上 下
11 / 35

11 願うモノ

しおりを挟む
( ヒカリ )

何度突き放しても態度が変わらない変な異世界人【 イシ 】

外見も中身も特に何も突出したものを持っていないし、中年だし、うっとおしいし、騒がしいし、いいところが一つもない。


” 可哀想 ”


最初神に召喚された時に思ったのはこれくらい。

でも別に同情心とかはなくて、ただ生きていくのに辛い存在に対してのただの感想だ。


俺は差し出されたイシの料理を淡々と口に入れながら、なんとなく昔の事について考えていた。


物心ついたときから俺は人々の神様。


” 勇者 ” という宿命を背負い、世界の苦しむ人達を救うのが役目なのだそうだ。

そのための ” 力 ” は自分の中にあり、なんでも願えば叶える事ができた。


それを見て誰もが俺を褒め称え、拝める。


” 何故できないの?? ”


他人に対してそう思う事はそれくらいで、でも次第にその理由も理解していった。


” 自分は選ばれし勇者で凄い存在だからそれが当たり前なんだ。

自分は凄い!だから誰もが俺を崇める! ”


モンスターを倒すなど自分にとっては呼吸をするくらい簡単な事なのに、皆はあっさりと殺されてしまう。


弱くて可哀想

力を持たない事は酷く残念な事


そう思っていたのだが……ある日、突然自分の前に一本の境界線がある事に気づいた。


なんだろう……この線は?

その下を走る線をジッと見下ろすと、突然その線の向こう側に沢山の人達が現れる。


顔を上げれば、自分を尊敬の眼差しで見つめる王様や神官達、騎士達や今まで助けてきた国民達、そして熱がこもった目で見てくる沢山の女達。


” 勇者様がいれば安泰だ。全ておまかせしよう ”

” 世界を救う聖なる存在が勇者です。

弱気を助け勇気を与える存在に──── ”


” なんて素敵なんでしょう。

是非隣に立つ存在になりたい。

私ならあなたの全てを理解し一緒に歩んでいけますわ ”


いつも通りの皆から投げられる想い達は、俺ではなくただこちら側へと投げつけられるだけで、俺がそれを返そうと思っても、次から次へと投げ込まれてしまう。


────そっか、俺からの答えは貰うつもりがないんだ。


それに気づくと俺の身体は2つに分裂してしまった。


一つは皆の方を向いて、置いておくだけの ” 理想 ” の飾り物の俺。

そして、そんな皆方へ背を向けて何もない場所をただ見つめているだけの俺。


皆は偽物の理想の俺に向かってずっと想いを投げ続け、理想の俺はそれを見ながら立っているだけ。

一方にしか向かない想いは、客観的にみれば酷く歪な関係性だと思った。


そして────俺にはそれしか与えられないことに気づくと、自分の手には何もない事に気付いてしまう。


誰も彼もが俺を求めているのに、何で俺の手には何もないんだろう?



その時一番に思い出したのは俺の両親の事で、漠然と────。 

” 自分をこの世に産みだしてくれた人達はきっと自分に何かを与えてくれるはず ” 

そう思って初めて俺は自分の足で両親に会いに行った。


するとそこには……自分以外で完成された家族がいた。


両親や初めて会った俺の弟と妹達は泣いて喜び、そのまま俺に向かって拝む。


” 神の選びし勇者様、出会えた事に感謝を ”

” どうかこれからも我々家族を見守り下さい ”


そう俺に祈りを捧げる ” 家族 ” を見て、もう ” 家族 ” でない俺には────何も与えられないのだと理解した。



それからはただ一方的に投げられる想いを、拾う事も受け取る事もせずに放置してたまま時が過ぎていく。


各地で発生するモンスター被害は増加の一途を辿り、とうとう勇者がその原因でもあるユニークモンスター討伐の旅に出よという神託が突然空から舞い降りた。

空に向かって跪く人々を尻目になんとなく……。


” 神を消せば何か変わるだろうか・・? ”


そう思ったが、続けてこんな神託が神から告げられる。



” 明日の明朝、王宮の王の間で勇者への贈り物を授けよう

その物は勇者の願うモノを与える存在である ”

────と。


この時はもう既に自分が望むモノなど忘れてしまっていたが、少し興味が湧いたため、その場は大人しくする事にした。


そして次の日の明朝、王の間に王や神官達、総出で集合してその時を待つ。

神官や王、騎士たちも全員が俺に視線をチラチラと送り、緊張している事が分かっていた。


その瞳に映るのは、尊敬、憧れ、そして────恐怖だ。


自分達では倒せぬモンスターを一撃。

更に無感情で戦う俺の姿は恐怖を感じるモノの様で、誰もが俺を怒らせない様に……そしてあわよくば気に入られたい、その恩恵を得たいという野心の様なモノも感じる。


以前はそんな様々な欲望が一致し、王から志願があった女性たちを集めて王宮の一角にその専用の城を建てないか?と申し出もあったが…… ” そんなゴミみたいなモノを贈られても困る ”

そうハッキリ告げると、王は慌てて謝罪を申してきたが、俺はそのままその場を立ち去った。


そんな俺に ” 願うモノ ” を与えてくれるというのだ。

一体何を俺に与えてくれるのか?


多少の期待を持ってその時を迎えたのだが、何とやってきたのはただの中年男。


ソレは俺の願うモノどころか何一つ持ってない男だったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

処理中です...