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第四十章

1279 意思がある世界

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( クルト )

俺の話を聞いたフラン様は、全国をフラフラ旅していた俺にわざわざ会いにきてくれた。


その時に聞いた話に非常に感銘を受けた俺は、フラン様の手を取り、同志としてこれから自分にできる事を探そうと決意する。

そうしてライトノア学院へとやってきたのだが……そこでは今まで培ってきた処世術は何ひとつ通じなかった。


まずはほぼ同期で入ったルーン。

彼女は平民には珍しい魔法に特化した能力を持っていたため、俺はそれを素直に凄いと口にした。


「 君の魔法は凄いね。

独学でここまでの実力をつけるなんて驚いたよ。 」


そう言ってニコッと笑いながら手を差し出した瞬間────ルーンに容赦なく殴られる。


何の前触れもなくぶん殴られた俺。


俺は変な事はいってない。

なのに殴られた。


尻餅をついてポカンとしていると、ルーンは俺をビシッ!と指差した。


「 気持ち悪りぃ男だな!

本音をぶつけてこい!!アタイ達は今日から仲間だろう!! 」


「 ??????は、はぁ??? 」


意味がわからず呆気に取られている俺に構う事なく、ルーンは、帽子の中から酒を取り出すとグビグビと一気に飲みだす。


「 じゃ、これから宜しくな!今度は腹を割って話そうぜ!相棒! 」


「 ……う、うん。 」


それだけ言ってルーンは酒を飲みながら、俺の肩をポンポンと叩いて去っていってしまった。

初めて受ける扱いに凹み、トボトボと歩いていると────……。


「 あらら~大丈夫? 」


突然後ろから女性の声がして振り返る。

するとそこには笑顔のレナが立っていて、レナは俺の腫れた顔を見て直ぐに手当てをしてくれた。


「 すまないね。

手当してくれて助かったよ。 」


念入りに顔に塗り薬を塗ってくれるレナにお礼を告げると、ニッコリ笑顔のレナが突然「 あっ!! 」と慌てた様子で叫ぶ。


「 やだ~。こめんなさ~い!

間違って水虫の薬塗っちゃったみたい。

どうしましょ~。 」


顔に水虫……。


恐ろしい出来事にサァァァ……と青ざめると、レナはシクシクと泣き出し両手で顔を覆い────……。



「 う・そ♡  」



その直後にレナは顔を覆っていた手を────パッ!と外し、ニコニコ笑顔で可愛いハートマークが付いているシールを俺の鼻にぺとッと貼る。


目が点になっている俺を見て、レナは大爆笑し始めてしまったので、俺はまたトボトボ歩いてその場を去った。


それからは、ルーンからは常に俺に魂のぶつかり合いを強要され、レナには巧みな嘘をつかれて笑われ……。

そして一番理性的だと思っていたセリナには、突然拉致されて戦わされる。

何だか貴族時代の時と変わらず、人に振り回される毎日ではあったが、ここには俺の  "   意思 "    があった。


仲間達は一度も俺の "   意思 "  を抑え付けようとした事はなく、かといって自分の "   意思 "  を抑えることもせず、常に最善であろう関係性を築こうとしてくれる。

そうして生まれたのが、 ” 信頼 ” という絆だった。


信頼できる最高の仲間達の元、俺は自分が本来持っていたはずの気質をゆっくりと掘り出していく。


俺が好きな事、嫌いな事。


それが分かってくると、自分という存在がこの世界にちゃんと存在しているんだと思える様になった。


意思なき自分は、世界に存在しない ” モノ ” だった。


何も考えず、抗う事もせず、誰かが都合よく使うだけの一時的な道具として宙に浮かんでいたのだから、そりゃー周りにとっての世界はうまく回る!


あまりの滑稽さに笑ってしまったが、俺はたまに、フッと挫けそうになった時は、必ず空に向かって叫ぶ様にしてる。


「 俺はもう大丈夫!! 」





「 ────俺は ” 大丈夫 ” 。

だから、コイツは絶対にココで食い止めてみせるさ。

もうあのクソ野郎共の都合の良い世界を作ってやるものか。 」


俺は目の前に現れた白い紙の様な外見をしたSランクモンスター< ナイト・カゲロウ >を睨みつける。


こいつは恐らく、何らかの有機物?であるという、生を持つモノとしては定義が非常に曖昧であるモンスターだ。


俺は頭の中で、この< ナイト・カゲロウ >についての話を、ボンヤリと思い出す。



確か以前こいつが魔素領域との境界線で姿を現した際は、最初大きなシーツが風に乗って飛んできたのだと思ったらしい。

そのため、世界の境界線の最前線に配備されていた犯罪奴隷たちは、特に警戒しなかった様だが、その結果────全員が根こそぎ食べられてしまったのだ。


結局その時は、犯罪奴隷達を全員お腹一杯捕食した< ナイト・カゲロウ >をそのまま無事追い返す事ができたらしいが、その時判明したヤツの特性は酷く厄介なものだという事が判明した。

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