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「この侯爵家から何一つ持ち出せると思わないでちょうだい!」

離縁があれば持参金はすべて嫁いできた女性が持って帰るものです。もちろんその為の持参金であり、当然義母もそのことはよく知っていたのですが……
義母には考えがあったのでした。

その考えの中身をルナリーへ向かって発することはないまでも、事実だけを突き付けてやります。

(この女にくれてやるものなんて銅貨一つもないってこと、後から知って吠え面をかくといいわ!)

それでも、ルナリーに動じるところはないように見えました。その態度がまた、義母の怒りに火をつけます。

「……私は、国に定められた通りのものを要求するだけですが……それにしても」

一度言葉を区切ったルナリーは、まるで憐れみを持ったような視線で、義母を見ました。

「期間の短さは元より、このような状態で子を成さなかったことを責められるなど私の常識の範囲にはなかったものですから……」

一度視線を伏せたルナリーが何を考えたのか。それは、義母には分からなかったのですが……

「ですから、この度のお話は謹んでお受けいたします」

そのままルナリーは裾を広げてお辞儀をしました。話は済んだとばかり、扉の方へ踵を返します。

「それでは、失礼いたします」

――バタン


「……小娘が!」

義母は酔いと怒りで真っ赤になりながらグラスを投げつけましたが、その時にはすでにその場にルナリーはおらず。
毛足の長い絨毯に触れたガラス細工が、弾みもしないで空しく転がるのみでした。
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