7 / 74
7
しおりを挟む
可愛らしい女性を連れてビートが応接室へと戻ってきたのは、それからいくらもしないうちのことでした。
エスコートをするように手を取って戻ってきた姿に、マリアンヌは心の中で苦笑します。
正式に破棄を決定することが決まったわけでもないのに、婚約者の前にそのような姿をみせるなんて、と。
特に招いた覚えのない客人、ということにはなるのですが。
もしその女性が何も知らない、ということであれば。
当たり障りのない挨拶を済ませて、この場を終えてしまおう……
そう感じながら、歩いてくる二人には気取られぬように、マリアンヌはひっそりとため息をつきました。
「マリアンヌ、こちらがロコだ。街一番の大店の一人娘だ。
ロコ、こいつはマリアンヌという。この屋敷の娘だ」
「初めまして、マリアンヌ嬢~」
おっとりと裾を広げて挨拶する、ロコと呼ばれた女性。
この家に来た目的も分かっていないまま、ただ挨拶だけをしに来たようにも見えました。
ビートはロコの隣に立って、余計なことを言うんじゃないぞ……というような視線を投げかけて来ています。
随分とおざなりな紹介をされた気がしますが、元より、この場で事を荒立てる気もないマリアンヌ。
粛々と挨拶の姿勢を取ります。
「初めまして、ロコさん」
マリアンヌも裾を広げ、カーテシーを返しながら、ふと視線を瞬かせました。
ロコが身に着けているワンピースです。
それはシンプルな一枚布から出来ているようでした。
装飾はなく、すとんと流れるように長い裾が体に沿って落ちています。
繊細な細いひだが連なるスカート部分は、確かに派手とは程遠く、傍目にはすっきりとしたラインに見えますが……
エスコートをするように手を取って戻ってきた姿に、マリアンヌは心の中で苦笑します。
正式に破棄を決定することが決まったわけでもないのに、婚約者の前にそのような姿をみせるなんて、と。
特に招いた覚えのない客人、ということにはなるのですが。
もしその女性が何も知らない、ということであれば。
当たり障りのない挨拶を済ませて、この場を終えてしまおう……
そう感じながら、歩いてくる二人には気取られぬように、マリアンヌはひっそりとため息をつきました。
「マリアンヌ、こちらがロコだ。街一番の大店の一人娘だ。
ロコ、こいつはマリアンヌという。この屋敷の娘だ」
「初めまして、マリアンヌ嬢~」
おっとりと裾を広げて挨拶する、ロコと呼ばれた女性。
この家に来た目的も分かっていないまま、ただ挨拶だけをしに来たようにも見えました。
ビートはロコの隣に立って、余計なことを言うんじゃないぞ……というような視線を投げかけて来ています。
随分とおざなりな紹介をされた気がしますが、元より、この場で事を荒立てる気もないマリアンヌ。
粛々と挨拶の姿勢を取ります。
「初めまして、ロコさん」
マリアンヌも裾を広げ、カーテシーを返しながら、ふと視線を瞬かせました。
ロコが身に着けているワンピースです。
それはシンプルな一枚布から出来ているようでした。
装飾はなく、すとんと流れるように長い裾が体に沿って落ちています。
繊細な細いひだが連なるスカート部分は、確かに派手とは程遠く、傍目にはすっきりとしたラインに見えますが……
31
お気に入りに追加
3,583
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
婚約破棄したくせに、聖女の能力だけは貸して欲しいとか……馬鹿ですか?
マルローネ
恋愛
ハーグリーブス伯爵家には代々、不思議な能力があった。
聖女の祈りで業務の作業効率を上げられるというものだ。
範囲は広いとは言えないが、確実に役に立つ能力であった。
しかし、長女のエメリ・ハーグリーブスは婚約者のルドルフ・コーブル公爵令息に婚約破棄をされてしまう。そして、進めていた事業の作業効率は計画通りには行かなくなり……。
「婚約破棄にはなったが、お前の聖女としての能力は引き続き、我が領地経営に活かしたいのだ。協力してくれ」
「ごめんなさい……意味が分かりません」
エメリは全力で断るのだった……。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
「これは私ですが、そちらは私ではありません」
イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。
その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。
「婚約破棄だ!」
と。
その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。
マリアの返事は…。
前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。
【完結】私がお邪魔だと思われますので、去らせていただきます。
まりぃべる
恋愛
アイリス=トルタンカン伯爵令嬢は、自分の屋敷なのに義母と義妹から隠れるように生活していた。
やる事が無くなった時、執事のタヤックに提案され、あることをしながらどうにか過ごしていた。
18歳になり、婚約しなさいと言われたのだが義妹が駄々をこね、お父様と義母様までもが…?
仕方がないので居場所がないアイリスはお屋敷を去ることにした。
そこで…?
婚約破棄により婚約者の薬のルートは途絶えました
マルローネ
恋愛
子爵令嬢であり、薬士でもあったエリアスは有名な侯爵家の当主と婚約することになった。
しかし、当主からの身勝手な浮気により婚約破棄を言われてしまう。
エリアスは突然のことに悲しんだが王家の親戚であるブラック公爵家により助けられた。
また、彼女の薬士としての腕前は想像を絶するものであり……
婚約破棄をした侯爵家当主はもろにその影響を被るのだった。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
婚約者と兄、そして親友だと思っていた令嬢に嫌われていたようですが、運命の人に溺愛されて幸せです
珠宮さくら
恋愛
侯爵家の次女として生まれたエリシュカ・ベンディーク。彼女は見目麗しい家族に囲まれて育ったが、その中で彼女らしさを損なうことなく、実に真っ直ぐに育っていた。
だが、それが気に入らない者も中にはいたようだ。一番身近なところに彼女のことを嫌う者がいたことに彼女だけが、長らく気づいていなかった。
嫌うというのには色々と酷すぎる部分が多々あったが、エリシュカはそれでも彼女らしさを損なうことなく、運命の人と出会うことになり、幸せになっていく。
彼だけでなくて、色んな人たちに溺愛されているのだが、その全てに気づくことは彼女には難しそうだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる