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「…………は?」

侯爵は、今度は……何か奇妙なものを見るような目で、自分の息子の顔を見た。
彼の言い分があまりにも支離滅裂だったからだ。
父のピンと来ていない様子を目の当たりにして、ウィリアムは手振りを交えて説明を追加する。

「いえ、ですから……この譲渡が終わった時点で、改めて婚約を申し込もうとしていて……」

「……言葉の意味が分からなかったわけではない!何をぬかしている、と言ってるんだ……」

侯爵は急激に疲労を覚えていた。先程まで怒気を乗せた言葉を吐き出していたが、今は勢いを失いながら疲れたようにかぶりを振る。

「ですが、良い案だと思いませんか!?一度手放してもう一度婚約をすれば……そうすれば領地の管理も彼女に任せられるし、その上で我が侯爵家は土地を失わずに済みます!」

そんな父を前にして、目を大きく開きながら生き生きと説明するウィリアム。
父の目には、まるで何かに取り憑かれたようにも見えた。
……この婚約破棄自体は、伯爵令嬢である彼女の方から申し込まれたと聞いている。

急激に調子を悪くしていった領地管理を考えると、ケリーティアの存在はウィリアムにとって思いの外大きなものだったに違いない。
だからこそ、このような……めちゃくちゃなことを言い出してしまっているのかと……

婚約破棄がウィリアムに落とした陰を思って、侯爵は少しだけ目の前の息子が哀れになった。

「ウィリアム、お前……そこまで彼女に惚れていたのか……」
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