217 / 260
217
しおりを挟む
「何を馬鹿なことを……」
気迫があるからと言って、侯爵にとっては突拍子もないような主張である。
ウィリアムが嘘を言っていない様子なのは気にかかったが、しかしそれを鵜呑みにするほど、上級爵位を賜っている父は愚かでもなかった。
……というよりも、この有様のウィリアムでも到底考えつかないような策を……ルイスが唱えたというには、違和感の方が大きかったからだ。
ウィリアムは、父親が見ている前で両手で顔を覆い……嘆くでもなく、ぶつぶつと独り言を繰り返した。
……そう、侯爵への弁明というにはあまりにも内側を向いている言い方で……
自分自身へ問うているようにも感じられた。
「いい案があると言って……そうだ……おかしかった……ルイスが……なぜあんなことを……」
ウィリアムの指の合間から見える彼の目は大きく開かれていたが、その眼は昏く沈んで、この部屋のことも目の前にいる侯爵のこともまるで目に入っていないようだった。
それはやはり、何かに取り憑かれているかのようで……
(……気が触れていたか……どうにか、外に漏れないようにしなければならん……)
心が惑わされている者を世に出したとすれば、貴族界隈での誹りや嘲笑は免れないであろう。
このまま衰弱を装ったことにして……そのせいで彼は判断を誤り、妙な人間たちと付き合いを持ってしまったのだと外へ向けて言い張ることも出来るかもしれないが……
そうするには、あまりにウィリアムの状態は危ういように思えた。
気迫があるからと言って、侯爵にとっては突拍子もないような主張である。
ウィリアムが嘘を言っていない様子なのは気にかかったが、しかしそれを鵜呑みにするほど、上級爵位を賜っている父は愚かでもなかった。
……というよりも、この有様のウィリアムでも到底考えつかないような策を……ルイスが唱えたというには、違和感の方が大きかったからだ。
ウィリアムは、父親が見ている前で両手で顔を覆い……嘆くでもなく、ぶつぶつと独り言を繰り返した。
……そう、侯爵への弁明というにはあまりにも内側を向いている言い方で……
自分自身へ問うているようにも感じられた。
「いい案があると言って……そうだ……おかしかった……ルイスが……なぜあんなことを……」
ウィリアムの指の合間から見える彼の目は大きく開かれていたが、その眼は昏く沈んで、この部屋のことも目の前にいる侯爵のこともまるで目に入っていないようだった。
それはやはり、何かに取り憑かれているかのようで……
(……気が触れていたか……どうにか、外に漏れないようにしなければならん……)
心が惑わされている者を世に出したとすれば、貴族界隈での誹りや嘲笑は免れないであろう。
このまま衰弱を装ったことにして……そのせいで彼は判断を誤り、妙な人間たちと付き合いを持ってしまったのだと外へ向けて言い張ることも出来るかもしれないが……
そうするには、あまりにウィリアムの状態は危ういように思えた。
1,435
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
体裁のために冤罪を着せられ婚約破棄されたので復讐した結果、泣いて「許してくれ!」と懇願されていますが、許すわけないでしょう?
水垣するめ
恋愛
パーティ会場、観衆が見守る中、婚約者のクリス・メリーズ第一王子はいきなり婚約破棄を宣言した。
「アリア・バートン! お前はニア・フリートを理由もなく平民だからと虐め、あまつさえこのように傷を負わせた! そんな女は俺の婚約者に相応しくない!」
クリスの隣に立つニアという名の少女はクリスにしがみついていた。
彼女の頬には誰かに叩かれたように赤く腫れており、ついさっき誰かに叩かれたように見えた。
もちろんアリアはやっていない。
馬車で着いてからすぐに会場に入り、それからずっとこの会場にいたのでそんなことを出来るわけが無いのだ。
「待って下さい! 私はそんなことをしていません! それに私はずっとこの会場にいて──」
「黙れ! お前の話は信用しない!」
「そんな無茶苦茶な……!」
アリアの言葉はクリスに全て遮られ、釈明をすることも出来ない。
「俺はこいつを犯罪者として学園から追放する! そして新しくこのニアと婚約することにした!」
アリアは全てを悟った。
クリスは体裁のためにアリアに冤罪を被せ、合法的に婚約を破棄しようとしているのだ。
「卑怯な……!」
アリアは悔しさに唇を噛み締める。
それを見てクリスの傍らに立つニアと呼ばれた少女がニヤリと笑った。
(あなたが入れ知恵をしたのね!)
アリアは全てニアの計画通りだったことを悟る。
「この犯罪者を会場から摘み出せ!」
王子の取り巻きがアリアを力づくで会場から追い出す。
この時、アリアは誓った。
クリスとニアに絶対に復讐をすると。
そしてアリアは公爵家としての力を使い、クリスとニアへ復讐を果たす。
二人が「許してくれ!」と泣いて懇願するが、もう遅い。
「仕掛けてきたのはあなた達でしょう?」
姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……
泉花ゆき
恋愛
子爵令嬢だったルナリーが侯爵令息であるザウダと結婚してから一年ほど経ったころ。
一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を連れてきた。
ルナリーには何も告げることなく。
そして、第二夫人はあっさりと「子供が出来た」と皆の前で発表する。
夫や姑は大喜び。
ルナリーの実家である子爵家の事業が傾いたことや、跡継ぎを作れないことを理由にしてルナリーに離縁を告げる。
でも、夫であるザウダは……
同じ室内で男女が眠るだけで子が成せる、と勘違いしてる程にそちらの知識が欠けていたようなんですけど。
どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。
嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。
※ゆるゆる設定です
幼馴染みが皇帝になった件
日下奈緒
恋愛
アンヌは幼馴染みのヴィクトルとアリスティドと今も仲良しだ。だがある日、現皇帝が亡くなり跡を継いだのは気の知れたヴィクトルだった。逆ハー×シンデレラストーリー。
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
〖完結〗ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。
藍川みいな
恋愛
タイトル変更しました。
「モニカ、すまない。俺は、本物の愛を知ってしまったんだ! だから、君とは結婚出来ない!」
十七歳の誕生日、七年間婚約をしていたルーファス様に婚約を破棄されてしまった。本物の愛の相手とは、義姉のサンドラ。サンドラは、私の全てを奪っていった。
父は私を見ようともせず、義母には理不尽に殴られる。
食事は日が経って固くなったパン一つ。そんな生活が、三年間続いていた。
父はただの侯爵代理だということを、義母もサンドラも気付いていない。あと一年で、私は正式な侯爵となる。
その時、あなた達は後悔することになる。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる