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12 絶句

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◇◇◇◇


約三ヶ月後────。


「 ……あと2日で終わりか……。 」


三ヶ月に渡る嫁取りも、ついにあと2日残して終わりを告げる所まできた。

暗い暗い家の中で、俺は自分の痩せてしまった手をボンヤリと見下ろしていた。

一応三人くらいは入れる穴を広げたつもりだが、増殖したキノコと集めた貯水の実や燃やす用の木々などが散乱していて、俺の寝るスペースすらままならない程。


「 …………。 」


ひどい状況の家の中……いや、穴の中を見渡し、じわじわと出てくる涙を乱暴に拭き取った後、穴からピョコッと顔を出す。

すると、俺の皿の上には、嫁取り2日目に手に入れた深淵のジャガーが一番目立つ所に鎮座していて、後はストロべーリの実やベリベリの実、そして育てたキノコに豆麦虫をすりつぶして作った団子が置かれていた。


これが俺の用意できた精一杯の貢物……。

しかも無理をして集めているせいで、自分で食べる分は殆どない。


つまり────これで俺には結婚する資格がないのだと言う事を思い知った。


「 これじゃあ、せっかく俺を選んでくれた人を不幸にしちまうもんな……。

…………そっか~……うん、俺は結婚しちゃ駄目だ。

……悲しいけど、やるだけやって無理だったら仕方ない……俺、俺……。 」


座り込んで、ギュッと体を抱きしめてそのままひたすら泣く。


力がない自分が悲しいし、悔しい。

一生懸命やってもどうしようも出来ないことが、ただただ悲しくて涙が止まらない。

薄暗い穴の中でグスグス泣き続けたが、その後、勢いよく顔を上げた。


「 うん!俺は頑張った!だから悔いなし!

今度はエデンで出来ることを探そう。

新しい夢を作って、面白おかしく人生を生きるんだ。 」


キラキラと目を輝かせて穴から出ると、隣にはアレンの豪邸がドドン!と建っていて、太陽は遮られてしまう。

更に家の前に置かれている皿は異例中の異例。

一人一皿が一杯一杯な中、見渡す限り霜降りの巨大肉や宝石、それにふさふさの毛皮や希少価値が未知数なくらい、見たことがない素材の数々が山の様に積まれている皿だらけで、何枚あるか分からないくらい。


「 …………。 」


その圧倒的な存在を前に、俺は無言で穴の中に戻る。

そして屋根にしている葉っぱの隙間からジー……と貢物が盛り盛りのお皿達を見つめ、怒りと嫉妬の心が燃え上がるのを感じた。


「 あ……明らかに見せびらかしている……。

何で俺なんかに見せつける様に置くんだ?

────あんまりだ!

でも……意地悪な奴の方が、どうして何でも持ってんだよ……。

神様……そりゃーないだろう? 」


またグスグス泣き続けたが、結局現状は変わらない事はよく知っている。

だからモゾモゾと穴から出ると、今度はアレンが立ってこちらをジッと見ていた。


「 な……なんだよ。 」


今一番見たくない顔を見せられて、つい刺々しい言葉を言ってしまったが────アレンは何も気にしている様子はなく、自分の霜降り肉の塊が山の様に積まれた皿を、突然俺の家に近づける様に動かし始める。


────ズッ!ズッ!ズズッ~……!!


そして俺の家の穴のすぐ目の前で、それを見せつけ────ニヤッ……と笑ったのだ。


もうね、俺、絶句したよね。


アレンの性格が悪過ぎて!


「 あ……ぐ……グググ~……。 」


飢えている俺の前に肉を置く。

口の中は唾液で溢れ、それでも必死に飛びつきたいのを我慢し、俺は無様に走ってその場から離れた。


「 クソ、クソ、クソぉぉぉー!!

アレンの奴!アレンの奴ぅぅぅ~!!!

最低……最低だぁぁぁぁぁ!!!あんにゃろう!! 」


俺は貯水の木の所まで走り、石をブンブン投げて実を落とす。

頑張って石を、何度も何度も投げて投げて……最近では50発くらい当てれば落とせる様になった。


ポコッ!と落ちた実を拾い挙げ、その後は豆麦虫を捕まえたり、食べられる実や雑草を集めて、家に帰る。

そして綺麗なモノは皿の上へ。

見た目が悪いモノや不味い雑草は俺のご飯。


そしてボロボロの手で必死に木の棒を擦って火をつけると、雑草を炙ったり、穴の中に生えているキノコを食べた。


そんなだいぶヘルシーなご飯の後は、綺麗な石や花など、とにかく頑張って集めて自分の全力で皿の仕上げに取り掛かりながら、他の参加者達の皿もチラチラと観察する。


やはり皆メインはモンスターの肉で、それを磨いたり霜降りを綺麗に魅せるカットをしてみたりと、それぞれ工夫している様だ。

更に2番人気のレアな宝石や鉱石に至っては、それを綺麗にカットし磨き上げ、ネックレスに加工したり指輪にしたりと、それを肉の隣に置いて目立たせようとしている。


俺は自分の作ったビータマ栗の種を使ったネックレスを見下ろし、ガクッ……と肩を落とした。


< ビーダマ栗 >

小さな栗に似た実をつける食用の実

その種はまるでガラス玉の様な形をしていて、簡単に手に入るため、アクセサリーとして人気がある



「 他のみんなも凄いや……。 」


死んだ目でハハッ……と笑ってしまったが、エデンに行く前に全力で頑張ろうと誓い、ネックレスを布で必死に磨き続ける。


そして、アレンはその間中、自分の家から俺を嫌そうな顔で睨んでいた。

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