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16 嫁取りの終わり

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お、俺……なんか酷い事されたんじゃ……??



言いしれぬ嫌悪感というか……罪悪感というか……とにかく禁忌めいた事をしてしまったという感情が心の中を占めた。

体……主にお尻が痛くて死にそうで、それも合わさって、涙が止まらない。

グスグスと泣く俺にやっと気づいたのか、アレンが目を覚まし、泣いている俺を見てニコッと笑った。


「 今日はこの後、” 挨拶回り ” だね。

ちゃんとフカフカのクッション付きの< 揺りかご >を創ったから、心配しなくても大丈夫だよ。 」


「 あ……挨拶回り……?揺りかご……?? 」


泣きながらアレンの言葉を繰り返し、もう訳がわからず更に涙が込み上げる。


無事お嫁さんが来てくれたその日は、作った家の中で卵下ろしをする。

そしてそれが終わって夜が明けると、今度は皿に盛り付けられた貢物を持ってお嫁さんの実家へと行くのだ。

その時に用意するのが< 揺かご >と言われる荷台式の箱で、そこに、目一杯飾り立てたお嫁さんを乗せてモンスターに引っ張ってもらう。

そしてお嫁さんの実家についたら結婚の報告をし、貢物をその実家にプレゼントする……で、嫁取りの儀式は無事終了。

そのうち卵がやって来たら、そのまま家族として生きていくことになる。


「 さ、綺麗に飾ろうね。 」


アレンは今まで見たことがないくらいご機嫌でそう言うと、そのまま温泉で俺をピカピカに磨いてくれて、その後は白いフワフワドレスを着させられた。


未知の恐怖に震えながら、アレンの手から逃れようとしたのだが、何を勘違いしたのか、アレンは俺の尻を優しく撫でる。


「 ?どうして嫌がるの?

あー……もしかして卵下ろし、ゆっくりもう一回したいって事?   

……う~ん?

じゃあ、今日はこれからまた卵下ろしして、明日両親へ挨拶にいく? 」


「 ────っ~っっ!! 」


嫌な記憶がブワッ!と蘇り、俺は勢いよく首を横に振って否定した。


アレンは「 そう……。 」と残念そうにしながら、俺の頭に見たことがないくらい綺麗なお花を飾った。

そしてゴテゴテとリボンやアクセサリーをこれでもかとくっつけてきて、これまたゴテゴテと巨大な宝石がついた揺かごを持ってくる。


多分くっついている宝石一個で十世代くらい贅沢に暮らせるんじゃない?


そんな、値段がつけられないくらい高価な宝石達をボンヤリと見ていると、アレンはそのなかに、そっと俺を入れた。

そして車輪がついているその箱を、カラカラと押して外へ。


するとそこには────……ドス黒い怒りオーラで満ち溢れたお嫁候補達と、真っ青になっている男性参加者達がいた。


「 …………。 」


もしかして昨日からずっとここにいた??


既に心のキャパシティは一杯一杯。

正常な思考が停止した状態で、そんな事をボンヤリと考える。


そんな中で一斉に睨まれて涙が溢れ出し、またしてもギギャーン!!と大泣きしてしまった。


赤ちゃんに帰った?ってくらいの凄まじい泣きっぷりに、男性参加者とお嫁候補達の一部はオロオロしていたが、お嫁さん上位陣とナンバーワンのアンジェ様は動じない。


ギロっ!と殺気混じりに、俺を睨みつけながら口を開いた。


「 ……どういうことでしょうか?

聖なる儀式であるはずのお嫁取りに、男性でありながら浅ましくアレン様を誘惑するなんて……。

前代未聞です。

儀式を汚したその者に然るべき裁きを要求いたします。 」


ズンズンと気温が下がっていく空気の中、アレンは────────無視!


誰も存在しない様に、鼻歌を歌いながら外に繋がれている< クジャクック >を揺かごに装着した。


< クジャクック >

頭にカラフルな羽根を持ち、全体的にヒヨコの様な外見をしているモンスター

力が強く、歩き方に揺れが少ないため、馬車などを引かせると快適に移動できる

しかし、天敵も多いため普段は断崖絶壁の崖に巣をつくり暮らしている

逃げるスピードと回避率が高く、捕獲は非常に困難



「 ちょ、ちょっ……!!アレン様……?! 」


焦っているアンジェ様達を完全無視して、アレンは揺かごの後ろに沢山の荷台車を数珠つなぎで繋げていくと、その中に貢物が入った皿を次々と詰め込んでいく。

そして、そんなアレンに業をにやしたらしいアンジェ様や他の上位のお嫁さん候補達が声を荒げた。


「 ふざけるのも大概になさって!!

アレン様のお嫁になれば、我が家の地位はもっともっと上へと登ることができるの!!

なんとしてでもお嫁にならないと……困るのよ!! 」


「 我が家だってそうよ!!

一族総出でアレン様の加護化に入れてもらわないと困るわ!!

それを見込んで土地を買い込んだのに!! 」


「 アレン様に選んで貰えれば、国から援助金も出るんです!!

我が家の繁栄のためにどうかお慈悲を! 」


ギャーギャー!!と騒ぐ声の中を平然とクジャクックは進んでいき、恥ずかしいくらいに大泣きしている俺を乗せた揺りかごも進んでいく。


憎しみと怒りの視線の中、自分のあんまりな境遇に更に激しく泣いた。


今まで必死に努力して努力して努力して……。

毎日毎日アレンに虐められるわ、皆に無視されるわ、友達だってゼロの寂しい人生に耐えて耐えて……。

それでもお嫁取りに参加したら、現実を嫌と言うほど見せつけられて、やっと……やっと諦める事ができたのに……!!


「 あ、あ、あ、あんまりだぁぁぁぁぁ~!!!

俺、俺……おれぇぇ~……!ただ頑張っただけなのにぃぃぃぃ~!!

最後はこんな……こんな意地悪されて……俺、もう嫌だぁぁぁぁぁ!!! 」


ワンワン泣きわめく俺に、お嫁候補達の目は冷たいままだったが、男性参加者は正反対に温かい目で俺を見て、グスン……と鼻を啜った。


「 うんうん……お前は頑張ったよ……。

昨日だって一晩中抵抗してたんだよな……。

悲痛な悲鳴が怖すぎて、俺は寝れなかった。 」


「 ……俺、お前が殺されたか、拷問されてるのかと思った……。

正直儀式どころじゃなくなった……。

その……助けられなくてごめん。

アレン相手じゃ無理だから……成仏しろよ。 」


最後は一斉にペコリと頭を下げられ、更に遠くの方では、神官様がカツラを帽子の様に取って頭を下げている!


誰も俺を助けてくれる人はいない。


そう悟り、俺は揺りかごの中で啜り泣きながら丸まった。
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