婚約者の義妹に結婚を大反対されています

泉花ゆき

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執務室に入った侯爵は備え付けてある机の奥で革張りの椅子へ腰を深く下ろし、引き出しから取り出した煙管へと煙草葉を詰めた。
心得た使用人が擦ったマッチで火を灯すと、見る間に葉が色を変えてゆく。
口へと含んだ煙を転がすように味わってから吐き出す。数回繰り返すと、それでようやく頭が冷えてきた。

「……それで、何だって彼は辞めていったんだ?」

「は……」

吸い終えた煙管の後始末を任せ、改めて動機を問い尋ねてみるが……その残った使用人からは明確なものは返ってこなかった。

「なんでも、郷里の方でどうしても戻らなければならない問題が出たとか……」

「……そ……」

そんな事でか?と、言いかけた言葉を、侯爵は飲み込む。
長く仕えた、この名誉ある侯爵家での職を辞すほどのことが、辞めていった彼の故郷にあるとはとても思えなかった。
それも、侯爵が不在の合間に、である。
そのような不義理を働かせてしまう程に無理を強いた覚えはなかった。

(……一度直接会って話してやりたかった)

そしてそれは、今でも遅くないように思えたのだが……

「侯爵様!お探しの資料を取りそろえました……!」

「……そこに並べてくれ」

今は急を要する事案を多く抱えていた。その中の一つである、息子と義娘の巻き込まれたトラブルについて。
……実際は、半分以上が本人の巻き起こしたものではあるのだが、侯爵はまだそのことを知らない。
今はただ、山と積まれた書類へと目を通すことを優先させるのだった。
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