31 / 70
真実の表側
30 願いは叶わないね
しおりを挟む
「 おじさんは一週間分もポンッ!と泊まれちゃうんだから、結構冒険者としての才能あったんだね!
これなら来月も大丈夫そうじゃん!
家が買えるくらいになるまでウチに泊まってよ。
一ヶ月連続宿泊で、お昼のお弁当券10枚プレゼントするからさ! 」
「 そいつはお得だ。
なら、当分はここに泊まらせてもらうよ。
え~と、次の神王様の訪問は……。 」
俺は日付を確認しようと、忘れたフリをして壁に掛けてあるカレンダーを見た。
するとレイラは、呆れ果てた様な目で教えてくれる。
「 んもう~!おじさん大丈夫?!
神王様のご訪問は1週間後だよ。
その前日はお酒禁止!
更に街全体が19時には消灯しちゃうから、ホント気をつけてよ。
次の日は朝6時に起きて、そこから神王様が来てくださるまでは、祈り続けないといけないからね。
万全の体勢で挑まないと! 」
「 そ、そうだよな~。頑張らないと~……。 」
えっ?なにそれ??
思ったよりキツくない?
────なんていう心の声は決して漏らさず、ヘラヘラしながら無難な返事を返す。
レイラは、その返事に満足した様だが、苦笑いしながらため息をついた。
「 今までの最長記録は12時間だからね~。
その間トイレには行けないから、お腹壊すと大ピンチよ。
だからどんな荒くれ者でも、前日はお酒や無茶な暴飲暴食は避けるから、宿屋を経営している身としてはラッキーなんだけどね。
後は、なんたって神王様の姿を目にする貴重なチャンスだもの!
精一杯おしゃれして挑むわ! 」
メラメラ~!と目を燃やすレイラを見ながら、追加のパンを一口齧る。
どうやら神王様が実際に姿を現すのは、間違いない様だ。
そして精一杯おしゃれして~という言葉が出るくらいだから、もしかして若い娘なら見初めることもあるのだろうか?
そんな事を予想していると、なんだか神様に近いイメージだった神王様が、急に身近に感じてしまった。
「 俺は結構田舎からここにやってきたから知らない事が多いんだ。
ちなみに神王様に見初められる事って結構あるのか? 」
「 ううん。今の所選ばれた人はいないんだ。
ただ、本当に信じられない程かっこいいから、女の人たちが勝手な願望を持っているだけ。
イケメンの王様や騎士様とかに、普通の平民の女の子が選ばれて~なんて、恋愛小説だと定番じゃな~い! 」
今度は目をハートにしてうっとりしているレイラを見て、 ” 男は所詮顔か……。 ” と悟りを開き、美味しいパンをモグモグと平らげる。
しかし、上機嫌だったレイラが突然ズンッ……!と重苦しい空気を醸し出したので、俺は驚いてレイラに声を掛けた。
「 おい、どうした? 」
「 ……もしかして今月はお金を納めても、帰る人がいるかもしれない事を思い出して……。
ほら、先月総人口の数がオーバーしそうだって知らせが来たじゃない……? 」
「 …………。 」
総人口??
なんだか不穏な言葉が出てきたため、聞き返そうと思ったが、その直後に他のお客さんが入って来てしまったため、話はここで終わり。
レイラは直ぐに仕事に戻ってしまい、聞くことができなくなってしまった。
もしかしてお金だけじゃなくて、人の数にも制限があるのか……?
嫌な予感がしつつ、俺は一度部屋に帰った後直ぐに冒険者ギルドへと向かう事にした。
宿屋を出ると、徒歩5分の道のりを経てあっという間に冒険者ギルドに到着!
これは最高の環境だと上機嫌で、依頼が張られているボードを見上げ、自分ができる依頼を探す────フリをして周囲の様子を伺う。
まだ早い時間のせいで人が少ないためか、ギルドスタッフ達はお喋りをしていている人たちが多い様だ。
ペラペラと色々な噂話や世間話に花が咲いていた。
「 今月はセーフだったわね~。
まさか双子の赤ちゃんが生まれるなんて……。 」
「 ホントギリギリよ。
たまたま一人が寿命で死んで、その分の空きがあったから良かったけど……。
来月からまた出産制限期に入るって。 」
「 はぁ~……旦那との子供はまた見送りね~。 」
ヒソヒソと話される内容から、多分間違いない。
人口の数まで支配されているのか……。
ゾゾッと背筋を凍らせながら、また出ていた麦ダンコロ虫の依頼を持って受付へ向かった。
「 おはようございます。
昨日はよく眠れましたか? 」
また昨日と同じお嬢さんが対応してくれて、俺はニコニコしながら依頼書を渡す。
「 最高だったよ、紹介してくれてありがとう。
当分あの宿に泊まりながら依頼を受けると思う。 」
「 そうですか!
