上 下
54 / 59
真実の表側

53 サン?

しおりを挟む
さっきと比べものにならないくらいの殺気に、俺は当然だが周りの執事や侍女達もへたり込んでガタガタ震えている。


しまった!

動揺して余計な事を言っちまった!!


サァ~……と顔色を悪くしながら、必死に言い訳を考える。

しかし、眉を大きく寄せて大激怒している神王に一体何の言い訳が通じる……?


「 何で知ってるのかって聞いている。

答えないならこのまま消す。 」


《 警告!!約30秒後に消滅します。

回避不可、回避不可。



────この世界にお別れを……。 》


スキルが諦めた!!?


もうダメだ!!とパニックを起こした俺は、後ろに大きく後退して、その場で土下座し、無駄だと分かっていても大声で命乞いをする。


「 す、す、すみませんでした────!!

俺……嘘ついてました!!

そいつの事は本で知ったんじゃなくて、元から知ってて……。 」


「 ……まさか、クーラはそいつの子孫か何かかな?全然似てないけど。

血筋は全部潰してやったと思ったのに……。 」


「 め、滅相もございません!!

生まれは関係なく貧民ですので!!レイケ……じゃなくて、その男とは縁もゆかりもありません! 」


神王の怒りは治まらず、一歩、また一歩と俺に近づいてくるので、恐怖でハァハァ……と息を乱しながら更に続けて言った。


「 俺は……特殊なスキルで1000年前の世界から来ました!!

だからそいつの事は最初から知っていたんです!!

騙していて申し訳ありませんでした!! 」


「 は……?1000年前……? 」


ピタリと俺の目と鼻の先で動きを止めた神王に、チャンスと見た俺はヘコヘコと頭を土下座したまま縦に振る。


「 はいっ!俺のギフトは< 渡り人 >っていう役立たずの才能で……死んで初めて発動したんですよ!

その男に殺されて……で、目が覚めたら、この1000年後の未来に飛ばされてました。

だから────……。 」


「 …………。 」


────シーン……。


沈黙が非常に怖くて、頭を下げたままガクブルしていると、突然神王がボソッと呟いた。



「 ……クーラという名前は本名……? 」


震えている様にも聞こえる声に、もしかして相当怒っているのかと思いビクッ!!と体が跳ねたが、なんとか助かろうと、俺は自分の名前を叫ぶ。


「 違います!本当の名前は< グラン >です!!

地中から一生這い出れないミソッカスって意味でつけられた、クソみたいな名前であります! 」


ブルブル……。

ガクガク……!


前にいる神王が怖くて怖くて、そのまま動かないでいると────突然……。





────ポタッ……。



俺の下げている頭に水滴が落ちてきたため、驚いて震えが止まった。



……雨???



こんな城の中で雨など降らないのは知っているため、なら、一体何?とゆっくり顔を上げると、そこには───────ボロボロと涙を流す神王がいた。



「 ……えっ……な……っ……えぇ……??? 」


ポカンとしながら、泣いている神王の赤い瞳に魅入っていると……突然記憶の中の大事な存在と完全にイメージが重なる。






「 ────サン……? 」




大事な大事な、今は俺の記憶の中にだけ生きているサンの名前を呼ぶと、その瞬間勢いよく神王に抱きしめられてしまった。


「 うん……うん……サンだよ。グラン様……。 」


自分の体を包み込むくらい大きな体。

面影は赤い瞳だけだというのに、泣いている神王の姿が────サンが俺に縋り付いて泣いていた姿に完全に重なった。




” す……捨てられたのかと思った……。

お願いします。捨てないで……。 ”


” 何でもするから……お願いします……一緒にいて……お願い……。 ”


” 貴方がいないと……生きていけない……。 ”



俺が必要なモノを買い物するため、サンをハウスに置いて外出した時の事。


帰ってきたら、サンがボロボロ泣いて俺にそう言った。



今、目の前で俺を抱きしめて泣いている……サンの面影の一つもない神王の背中にゆっくりと手を回し抱きしめると、いつの間にか自分の目からもボロボロと涙がこぼれている事に気づく。


「 サン……サン……本当にお前、サンなのか……? 」


「 そうだよ、グラン様。俺は貴方の奴隷のサンです。

ずっと……ずっと……貴方が殺されてから1000年……生きてきた……。


本当に……本当にグラン様なのですか? 」



神王は俺を抱きしめたまま顔をゆっくり離して、俺をジッと見つめた。

ゆらゆらと涙に赤い目を見ながら、俺は大きく頷いた。



「 あぁ、俺は人に媚びる事しか特技がなかったあのグランだよ。

サンは随分変わっちまって……まさかこんなにデカくなるなんてな……。

それに怖いヤツになってたし……? 」


「 ……っ!!も、申し訳ありませんでした!!

俺……知らずにグランに酷い事を……。

ど……どうしよう……。


何でもしますからどうかお許しを……! 」


せっかく少し治まってきた涙は、またゆらゆらとキレイな水で揺れ始めたため、慌てて気にしてない!と伝えたのだが……サンはやっぱり泣いてしまう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

ヤンデレ蠱毒

まいど
BL
王道学園の生徒会が全員ヤンデレ。四面楚歌ならぬ四面ヤンデレの今頼れるのは幼馴染しかいない!幼馴染は普通に見えるが…………?

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...