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「何を馬鹿なことを……」

気迫があるからと言って、侯爵にとっては突拍子もないような主張である。
ウィリアムが嘘を言っていない様子なのは気にかかったが、しかしそれを鵜呑みにするほど、上級爵位を賜っている父は愚かでもなかった。
……というよりも、この有様のウィリアムでも到底考えつかないような策を……ルイスが唱えたというには、違和感の方が大きかったからだ。

ウィリアムは、父親が見ている前で両手で顔を覆い……嘆くでもなく、ぶつぶつと独り言を繰り返した。
……そう、侯爵への弁明というにはあまりにも内側を向いている言い方で……
自分自身へ問うているようにも感じられた。

「いい案があると言って……そうだ……おかしかった……ルイスが……なぜあんなことを……」

ウィリアムの指の合間から見える彼の目は大きく開かれていたが、その眼は昏く沈んで、この部屋のことも目の前にいる侯爵のこともまるで目に入っていないようだった。
それはやはり、何かに取り憑かれているかのようで……

(……気が触れていたか……どうにか、外に漏れないようにしなければならん……)

心が惑わされている者を世に出したとすれば、貴族界隈でのそしりや嘲笑は免れないであろう。
このまま衰弱を装ったことにして……そのせいで彼は判断を誤り、妙な人間たちと付き合いを持ってしまったのだと外へ向けて言い張ることも出来るかもしれないが……

そうするには、あまりにウィリアムの状態は危ういように思えた。
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