上 下
8 / 81

8

しおりを挟む
ルナリーは、平静を装った……大声ではなくとも、静かに通る声を出して場の面々へと告げました。

「……それでは、わたくしは先に自室へ戻らせて頂きます」

(どう見ても、お話にも不要なようですし……)

それが証拠に、姑とカテリィナはルナリーのその言葉も姿も、まるでこの部屋にいなかったような対応をしてこちらへ目線も寄越しません。

「新しい部屋を用意しなくてはならないねぇ」

「家具も全て新調いたしましょうお義母様ぁ、いっそのことお義母様のお使いの物も手配してぇ……」

「あら、いいわね。カテリィナは本当に気が利くこと。ねぇ、ザウダ……?」

「え?あ、あぁ……そうですね、お母様……」

二人の会話は留まることを知らないでいて。
ルナリーは再び心の中だけでため息をついて、そっと席を立ちました。

ザウダは、姑と第二夫人に挟まれて曖昧な相槌を打っていたのですが、ルナリーの為に広間の扉が開かれてるのを見て、やっと彼女が部屋を出ていこうとしているのに気付いたようでした。

心ここにあらず、と言ったところだったので……先ほどのルナリーの声は、彼にだけは本当に聞こえなかったのかもしれません。

「あ……ルナリー!ちょっと待て、まだ話は……」

ガタンッ!

慌てたように立ち上がるザウダ。使用人が椅子を引く前にそうしたものですから、脚がしっかりとテーブルへ当たってしまい……
ティーカップがあえなく倒れてしまいます。淹れたての紅茶が、卓上へこぼれて行きました。

──ばしゃっ

「ぎゃあっ!?」

「お、お義母様!」

膝の上に熱々の紅茶を浴びてしまったのでしょうか、そんな悲鳴が聞こえました。
扉を閉じるときになって聞こえたその声……ですが、今度はルナリーが知らないふりをして、そっと静かに退出をしました。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

完璧王子と記憶喪失の伯爵令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,663pt お気に入り:13

預言

SF / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:0

今更あなたから嫉妬したなんて言われたくありません。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:724pt お気に入り:2,878

願いを叶える魔法のランプを手にした物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,428pt お気に入り:1

料理の恋愛小説

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,335pt お気に入り:1

婚約者と妹が駆け落ちし、婚約は破棄されました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:9

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,924pt お気に入り:3,611

処理中です...