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……それに、気掛かりなことはまだあった。

(――という名……どこかで……)

不意に、先ほど聞いたばかりの単語がウィリアムの頭の隅を過る。

それは、父が自分を部屋から叩き出そうとする時に……最初に呼ばれた使用人の名前だった。
その名は確か、会議の後で……自分が契約書に関する書式の手解きを頼みに行った相手ではなかったか?
先ほど侯爵の部屋で自分を捕まえた者とは……つまり、父が二番目に名を呼び、それに応えた人物とは明らかに違う使用人だったが……

最初に名を呼ばれた彼が、自分ウィリアムに書類の手ほどきをした男が……どこに行ったのかは、ウィリアムには分からなかった。
そして、ウィリアムにとってはそのことはどうでもいいことだったのだ。
……大事なことは……

ケリーティアは本当はもう自分のことを愛していないのだろうか?
と、いうことだった。

……確かに義妹は言ったはずだった。
ケリーティアが、ウィリアムへ未練があるのだと。

その言葉を信じて、ウィリアムは行動をしたというのに。

ケリーティアと再び婚約関係にあれるというから領地を差し出すような真似も出来た。
父の信頼を裏切り、元婚約者への想いも諦めろと諭され、しまいには失望したなどと言われてしまった……

……何が正しいのかを、どこで間違えたのかをウィリアムは……分かっているのに認められない。

「ルイスは……どこにいるんだ……あいつ……」

ウィリアムはフラッとした足取りで、扉の方へと歩み始めた。
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