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侯爵夫人を乗せた馬車がたどり着いたところは、屋敷よりほど近い街の中の一角でした。
一等地と呼ばれるようなところに豪商や財産を多く持つ人々の邸宅が並び、その中の一つである建物の前で馬車が止まります。

つばの長い帽子と顔の前に下がるレース布で、一目では誰とも分からぬようにしている夫人が、馬車を降り立ちます。
建物の扉を開けると、中にいた人物が慌てて飛ぶように出迎えへと走ってきました。
上等な仕立てものに身を包んだ男性です。

「奥様!これはお忙しいところ、このような場所まで……」

部屋の中は事務机がいくつか並び、数人の人間が仕事をしていましたが、みな一様に立ち上がって侯爵夫人の元に集います。

「堅苦しい挨拶はいいんだよ、首尾はどうだい?」

夫人は被っていた帽子を脱いでお供にしてきた使用人へと預け、勝手知ったる場所のように一つの机へと歩んでいきました。
そして、その机の上に置かれた書類を何枚か取って目を通し始めています。

「それはもう、お陰様で順調と言っていい他ありません。おい、お茶をお持ちしろ!」

その後をぺこぺこと着いて回っていた男性が、他の年若い人間へと指示を出し……
机の上に置いてある書類を何枚かまとめて持つと、奥の個室へと侯爵夫人を誘導しました。

奥にある個室の部屋は簡単な造りでしたが、よく見ると備え付けられている椅子やテーブルは高価なものだと知れるような品でした。

「こちらへお座りください。そしてこれらが、今期の報告書でございます」
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