上 下
22 / 59
真実の表側

21 ありがとう

しおりを挟む
「 サン、こっちに来い。 」


手招きしてサンを呼ぶと、俺はそのまま自室である物置小屋へと戻る。

そしてへそくりを隠している床下の扉を開き、そこから全部の金を取り出して袋に詰め込むと…………その場所に、サンを押し込んだ。


「 いいか?サン、命令だ。

外の物音がなくなるまで、そこから絶対に出るな。

分かったな? 」


「 ……えっ?わ、分かりました……? 」


サンは訝しげな顔をしているが、隷属の証が発動した気配を感じたので、俺の許しなしでココから動くことはもう出来ない。

それにニヤッと笑うと、サンに回収したへそくりの一部を握らせ……そのまま扉を閉めた。

そして丁寧にカーペットを被せ、上にはロッカーを乗せてサンを隠す。


以前そこに入ってみた事があるが、空気は薄くても1日くらいは普通に隠れられそうだった。

多分ここなら、サンは見つからないはず!


俺は袋に入った金を握りしめ、バッ!とハウスの外に出ると、スキルが教えてくれる方向と反対方向へと全力で走った。


すると、馬の蹄の音や沢山のガチャガチャという金属音が近づいてくるのを感じながら、ハハッ!と笑う。



できるわけねぇじゃん。

サンを置いて助かるなんて!


追いかけてくる気配に恐怖を感じながらも、俺は大声で笑い続けた。


たった三ヶ月だが、サンと過ごした沢山の思い出が物凄い速さで頭の中で回っていく。


最初は復讐してやるつもりだったんだ。

自分が辛いばっかりの世の中で、自分が ” 辛さ ” を与える側になって笑ってやろうって。

そしたら今までの可哀想な自分が可哀想じゃなくなるって思ったから。


ハァハァと荒くなっていく息と比例して、服は汗で濡れていく。

ドコドコと心臓が痛くて、それでも胸を押さえて必死に走り続けた。


絶対に捕まるっていうのに、こんな逃げてさー……ほんと俺って惨めなネズミ野郎だよ。

ぺこぺこ媚び諂って、最後はこうやっていつも切り捨てられてゴミと一緒にポイっだ。

最高に惨め!


馬の蹄の音が後方で二手に分かれたのが聞こえ、前に回り込む気だと気付いたが、俺は前に進む以外出来ないためガムシャラに走る。


俺は最高に惨めで小さい男で……だからかな?

ヒュード達や他で見てきた上の奴らの様に、サンに嫌な言い方をしたり、わざと傷つく事を言っても全然楽しいと思えなかった。



そんな事よりよっぽど────……っ!!



突然進行方向から馬に乗った兵士らしき男達が飛び出してきて、とうとう俺の足は止まる。

そして一斉に剣を向けられ、そのまま青ざめて突っ立っていると、後ろから他の兵士達と……その先頭には馬に乗っている、やたら高そうな服を着た上品な男がいるのが見えた。


「 おい、お前はあの男の仲間の様だな。
   ・・
約束のモノはどこだ? 」


高慢ちきに質問してくる上品な男は、多分今回ヒュードが怒らせた貴族の男だ。

ゴクリッと唾を飲み込み、俺はメソメソと泣きながら土下座をする。


「 うわぁぁぁぁ────ん!約束のモノって一体何の事でしょうか~!?

自分はヒュードの所の下っ端でしてぇ~!朝起きたら、ヒュードは【 腐色病 】の小僧を連れて消えてたんですぅ~!!

それで俺だけ残されていたので、ハウス内の金を集めるだけ集めて、今飛び出した所で~す!! 」


ぺこぺこと頭を何度も下げながら、そう告げると、貴族の男は大激怒したようで、大きく顔を歪ませた。


「 ふざけやがって、あのクソ野郎っ!!!