麦ダンコロ虫を捕まえられるくらいの実力があれば、このまま冒険者としてやっていけますよ。
その依頼、中々達成できる人がいなくて困ってたんですよね。 」
「 ほぅ?俺って結構凄い感じ? 」
初めて褒められた事が嬉しくて、ついニヤついた顔で聞き返すと、お嬢さんはしょうもないおっさんだなと言わんばかりにフッと笑った。
「 なんであれ、人と違う事ができるって凄い事ですよね。
今日も頑張って下さい! 」
「 ……はぁ~い。 」
調子に乗ったおじさんを嘲笑いもせず、無視もせず、ちゃんと励ましてくれる……。
まさしく受付の鑑!
スゴスゴと冒険者ギルドから出て、昨日と同じ街を出た先にある森へと向かいながら、俺はフッ……とある事に気づく。
戦闘能力は皆無だけど、この能力があれば、俺は広い世界へ旅に行けるんじゃないか?
その可能性が頭の中に広がり、思わず晴れ上がった青い空を見上げた。
ずっとずっと ” 力 ” がないから俺はどこにも行けなくて……生まれてからひたすら生きていくだけで精一杯だった。
だけど、人と違う事ができるこの ” 力 ” があれば……俺はどこにでもいけるかもしれない!
そう思いついた瞬間、自分のこれからの未来が ” 希望 ” によって光り輝き、なんとなく空に向かって手を伸ばしたのだが────……突然 ” 寂しさ ” が全てを飲み込み、キラキラと光っていた未来はドス黒く濁ってしまった。
俺は直ぐに力なく手を下ろし、全てを悟る。
俺の願い、” 空がどこまで続くのか知りたい。 ” は、もう過去のモノ。
それは形を変えて ” サンと一緒に空がどこまで続いているのか知りたい ” になっていたのだ。
これなら来月も大丈夫そうじゃん!
家が買えるくらいになるまでウチに泊まってよ。
一ヶ月連続宿泊で、お昼のお弁当券10枚プレゼントするからさ! 」
「 そいつはお得だ。
なら、当分はここに泊まらせてもらうよ。
え~と、次の神王様の訪問は……。 」
俺は日付を確認しようと、忘れたフリをして壁に掛けてあるカレンダーを見た。
するとレイラは、呆れ果てた様な目で教えてくれる。
「 んもう~!おじさん大丈夫?!
神王様のご訪問は1週間後だよ。
その前日はお酒禁止!
更に街全体が19時には消灯しちゃうから、ホント気をつけてよ。
次の日は朝6時に起きて、そこから神王様が来てくださるまでは、祈り続けないといけないからね。
万全の体勢で挑まないと! 」
「 そ、そうだよな~。頑張らないと~……。 」
えっ?なにそれ??
思ったよりキツくない?
────なんていう心の声は決して漏らさず、ヘラヘラしながら無難な返事を返す。
レイラは、その返事に満足した様だが、苦笑いしながらため息をついた。
「 今までの最長記録は12時間だからね~。
その間トイレには行けないから、お腹壊すと大ピンチよ。
だからどんな荒くれ者でも、前日はお酒や無茶な暴飲暴食は避けるから、宿屋を経営している身としてはラッキーなんだけどね。
後は、なんたって神王様の姿を目にする貴重なチャンスだもの!
精一杯おしゃれして挑むわ! 」
メラメラ~!と目を燃やすレイラを見ながら、追加のパンを一口齧る。
どうやら神王様が実際に姿を現すのは、間違いない様だ。
そして精一杯おしゃれして~という言葉が出るくらいだから、もしかして若い娘なら見初めることもあるのだろうか?
そんな事を予想していると、なんだか神様に近いイメージだった神王様が、急に身近に感じてしまった。
「 俺は結構田舎からここにやってきたから知らない事が多いんだ。
ちなみに神王様に見初められる事って結構あるのか? 」
「 ううん。今の所選ばれた人はいないんだ。
ただ、本当に信じられない程かっこいいから、女の人たちが勝手な願望を持っているだけ。
イケメンの王様や騎士様とかに、普通の平民の女の子が選ばれて~なんて、恋愛小説だと定番じゃな~い! 」
今度は目をハートにしてうっとりしているレイラを見て、 ” 男は所詮顔か……。 ” と悟りを開き、美味しいパンをモグモグと平らげる。
しかし、上機嫌だったレイラが突然ズンッ……!と重苦しい空気を醸し出したので、俺は驚いてレイラに声を掛けた。
「 おい、どうした? 」
「 ……もしかして今月はお金を納めても、帰る人がいるかもしれない事を思い出して……。
ほら、先月総人口の数がオーバーしそうだって知らせが来たじゃない……? 」
「 …………。 」
総人口??
