三王子ウィリアムの婚約者候補の1人、エリザベートは“クソデブ”という彼の心無い言葉で振られ、自決を決意する。しかし、屋敷を飛び出し入った森で魔獣に襲われたところを助けられて生き延びてしまう。……それから10年後、彼女は訳あって薬売り(男)として旅をしていた。そんな旅のさなか、仲間に言い寄ってくる男とその付き添い、そして怪しげな魔術師の男も現れて……。 ーーーそれぞれが抱える悲劇の原因が元を辿れば同じだということにまだ気づく者はいない。 ※完結まで執筆済み。97+2話で完結予定です。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき
恋愛
子爵令嬢だったルナリーが侯爵令息であるザウダと結婚してから一年ほど経ったころ。 一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を連れてきた。 ルナリーには何も告げることなく。 そして、第二夫人はあっさりと「子供が出来た」と皆の前で発表する。 夫や姑は大喜び。 ルナリーの実家である子爵家の事業が傾いたことや、跡継ぎを作れないことを理由にしてルナリーに離縁を告げる。 でも、夫であるザウダは…… 同じ室内で男女が眠るだけで子が成せる、と勘違いしてる程にそちらの知識が欠けていたようなんですけど。 どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。 嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。 ※ゆるゆる設定です

処理中です...