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しおりを挟む相場からすると破格の持参金を用意して嫁いで来たルナリー。
その頃は、自分がこんな扱いを受けるなんて思ってもみませんでした。
(ふぅ……あの食事の広間を抜け出してきたけど……結局、使用人たちの目があって休まりなどしないわ……)
屋敷のそこここから、さりげなく使用人たちの視線が注がれているのを感じます。
彼ら、彼女らは一見すると掃除や雑用など自分の仕事をしているように見えるのですが……
その実、屋敷内でのルナリーを監視するように指示が出されているのです。
決して近付いて来ようとはしないものの、探るように見張られているという気持ちは決して居心地のいいものではありません。
ルナリーが、自分が監視されていると気付いたのは侯爵家に嫁いで来てすぐのことでした。
教えられた部屋までの道を間違えてしまい、横道へ逸れて中庭に出てしまった時のことです。
侯爵家の中庭は四季それぞれの花が植わり、傍らに紅茶をたしなんだり来客を応接する時用のサロンが設えられている立派なものでした。
『わぁ……素敵……』
子爵家では見慣れない、その花へと思わず近寄ろうとしたとき……
後ろから、小さな咳払いが聞こえました。
振り返ると、使用人の一人が無表情でルナリーを見ています。
『え……?』
『ルナリー様、お部屋をお間違いではないでしょうか』
そう淡々と言われて、何となく耳まで赤くなるような恥ずかしさを覚えたルナリー。
『あ……ごめんなさい、ここではなかったわね……』
まるで幼い子を諭すようにそう言われて、何かとんでもない粗相をしてしまったような気がしたのです。
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