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真実の表側

20 全て理解した

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「 神様ってさーすげぇ嫌な奴だよな。

だって力がある悪い奴ばっかり可愛がって……。 」


ブツブツと不満を呟くと、サンは不思議そうな顔を一瞬したが、そのまま何も言わずに俺に薬を塗られていた。

そして薬を塗った後は、少しでも薬の効果を出す為に包帯を巻き、その上に服を来てもらうと、俺はその場にゴロンと転がる。

するとそれを見計らって、サンがモソモソと隣に転がり、そのままくっついて小さなタオルをお腹あたりにかけるのが、俺達のスタンダード就寝スタイルだ。


くっつかないと上のタオルからはみ出ちゃうから仕方ない。

サンが風邪とか引いちゃうと俺の仕事が大変になるから!


心の中でブツブツと言い訳をし、そのままくっついてくるサンを引き寄せてやるとすると────サンは負けじと俺にギュッ!とくっついて、一人でタオルを占領するよりぽっかぽかになる。


────まぁ、悪くないか!


ホカホカ暖かいのは心もで、そのまま目を閉じてその心地よさに体を預けると、サンは独り言の様に話をし始めた。


「 こんな風に抱きしめて貰えたの初めてなんです。

ウチは貧しかったから……きっと両親は生きていくのに精一杯だったんでしょうね。

他の人たちだって皆そう。自分の事で一杯一杯。


……だから、きっと人を想う心って、自分に余裕がないと普通は生まれないんだろうって、そう思ってました。 」


「 あ~……そりゃ、そうだろう……な……。

皆、生きるのに……精一杯だから……。 」


ボソボソと小さな声で語るサンの声はちょうどいい子守唄だ。

俺の意識はゆらゆらと揺れながら沈んでいく。


「 でも、余裕がなくても人を想う事ができる人はいるんですね。

俺はそれって凄い事だと思います。

こんなにも綺麗な人が世の中にいるって気づけたんだから……俺は幸せです。


その想いだけで、幸せな人生だったって思ってます。

だから────……。 」



小さく囁く声は聞こえず、そのまま俺の意識は夢の中。

暖かい体温と心と……一人だった時には知らなかった幸せの感覚のまま眠りについた。




朝、日の出前────。


《 ピピピピピ────!!!! 》


頭の中に鳴り響く警戒音によって、俺の目はパチーン!!と勢いよく開く。


「 な、なんだなんだ!!?

一体何の警戒音が……??? 」


鳴っている警戒音は、俺の唯一持ってる便利スキル【 危険察知(微)】だ。



なぜ?

なんで今、それが鳴っている??


俺は飛び起き、物置小屋から外へ出た。

そしてキョロキョロと気配を伺ったが、いつもはうるさいほど響く、ヒュード達のイビキや歯軋りの音が、気味悪いほど聞こえない。


「 ────まさかっ!! 」


サンがむにゃむにゃと起きた気配を感じたが、俺は一人で急いで階段を駆け上がり、ヒュードの部屋のドアを思い切り開けた。

するとデスク机の上には空っぽになっている金庫箱があり、それ以外の運びやすい金目のモノは全てなくなっている。


「 ────っ!?ヒュードの奴、夜逃げしたんだ。

寝とった女の持ち主から逃げるためか! 」


ガリガリと頭をかきながら、あんにゃろう!と怒りに燃えたが、どうせ逃げきれないだろうと怒りをおさめた。


「 貴族はプライドの化け物だからな。

多分どこまでも追ってくる。

他国に逃げたっていつかは捕まるぞ。 」


ザマァミロ!と心の中で叫んでやったが……問題はなぜ俺のスキルが発動したのかだ。


つまり俺に命の危機が迫っているということ。

何かヒントはないかと、散らかっているデスクの上を注視すると、手紙くらいの折り畳んだ白い紙が、見ろと言わんばかりにポンっと置かれているのに気づく。


「 置き手紙か……? 」


俺はそれを手に取ると、直ぐに開いて中の文字を目で追った。


『 ドブネズミに殿を務めさせてやる。

その奴隷をこれから来る迎えに差し出せ。

それをくれてやるのを条件に、国外に出れば見逃してやると話がついている。

まぁ、普通に差し出すだけじゃー殺されるだろうが、いつもみたいに必死に逃げ切れよ、ドブネズミ♡   』


「 …………はっ?? 」


衝撃の内容に俺はポカンと呆けてしまう。

サンを迎えに渡す??

何で??



"   そいつは医術界隈では有名な貴族で、噂では奴隷や浮浪者を攫って人体実験してんだとか  "


突然フッと頭に浮かんだのは、ギルド職員のラルフから聞いた話だ。


まさか【 腐色病 】を患っているサンを人体実験用のサンプルとして売った……?


「 ふっ、ふざけるなぁぁぁぁぁ────っ!!! 」


怒りに任せ、ドンっ!!と机に拳ごと手紙を叩きつけた。


まさかそんな事を考えてサンを奴隷にしたのか?!

最初からこのつもりで??


あまりの事に目の前が真っ暗になる。


そのままブルブルとヒュードへの怒りで震えていると────……。


「 グラン様……? 」


俺を追ってきたらしいサンが、おずおずと話しかけてきた。


俺はハッ!として直ぐに手紙をグシャリと潰し、机の下に投げ捨てる。


「 あ、あ~……何でもない。

ちょっと虫がいたから叩いただけだ。 」


「 そうですか。

それより……随分沢山の人間がこっちに向かって来る様ですが、何のためでしょうか? 」


ギクっ!と肩を揺らしてしまったが、直ぐに誤魔化す様に肩をグルグルと回した。


間違いなくサンを回収しにきた奴らだ。

そいつらに捕まったら……もう逃げられない!


ガンガンと響く警戒音に酷い頭痛が始まり、もう悩んでいる時間はないんだと悟る。


今、俺のスキルが教えてくれる生存方法。

それは1つだけ。


"   サンをここに放置し、全力で反対方向へと逃げる事。

そして全てを捨てて、俺も国外へ逃げる事。 "


それしか俺の助かる道はない。

利用価値のない俺は、多分ヒュードのやった事への八つ当たりで見つかれば殺されるだろうから。


全てを理解した俺は、下に下がっていた視線を上に上げ、不思議そうに俺を見つめるサンを真っすぐ見つめた。
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