なんだか不穏な言葉が出てきたため、聞き返そうと思ったが、その直後に他のお客さんが入って来てしまったため、話はここで終わり。
レイラは直ぐに仕事に戻ってしまい、聞くことができなくなってしまった。
もしかしてお金だけじゃなくて、人の数にも制限があるのか……?
嫌な予感がしつつ、俺は一度部屋に帰った後直ぐに冒険者ギルドへと向かう事にした。
宿屋を出ると、徒歩5分の道のりを経てあっという間に冒険者ギルドに到着!
これは最高の環境だと上機嫌で、依頼が張られているボードを見上げ、自分ができる依頼を探す────フリをして周囲の様子を伺う。
まだ早い時間のせいで人が少ないためか、ギルドスタッフ達はお喋りをしていている人たちが多い様だ。
ペラペラと色々な噂話や世間話に花が咲いていた。
「 今月はセーフだったわね~。
まさか双子の赤ちゃんが生まれるなんて……。 」
「 ホントギリギリよ。
たまたま一人が寿命で死んで、その分の空きがあったから良かったけど……。
来月からまた出産制限期に入るって。 」
「 はぁ~……旦那との子供はまた見送りね~。 」
ヒソヒソと話される内容から、多分間違いない。
人口の数まで支配されているのか……。
ゾゾッと背筋を凍らせながら、また出ていた麦ダンコロ虫の依頼を持って受付へ向かった。
「 おはようございます。
昨日はよく眠れましたか? 」
また昨日と同じお嬢さんが対応してくれて、俺はニコニコしながら依頼書を渡す。
「 最高だったよ、紹介してくれてありがとう。
当分あの宿に泊まりながら依頼を受けると思う。 」
「 そうですか!
麦ダンコロ虫を捕まえられるくらいの実力があれば、このまま冒険者としてやっていけますよ。
その依頼、中々達成できる人がいなくて困ってたんですよね。 」
「 ほぅ?俺って結構凄い感じ? 」
初めて褒められた事が嬉しくて、ついニヤついた顔で聞き返すと、お嬢さんはしょうもないおっさんだなと言わんばかりにフッと笑った。
「 なんであれ、人と違う事ができるって凄い事ですよね。
今日も頑張って下さい! 」
「 ……はぁ~い。 」
調子に乗ったおじさんを嘲笑いもせず、無視もせず、ちゃんと励ましてくれる……。
まさしく受付の鑑!
スゴスゴと冒険者ギルドから出て、昨日と同じ街を出た先にある森へと向かいながら、俺はフッ……とある事に気づく。
戦闘能力は皆無だけど、この能力があれば、俺は広い世界へ旅に行けるんじゃないか?
その可能性が頭の中に広がり、思わず晴れ上がった青い空を見上げた。
ずっとずっと ” 力 ” がないから俺はどこにも行けなくて……生まれてからひたすら生きていくだけで精一杯だった。
だけど、人と違う事ができるこの ” 力 ” があれば……俺はどこにでもいけるかもしれない!
そう思いついた瞬間、自分のこれからの未来が ” 希望 ” によって光り輝き、なんとなく空に向かって手を伸ばしたのだが────……突然 ” 寂しさ ” が全てを飲み込み、キラキラと光っていた未来はドス黒く濁ってしまった。
俺は直ぐに力なく手を下ろし、全てを悟る。
俺の願い、” 空がどこまで続くのか知りたい。 ” は、もう過去のモノ。
それは形を変えて ” サンと一緒に空がどこまで続いているのか知りたい ” になっていたのだ。
87
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
神子ですか? いいえ、GMです。でも聖王に溺愛されるのは想定外です!
楢山幕府
BL
ゲーム会社で働く主人公は、新しくNPCの中の人として仕事することに。
全ステータスMAXのチート仕様で、宗教国家の神子になったのはいいものの、迎えてくれた聖王は無愛想な上、威圧的で!?
なのに相手からの好感度はMAXって、どういうことですか!?
表示バグかと思ったら、バグでもないようで???
――気づいたときには、ログアウトできなくなっていた。
聖王派と王兄派の対立。
神子を取り巻く環境は、必ずしも平穏とは言い難く……。
それでも神子として生きることを決めた主人公と、彼を溺愛する聖王のあまあまなお話。
第8回BL小説大賞にエントリーしました。受賞された方々、おめでとうございます!そしてみなさま、お疲れ様でした。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる