(完結)伯爵令嬢に婚約破棄した男性は、お目当ての彼女が着ている服の価値も分からないようです

泉花ゆき

文字の大きさ
上 下
25 / 74

25

しおりを挟む


 *
 
 ──ある日。ユキマサの父、稗月木枯ひえづきこがらしはパチスロへと足を運んでいた。

(雨だ……今日はパチスロ日和だな)

 さて、何を打つか……

(パチンコなら〝ホスト無双〟スロットなら〝パシリスト絆〟だな……悩み所だ……)

 顎に手を当て、小遣いである一万円札を握りしめ、木枯は朝イチのパチ屋の入場抽選を待つ。

 抽選の順番は10番、平日の特にイベントでも無い日としてはまあまあの入場順だ。

(よし、今日はパシリストだ! 絆を打つぞ!)

 木枯は決意を固める。
 そうして打つこと100回転前後、木枯はフリーズを引いた。

「おいおい、マジか!?」

 引いた木枯自身が驚く。

 結果、この日、木枯は5000円でフリーズを引き、なんやかんやで8000枚(16万円)と大勝利を果たした。 

 ご機嫌なテンションで木枯は帰路に着く。

 家に着くと、木枯は吹雪の前で正座していた。

「──あぶく銭です」

 稗月家にはこんな家訓がある。
 〝汗水垂らして稼いだ金は自分達の為に使え、あぶく銭は可能な限り他人のために使え〟

 この家訓の為の吹雪の対応である。

「ま、待ってくれ、今までスッたのを計算するとそんなに勝ってないんだ!」
「あぶく銭です!」

 ニッコリと吹雪が笑う。

「まあ、家族で外食ぐらいは行きましょうか」

 その場にぐったりと木枯は膝を吐く。

 その日、家族6人で食べ放題の焼き肉チェーン店に晩飯を食べに行き、残った金は母さんが全額孤児院に寄付していたのだった──。

 *

「夏祭り?」

 理沙が口を開く。

「ああ、今日の夜だ! 屋台、見に行こうぜ!」

 俺は楽しげに理沙に言う。

「で、でも……」

 チラりと母さんを理沙が見る。

「いいじゃない、せっかくのお祭りよ、理沙ちゃんも見てきなさいな」
「う、うん!」

「よっしゃあ、決まりだな!」
「いや、何で親父が一番嬉しそうなんだよ?」

 まあ、ということで、その夜──

「こ、混んでるね」
「理沙はお祭り来たこと無いのか?」

「うん、来たこと無い」
「まじかよ」

「あ、理沙ちゃん、はい、お小遣い!」

 と、理沙に母さんが5000円を渡す。

「え、こんな大金、受け取れないよ」
「いいのよ、むしろ店の手伝いをしてくれてるんだから、普通ならこの100倍ぐらい渡したい所よ」

 100倍って……まあ、一年以上店を手伝ってるんだからそれぐらい出ても、何ら不思議じゃないか。

「じゃ、じゃあ、ありがとう、な、何、買おうかな」
「たこ焼き、焼きそば、りんご飴、唐揚げ、ポテト、早く回らないとだな」

「ユキマサはどれだけ買うつもりなの?」
「ん? 制覇に決まってるだろ? 名がすたる」

「俺はユキマサに賛成だ、金は俺が持つ、好きに食べてこい」
「流石は親父だ、分かってるな!」

 ガシッと、腕を絡ます俺と親父。

「はーいはい、理沙ちゃんバカは放っておきましょ、それより、花火の場所取りをしてくれてる、お義父様とお義母様を探さなきゃね」
「……うん」

 *

「たこ焼き1つ」

「焼きそば1つ」

「りんご飴1つ」

 そんな感じでどんどんと俺は屋台を回る。

「おい、ユキマサ、そっちはどうだ?」
「どうだも何も、俺は飲食系の屋台を回ってるだけだぜ? 親父こそ、そのキツネの面はどうしたんだよ?」

 いつの間にか、キツネの面を斜めにかける親父は上機嫌で話しかけてくる。

「あ、やっと見つけた! おかーさんが探してたよ」

 と、現れたのは理沙だ。
 だが、理沙の手にはりんご飴とわたあめが握られており、どうやら理沙も理沙で夏祭りを満喫しているみたいだ。

「理沙か、どうだ? 祭りは?」
「うん、すごい楽しい、おばーちゃんにりんご飴も貰ったし──美味しいね、これ」

「にしし、だろ?」
「何でユキマサが誇らしげなのよ?」

「おい、ユキマサ、理沙、そろそろ花火が始まるぜ? 吹雪達と合流しなきゃな? 理沙、案内頼むぜ?」

「あ、うん、こっち」

 理沙に案内され、かき氷、大判焼き、お好み焼き、を買いながら俺達は母さん達と合流する。

 と、その時だ、ヒュ~ン、ドッカーン!

