上 下
7 / 59
真実の表側

6 サン

しおりを挟む
「 お、おい、生きてるか? 」


するとその青年はピクリと目を僅かに見開いた様な気がするが、反応はない。

大丈夫なのか?と思ったが、手の甲に小さな魔法陣が描かれているのに気づき、あっ!と先程の商会の男の言葉を思い出した。


” だから一応、隷属魔法を掛けて一緒に運んでいました。 ”


奴隷魔法!

だから喋れないのか!


< 奴隷魔法 >

隷属の魔法を使い、その対象者を奴隷にする特殊魔法

その陣が刻まれてしまった対象は、自分の意思で動く事ができないため主人に許しを貰わないと喋る事もできない

更に主人となった者の命令には絶対に従う様になる


これが奴隷……。

ゴクッ……と唾を飲み込み、緊張でガチガチになってしまった俺とは対照的に、ヒュードは何でもないかの様に軽く商会の男に話しかける。


「 コレもあんたの商品だろ?

どこで売りに出すんだ? 」


「 あぁ、確かにそうだが……ここで破棄するよ。

商人だからあまり非現実的な事を言うつもりはないが、【 腐色病 】の者は周囲に災いを振りまくとも言われているからね。

現にこいつを受け入れた瞬間、ゴブリンに襲われてしまったし、なんだか気味が悪くて……。

どうせ買い取り先を探すのも大変だし、労力と収入が見合わないよ。

しかし────なぜそんな事を聞くのかね? 」


「 いやぁ~ちょっといいことを思いつきまして~。 」


ヒュードは何を考えているのか、ニヤ~と笑い、【 腐色病 】の青年を見た。

そして指を差しながら会長さんに提案を持ちかける。


「 でしたら、そいつ我々にくれませんかね?

ちょっとだけ使い道を思いついたので……。

どうせ破棄するつもりだったのなら良いでしょう?

生きていたら、もしかして逆恨みでもして何かしでかすかもしれませんし~。 」


「 ふ~む。確かにそうだな。

貰ってくれた方が私としては有り難いが……そんなモノ一体何に使うつもりかね? 

深く詮索はしないが……。 」


不思議そうな顔をする商会の男に、ヒュードは笑顔で答えた。


どうせ碌なことじゃない。


それが分かり、俺はヒュードから青年の方へ視線を戻し、うっすらと開いている目を再度見つめた。


運が悪かったな。

お前も……俺も。


同情の気持ちを持ったが、俺の様な何の力もない人間にどうする事もできずにただ見つめていると、ヒュードが今度は俺を見てニヤッと笑った。


「 ドブネズミ、ちょうどいいからお前が主人になれ。

そんで使う時が来るまで、死なない程度に世話しとけよ。 」


「 ────は……はぁぁぁぁぁぁ??? 」


予想だにしていなかった事を言われ、俺はポカンとしていたが、ヒュードがイラッとした雰囲気を出してきたので、俺は口を慌てて塞ぐ。


要はこの【 腐色病 】の青年を奴隷にしろと、そう言っている様だ。


そ、そんなめちゃくちゃな~……!


汗をダラダラ流しながら、物申したいが睨まれているため何も言えず……。

商会の男も驚いていたが、まぁいいか!と思ったらしく、なんとヒュードに ” どんな嫌な匂いも抑えます!消臭リング! ” などという、腕輪型のアイテムまで売り始めたのだから、空いた口が塞がらないとはこの事!


商魂逞しすぎる!


ブツブツ呟いている間に話はまとまった様で、ヒュードは商会の男から買い取った ” 消臭リング ” というアイテムを俺に投げ渡し、偉そうに言い放った。


「 それをそいつに嵌めてさっさと契約結べ!

俺達が戦利品を分けている間に終わらせろよ~?

面倒だったら足を切って部屋に転がしておいてもいいが、とにかく死なせるな。分かったな? 」


「 は……はいぃぃぃ~……!! 」


引きつった笑顔で敬礼した俺は、直ぐ奴隷の契約をしてしまおうと、魔法陣が書かれた手の甲をギュッと握りしめた。

奴隷の契約は、相手に一方的に魔力を流して名前をつけるだけなので、特に触れる必要はなかったが……何となくその存在に触れもせず勝手に名前をつけるのに違和感があったというか……相手の人生を決めるのにあっさりしすぎるのは嫌だと思ったからだ。


……まぁ、奴隷なんてモノにするのに、違和感もくそもないが。


「 名前はそうだな……うん、 ” サン ” にしようか。 」


俺の< グラン >というのは、大地という意味なのだが、実はいい意味でその名をつけたのではない事を知っていた。


地中から一生這い出れないミソッカス。

小さく生まれた俺に何の期待もせずにそう名付けたのだと、最後に直接言われたから。


だから、何となく正反対の意味でつけようかなと思ったのだ。


いつかきっと空に輝く太陽に手が届くぞという意味を込めて ” サン ”


……うん、悪くない。


名前をつけた時、その青年……サンの目が先程よりもっと開き、続けて俺に握られている手を睨みつけた。


自分が奴隷にされた事を理解し、多分戸惑っているのだと思う。

しかし、もうサンは俺の奴隷になった後で、手の甲の魔法陣はシューシューという音を立てて、契約完了してしまった。


「 ……あ……お、俺……。 」


ブルブル震えるサンを見下ろし、俺はチクリと胸を痛めたが、直ぐに気を撮り直し世の無情さをしっかり突きつけてやる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

ヤンデレ蠱毒

まいど
BL
王道学園の生徒会が全員ヤンデレ。四面楚歌ならぬ四面ヤンデレの今頼れるのは幼馴染しかいない!幼馴染は普通に見えるが…………?

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...