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第四十一章

1329 全ては救えない

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( ジェニファー )


「 竜相手では進行を遅らせるので精一杯か……っ。 」


ヨセフ司教は流れる汗を乱暴に拭うと、直ぐに同時に回復魔法も掛け始め、それに続いて神官長のレンジュと他の手が空いている神官達や回復班達も一斉に回復魔法を掛けた。


勿論私も直ぐにそれに混ざって回復魔法を掛けると、なんとか手足の腐敗は止まり少しだけ良くなった様に見えたが、依然兵達は苦しみ続けている。


そんな兵達を見ながら呆然と立ち尽くしていたおかっぱ頭の少女は、ハッ!!とした様子で、苦しむ兵達に駆け寄った。


「 全員守備隊の盾班だ!

な……なんでこんな……回復魔法も効かない攻撃なんて……。

皆……どうしよう……! 」


少女は目に一杯涙を浮かべながら叫び、自分も必死に回復魔法を開始する。

すると苦しそうに顔を顰めている守備隊員の一人が息も絶え絶えな様子で、先ほど正門で起こった事を説明しだす。


「 ……くっ……!りゅ、竜が……。

妙な……魔法を……黒い雨が……降って……。

俺達が盾班が ” 犠牲の大盾 ” で……防いだが……ここまで……か。 」



( 合体スキル )

< 犠牲の大盾 >

武器指定【 盾 】、更に守護に関するスキルを持ち、一定以上の防御力、不屈、頑固、慈愛、精神力、耐久力を持った者達が50人以上揃う事で発動する合体スキル

物理、魔法、状態異常、呪い、ありとあらゆる攻撃を防ぐ事ができるが、発動中の術者の体力、防御力が尽きれば、その全てを身代わりとして背負う事になる

扱いを誤れば、死に至る身代わりスキルの一つ



────ゲホッ……!


そこまで話し終えた後、守備隊員は大量の血を吐き出し、倒れてしまった。


その姿を見て周りの人たちは一気に血の気を失くす。


スキル< 犠牲の大盾 >は最前線を守る盾班の最強の防御スキルかつ、身代わりスキル。


ここに運び込まれた数十人の守備隊員達は、恐らく竜の攻撃から仲間を守ろうと、その身を犠牲にした者達だ。


「「「 …………。 」」」


ここまでその守備隊員達を運んできた兵達は、静かにその体を下に下ろすと、悲しみに耐える表情を見せた。


「 こいつらがいなかったら正門で戦っていた俺達は全滅してた。

最初にこれを食らった後も限界まで攻撃を肩代わりしてくれて……。

……何もできなくてすまない。

────後は任せてくれ! 」


兵たちは横たわったまま息を吐いている守備隊員達に向かい、最大限の敬意を払い胸に手を当てて敬礼すると、守備隊員達は瀕死の状態にも関わらず、無事な兵達にむかって拳を握って見せる。


” 後は任せた! ”

そう伝えられた兵達は、直ぐに正門へ繋ぐ魔道路へと走り、戦いが続く戦場へと戻っていった。


絶望的な状況を悟ったおかっぱ頭の症状はポロポロ泣きながらその場に崩れ、それをポニーテールの少女が支える。


「 ヨ……ヨセフ司教……これ、治す事ができないんですか……? 」


ポニーテールの少女が、泣きそうな顔でそう尋ねると、ヨセフ司教は悲しげに首を横に振る。


「 【 天の涙雨 】は猛毒性を持った精神攻撃です。

だから普通の解毒薬や解毒スキルは一切効かない……。

唯一効果があるのではと言われているのが、精神攻撃耐性作用を持つ素材────。


< 女神のフリル >です。


しかし、魔素の非常に濃い場所に生えているため、そもそも入手難易度はSランク……勿論解毒薬の調合に成功した事はありません。

……正直……助かるのは……厳しいです。 」


ハッキリと告げられる言葉に私達は、全員絶望感に打ちひしがれ下を向く。


< 女神のフリル >

入手難易度が高く、滅多に見つかる事がない希少素材……。

そんなモノがこの場にあるわけもなく、更に手に入れたとしても解毒の調合に成功した事すらない。


” この人たちを助ける事はできない。”


その事実は重くのしかかり、苦しむ守備隊員達を見ていられなくて、目を逸らそうとしたその時────……突然ポニーテールの少女が、より一層強い魔力を練って回復魔法を掛け始めたのだ!


そこで自分の回復魔法の精度が落ちていた事に気付いた私は、直ぐにその精度を上げて回復魔法を続ける。

そして、その少女の泣きそうだが確固たる意思を持って治療を続けようとする姿に胸を討たれた。


自分はまだ辛いからといって逃げようとしたのか……。


自分の弱さをまた見せつけられて、グッ……と唇を噛むと、そのポニーテールの少女は、守備隊員の体を苦しめる鎖の様な黒い文字を睨む。


「 ……絶対……絶対に諦めたりするもんか!

だって回復班は最後の砦なんだって……昔お父さんが言ってたから……っ。

聖女は諦めたら駄目なんだ。

だから苦しいのも悲しいのもふっ飛ばして……ここで踏ん張る! 」


「 リーンちゃん……。 」


ポニーテールの少女の名前を呼んだおかっぱ頭の少女は、グイグイと乱暴に自分の涙を拭い、直ぐに回復魔法を再開した。


それが無駄な事はこの場の誰もが知っている。


しかし、一人、また一人と他の人たちも、自分の持ちうる最強の回復魔法やスキルを掛け始め、回復魔法が使えない者達も必死に介抱し始めた。


” 回復班は最後の砦 ”


つまり死地に一番近い場所といえるこの場所で止めなければその先はない。

そして聖女とはその中心に立ち ” 人を救い邪を払う者 ”


……全てを救う者ではない。

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