 大きな花火が打ち上がる。

「綺麗……」
「にひひ、だろ? 花火は良いよな」

 感動したような声で理沙が呟き、俺はその隣で楽しく笑う。花火は良い、特に誰かと見る花火は格別だ。

「おーい、理沙、ユキマサ、かき氷の屋台があるぜ! 夏の醍醐味だ、食おうぜ、さて何味にするか?」

 俺と理沙の間に割って入り、右手を俺に、左手を理沙の頭の上に乗せる親父は子供のように笑顔だ。

「親父、花火見ろ、花火! もう始まっちまったじゃねぇか! ブルーハワイ!」
「バカ野郎! 花火の下で食う、かき氷ってのが乙なんだぜ? お前もやってみろ?」

「な、花火の下で、かき氷だと……!?」

 最高に決まってる。
 く、馬鹿は俺だ。

「私はイチゴにしようかな」
「お、いいねぇ。俺は変化球でコーラ味だな。よし、おやっさーん! かき氷3つ、ブルーハワイ、イチゴ、コーラで頼むぜ!」

 でも、時間は無駄にはしまいと、さっさかと親父は注文と会計を済ませる。

「ありがとな、親父」
「ありがとう。おとーさん」

 かき氷を受けとる、シロップもケチケチせず、たっぷりだ。
 しかもよく見るとシロップはかけ放題らしい。気前が良いね。

「おうよ。ゆっくり食べな、キーンてなるからな? さ、じゃあ、食いながら、吹雪たちと合流しようぜ」

 サクッと刺し、パクっと食う。うん、美味い。
 ブルーハワイのこの青色が実に涼しげだよな。

「ていうか、おとーさんもユキマサも手荷物いっぱいだね。どれだけ買ったの?」

 かき氷を食いながら、ビニール袋に入った屋台の食べ物を両腕にこれでもかとブラ下げる俺と親父を見て理沙が驚き半分呆れ半分といった様子で見てくる。

「ん? 目に止まった物、全てだが?」

 も当然かのように答える俺に、理沙はやはり呆れ気味だ。

 花火の打ち上がる空の下、俺と理沙と親父は、席を取っていた母さんと爺ちゃん婆ちゃんと合流する。

「あら、遅かったですね、花火始まってますよ」

 母さんが少しズレて、俺たちの席を開ける。

「おい、木枯こがらし、早くせい、先にもう飲んどるぞ」
「あらあら、飲み過ぎないでくださいね」

「いいねぇ。屋台で色々買ってきたぜ、皆で食おう」

 親父がビールをグラスに爺ちゃんに注いでもらいながら返事を返す。

 ヒュ~ン、ドッカーン!
 花火が打ち上がる。

「どうした理沙?」

 ふわぁ、と、感動したように花火を眺める理沙に俺はイタズラ気に声を掛ける。

「うん、綺麗だなって!」

 花火に負けない明るい笑顔だ。

「理沙ちゃん、理沙ちゃん、たこ焼き食べる?」
「食べる、お婆ちゃんも一緒に食べよ」

 婆ちゃんの隣に座り、たこ焼きを爪楊枝で食べ始める。理沙は、たこ焼きを食べると、花火が上がると、少しオーバーなぐらいのリアクションを取る。
 でも、凄く楽しそうだ。婆ちゃんも笑ってる。

「本当に綺麗、たこ焼きも美味しい──」

 笑みを溢す、理沙。

 ──花蓮理沙は、この日見た花火を生涯忘れない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

婚約破棄ですか? 優しい幼馴染がいるので構いませんよ

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアリスは婚約者のグリンデル侯爵から婚約破棄を言い渡された。 悲しみに暮れるはずの彼女だったが問題はないようだ。 アリスには優しい幼馴染である、大公殿下がいたのだから。

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。

【完結】元婚約者は可愛いだけの妹に、もう飽きたらしい

冬月光輝
恋愛
親から何でも出来るようにと厳しく育てられた伯爵家の娘である私ことシャルロットは公爵家の嫡男であるリーンハルトと婚約しました。 妹のミリムはそれを狡いと泣いて、私のせいで病気になったと訴えます。 妖精のように美しいと評判の妹の容姿に以前から夢中だったとリーンハルトはその話を聞いてあっさり私を捨てました。 「君の妹は誰よりも美しいが、やっぱり君の方が良かった」 間もなくして、リーンハルトは私とよりを戻そうと擦り寄ってきます。 いえ、私はもう隣国の王太子の元に嫁ぐ予定ですから今さら遅いです。 語学も含めて、古今の様々な教養を厳しく叩き込んでくれた両親に感謝ですね。 何故か妹は鬼のように甘やかされて教養も何もなく、我儘放題に育ちましたが……。

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。 しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。 「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」 身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。 堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。 数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。 妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

処理中です...