この俺にそんな舐めた態度とった事を絶対に後悔させてやる。


────おい、直ぐにあの男の行方を探して、俺の前に連れてこい。

【 腐色病 】の実験体は絶対手に入れるぞ。 」


「 ────はっ! 」


俺はブルブル震えるふりをしながらほくそ笑む。


ヒュードはこのまま見つかってぶっ殺されるだろう。

そしてサンの方は、あの気配察知能力とあの多彩な能力があれば……多分逃げ切れるはずだ。

奴らがヒュードに釘付けになっている間に、きっと遠くへ……。


────ハハッ!ザマァミロ!!


最後の最後でしてやった事に、心の中でガッツポーズをしたが、直ぐに近づいてきた貴族の男に思い切り蹴られて、頭が真っ白になってしまった。


大きく飛ばされた俺は、そのままゴロゴロと転がされ木に激突!

息ができないくらいの衝撃で動けない。


こ、こいつ……戦闘系ギフト持ちか……?


貴族の男はゲホゲホと咳き込む俺に、間髪入れずにもう一発蹴りを入れると、そのまま俺の顔や体をボコボコに殴り始める。


合間合間に見える貴族の男の顔は────満面の笑みだ。


人を殴って凄く楽しいんだ……。

こいつもヒュード達と一緒。


激しい痛みで霞んでいく意識の中、俺はフッと自分の人生を振り返った。


カスみたいな能力しか得られず、ドブを這いずる様な日々を生きたクソ人生。

そんな中で生きて、だから俺は誰かを傷つける事を選んだってぇ~のに、そんなん全然楽しく思えない。


それよりよっぽどサンがくれる "  ありがとう "  の方が嬉しいと思った。


それだけで、もう心が満たされてしまったのだ。



幸せだなって。




────────ゴシャッ!!!


何本目かの骨が折れ、これは助からないなって確信して死を覚悟すると……腫れ上がって開けれない瞼の裏に写るのはサンの姿だった。


「 あ……りが……と……。 」


言葉も満足に発せられない中、最後の言葉に選んだのはコレ。


サンに ” ありがとう ” って伝えたかった。


誰にも必要とされなかった俺を見てくれて、一緒にいてくれてありがとう。

多分コレが本当の意味での、八つ当たりを決意した理由。


俺は誰かに自分という存在を見てもらって、俺はココにいる……この世界に存在しているんだって、きっと証明したかったんだと思う。


だからクソだと思っていた俺の人生は幸せで終わり!

サンが望みを叶えてくれたから。


真っ黒に染まっていく意識の中で、体中が熱くなって視界が一瞬真っ赤になったから……多分死因は焼死だと思う。


最後に見えたのが、サンの瞳の色と同じだったのが嬉しいって思ってしまい、なんか笑えた。




さよならクソ世界!

最後はクソ幸せな人生、ありがとう!!






痛いも熱いも、もう何も感じなくなって…………多分、これが ” 死 ” ってヤツ。


” 俺 ” という存在は、完全にこの世界から消えてしまった。










………………。










────────────カチッ!!!





カチッ……カチッ……カチッ……カチッ……。






────────??????




遠くの方でまるで時計の歯車の様なモノが回っている音が聞こえ、急速に消えていったはずの意識が戻って来る。



何だ?この音は……???



ボンヤリと霧がかかった様な思考の中……誰かの声が聞こえた。







《 ギフト【 渡り鳥 】のスキル条件を満たしました。


これよりスキル< 時渡り( 未来 ) >を発動し、肉体を完全再生し1000年後の未来へ渡ります。 》





神様のギフト【 渡り人 】



< 不遇ライフホーム >( 先天ギフトスキル )

現在存在している場所、状態にて、自身のステータス値に大幅な能力ダウンが掛かる永続型デバフスキル

現状を ” 渡る ” 事で元々持っているステータスとスキルが解放される




< 時渡り( 未来 ) >( 特殊ギフトスキル )

一定以上の不運状況において復讐を望まず、一定以上の幸福度を持ち、更に他者の代わりに命を失う事で特殊発動する特殊時間操作スキル

破壊された肉体を完全再生し、そのまま1000年後の未来へ渡る事ができる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

ヤンデレ蠱毒

まいど
BL
王道学園の生徒会が全員ヤンデレ。四面楚歌ならぬ四面ヤンデレの今頼れるのは幼馴染しかいない!幼馴染は普通に見えるが…………?

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...