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真実の表側

30 願いは叶わないね

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「 おじさんは一週間分もポンッ!と泊まれちゃうんだから、結構冒険者としての才能あったんだね!

これなら来月も大丈夫そうじゃん!

家が買えるくらいになるまでウチに泊まってよ。

一ヶ月連続宿泊で、お昼のお弁当券10枚プレゼントするからさ! 」


「 そいつはお得だ。

なら、当分はここに泊まらせてもらうよ。

え~と、次の神王様の訪問は……。 」


俺は日付を確認しようと、忘れたフリをして壁に掛けてあるカレンダーを見た。

するとレイラは、呆れ果てた様な目で教えてくれる。


「 んもう~!おじさん大丈夫?!

神王様のご訪問は1週間後だよ。

その前日はお酒禁止!

更に街全体が19時には消灯しちゃうから、ホント気をつけてよ。

次の日は朝6時に起きて、そこから神王様が来てくださるまでは、祈り続けないといけないからね。

万全の体勢で挑まないと! 」


「 そ、そうだよな~。頑張らないと~……。 」


えっ?なにそれ??

思ったよりキツくない?


────なんていう心の声は決して漏らさず、ヘラヘラしながら無難な返事を返す。

レイラは、その返事に満足した様だが、苦笑いしながらため息をついた。


「 今までの最長記録は12時間だからね~。

その間トイレには行けないから、お腹壊すと大ピンチよ。

だからどんな荒くれ者でも、前日はお酒や無茶な暴飲暴食は避けるから、宿屋を経営している身としてはラッキーなんだけどね。

後は、なんたって神王様の姿を目にする貴重なチャンスだもの!

精一杯おしゃれして挑むわ! 」


メラメラ~!と目を燃やすレイラを見ながら、追加のパンを一口齧る。


どうやら神王様が実際に姿を現すのは、間違いない様だ。

そして精一杯おしゃれして~という言葉が出るくらいだから、もしかして若い娘なら見初めることもあるのだろうか?


そんな事を予想していると、なんだか神様に近いイメージだった神王様が、急に身近に感じてしまった。


「 俺は結構田舎からここにやってきたから知らない事が多いんだ。

ちなみに神王様に見初められる事って結構あるのか? 」


「 ううん。今の所選ばれた人はいないんだ。

ただ、本当に信じられない程かっこいいから、女の人たちが勝手な願望を持っているだけ。

イケメンの王様や騎士様とかに、普通の平民の女の子が選ばれて~なんて、恋愛小説だと定番じゃな~い! 」


今度は目をハートにしてうっとりしているレイラを見て、 ” 男は所詮顔か……。 ” と悟りを開き、美味しいパンをモグモグと平らげる。

しかし、上機嫌だったレイラが突然ズンッ……!と重苦しい空気を醸し出したので、俺は驚いてレイラに声を掛けた。


「 おい、どうした? 」


「 ……もしかして今月はお金を納めても、帰る人がいるかもしれない事を思い出して……。

ほら、先月総人口の数がオーバーしそうだって知らせが来たじゃない……? 」


「 …………。 」


総人口??

なんだか不穏な言葉が出てきたため、聞き返そうと思ったが、その直後に他のお客さんが入って来てしまったため、話はここで終わり。

レイラは直ぐに仕事に戻ってしまい、聞くことができなくなってしまった。


もしかしてお金だけじゃなくて、人の数にも制限があるのか……?


嫌な予感がしつつ、俺は一度部屋に帰った後直ぐに冒険者ギルドへと向かう事にした。



宿屋を出ると、徒歩5分の道のりを経てあっという間に冒険者ギルドに到着!

これは最高の環境だと上機嫌で、依頼が張られているボードを見上げ、自分ができる依頼を探す────フリをして周囲の様子を伺う。


まだ早い時間のせいで人が少ないためか、ギルドスタッフ達はお喋りをしていている人たちが多い様だ。

ペラペラと色々な噂話や世間話に花が咲いていた。


「 今月はセーフだったわね~。

まさか双子の赤ちゃんが生まれるなんて……。 」


「 ホントギリギリよ。

たまたま一人が寿命で死んで、その分の空きがあったから良かったけど……。

来月からまた出産制限期に入るって。 」


「 はぁ~……旦那との子供はまた見送りね~。 」


ヒソヒソと話される内容から、多分間違いない。


人口の数まで支配されているのか……。


ゾゾッと背筋を凍らせながら、また出ていた麦ダンコロ虫の依頼を持って受付へ向かった。


「 おはようございます。

昨日はよく眠れましたか? 」


また昨日と同じお嬢さんが対応してくれて、俺はニコニコしながら依頼書を渡す。


「 最高だったよ、紹介してくれてありがとう。

当分あの宿に泊まりながら依頼を受けると思う。 」


「 そうですか!

麦ダンコロ虫を捕まえられるくらいの実力があれば、このまま冒険者としてやっていけますよ。

その依頼、中々達成できる人がいなくて困ってたんですよね。 」


「 ほぅ?俺って結構凄い感じ? 」


初めて褒められた事が嬉しくて、ついニヤついた顔で聞き返すと、お嬢さんはしょうもないおっさんだなと言わんばかりにフッと笑った。


「 なんであれ、人と違う事ができるって凄い事ですよね。

今日も頑張って下さい! 」


「 ……はぁ~い。 」


調子に乗ったおじさんを嘲笑いもせず、無視もせず、ちゃんと励ましてくれる……。

まさしく受付の鑑!


スゴスゴと冒険者ギルドから出て、昨日と同じ街を出た先にある森へと向かいながら、俺はフッ……とある事に気づく。


戦闘能力は皆無だけど、この能力があれば、俺は広い世界へ旅に行けるんじゃないか?


その可能性が頭の中に広がり、思わず晴れ上がった青い空を見上げた。


ずっとずっと ” 力 ” がないから俺はどこにも行けなくて……生まれてからひたすら生きていくだけで精一杯だった。


だけど、人と違う事ができるこの ” 力 ” があれば……俺はどこにでもいけるかもしれない!


そう思いついた瞬間、自分のこれからの未来が ” 希望 ” によって光り輝き、なんとなく空に向かって手を伸ばしたのだが────……突然 ” 寂しさ ” が全てを飲み込み、キラキラと光っていた未来はドス黒く濁ってしまった。


俺は直ぐに力なく手を下ろし、全てを悟る。


俺の願い、” 空がどこまで続くのか知りたい。 ” は、もう過去のモノ。


それは形を変えて ” サンと一緒に空がどこまで続いているのか知りたい ” になっていたのだ。
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